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再会

維心は、奥の応接間へと取って返し、そこから美加とミハイルを連れて自分の居間へと帰った。

維月は、維心が帰って来たので立ち上がって頭を下げたが、その後ろに美加が居るのを見て、慌てて顔を上げた。

「美加…?!」

維月が、思わず呼びかけて足を踏み出すと、美加が涙ぐんで頷いた。

「はい、お祖母様。ご無沙汰いたしておりました。」

維月は、見る見る目に涙を浮かべると、駆け寄って甲冑姿の美加を抱きしめた。

「ああ、案じておったのよ…!無事で良かったこと…!あなたばかりが、なぜにこのように苦労を背負わねばならぬのかと…。」

美加は、涙を流しながら、維月を抱きしめ返して、首を振った。

「苦労などとは思うておりませぬ。ヴァシリー様は、もう老いて先が長くなかった。我にとり、ミハイルが生き残っておってくれて、こちらで助けて頂いて、これほどに幸運なことはありませぬ。これでヴァルラム様とヴァシリー様の血筋を、絶やさずに済んだものと…。」

維月は、美加を放さなかった。

「ようここまで参ったこと。ミハイル殿を連れて逃げて参ったのは立派なことよ。きっとヴァシリー様もあちらで安堵していらっしゃるかと思うわ。あなたが妃で、誇らしいと思われておってよ。」と、体を放して、美加の頬を両手でそっと挟んだ。「よう頑張ったこと…気を張っておったのでしょう。こちらでは、ゆっくりして良いのよ。維心様の結界内で、おかしなことなど起こりませぬから。きちんと眠っておる?私が部屋の褥も良いものに換えるように指示してありますゆえ…。」

美加は、涙を流したまま、子供のように微笑んだ。

「お祖母様ったら…我はもう子供ではありませぬのに。そのように案じてくださらなくとも、大丈夫ですわ。」

ミハイルは、後ろでそんな二人を黙って見ていた。心なしか、目元が潤んでいるようにも見える。維心が、割り込んだ。

「積もる話もあろうが、主も言うておったように二人とも疲れておるのだ。とりあえず、必要なことを話そうぞ。」と、ミハイルを見た。「ミハイルとも、挨拶はせずで良いのか?」

維月は、美加と共にミハイルを振り返った。ミハイルは、頭を下げた。

「母から聞いておりまする。大お祖母様。」

維月は、微笑んだ。

「お祖母様で良いのよ。大きくなったこと…本当に小さな赤子であったのに…。」と、その深い青い瞳を見た。「維心様と同じ色になっておったなんて。生まれた時は、どちらかというとヴァシリー様に似ておったのよ。」

維心は、維月の肩を抱いて、頷く。

「後から出たのであるな。ミハイルは龍ではないが、この瞳の色は確かに我ら龍の王族の血がその身に潜んでいると知らせるためのもの。話しておって思うたが、こやつは気質が我らに似ておるようよ。形はヴァルラムを思わせるのに…不思議なものよ。」と、いつもの定位置のソファへと促した。「さあ、座れ。話さねばならぬ…少し長うなるぞ。」

維月は、美加を見た。

「美加は疲れておるのでしょう。お話に付き合わせても良いのですか。」

それには美加が苦笑して首を振る。

「お祖母様、大丈夫ですわ。我は長く軍で王と共に戦っておりました。少しぐらい寝ずでも戦えますの。ましてお話をするぐらいでありましたら、大丈夫ですわ。」

維月は気遣わしにしたが、それでも維心に促されるままに正面のソファへと座る。ミハイルと美加は、維心が手で示した通りに、その対面の椅子へと並んで腰かけた。

「維月、主には話しておらなんだ。北西の神の事なのだがの。」

維月は、頷く。

「はい。維明から聞きましたわ。あちらにも神の王がいらっしゃるのですね。一切関わらぬという約定なのだとか…なので聞いたことは私もまだ、十六夜にも申しておりませぬ。維明がそう申すので。」

維心は、知っていたのかと眉を上げた。

「維明が言うたか。しかしまあ、月なら見ようと思えばいくらでも見えようし、碧黎だって言わぬだけで知っておろうから、知るのは良いのだ。我が神世の王達にその存在を言わぬという約定であったゆえな。とはいえ、此度、それも関係無うなった。」

維月は、口元を袖で押えて目を丸くした。

「え、あちらの王が交流しても良いとおっしゃったのですか?」

維心は、頷いて対面に座る美加とミハイルを見た。

「あちらの王、匡儀と申す。主らが目通りしたのもこの王ではなかったか。」

ミハイルが、頷いた。

「は。大変に気の大きなシルバーグレーのような黒髪で、鳶色の瞳。維心殿によう似た雰囲気で…我らが、その結界外で南東の島へ渡るために通して欲しいと願ったら、わざわざ軍神を連れて出て参られて。話を聞いてくだされた。そうして、どこを通れば良いのか、軍神の明羽が案内してくれ、その道を母と二人で参ったのです。」

維心は、頷き返した。そして、自分を見上げる維月を見た。

「その、匡儀という王が箔炎に案内させてこちらへ渡って参ったのよ。先ほどまで、話しておった。こちらに手を貸してくれると申す。というのも、こちらをもしもヴィランの手に落ちでもしたら、あちらまで迷惑を被ることになるやもしれぬからぞ。それに…匡儀と、我らは同族なのだ。」

それには、維月も美加も、ミハイルも驚いた顔をした。そして、維月が言った。

「同族とは…匡儀様も、龍であられまするか。」

維心は、頷いた。

「正確には、白龍ぞ。向こうから見たら我らは青龍ということになるのだろうの。生まれてこのかた、我とて龍は我らしか見た事がなかったゆえ、聞いた時には耳を疑ったが、しかし気が似ておるし同族だ、と理屈でなく理解したわ。だからこそ、手伝ってくれる気にもなったようぞ。」

維月は、また新しい神が、と少し不安になった。それでなくても、北の大陸の神達との交流も、それほど密には行っては来なかったし、全てを把握している訳では無かった。そこを統治しているドラゴンの王が、こちらに好意的であったからこそ、そこから情報をもらってそれで良いと思っていたからだ。

それが、今回このような事になり、いろいろな神達とも交流を持っておかなければ危ないことが分かった。

もしかして、北西もそうではないだろうか。北が荒れている今、またそこへ新たに北西の神達まで増えて来たなら、全てを把握するなど無理なのではないだろうか…。

維月は、不安げに維心を見上げた。

「維心様…その、匡儀様とおっしゃるかたを、ご信頼してよろしいのでしょうか。このような事態に陥っておって、北のこともしっかりと把握できておらぬのに、いくら同族とはいえ、更に新しい神達と交流を始めるなど…リスクが高いのではありませぬか。」

維心は、不安げな維月に、苦笑して頭を撫でた。

「主は思慮深いゆえの。分かっておる。しかし、このままでは我ら龍族の負担が重くなり、完全に守り切れぬ恐れがあるのだ。水の中が得意なのは、龍族しかない。南東から来るとするとまず、海中が最初の戦場となろう。そうなった時、同族が多い方が良いのだ。我も警戒して見ておるから。案ずるでない。」

維月は頷いたが、まだ不安なままだった。

維心は、話題を変えた。

「それで、この戦を早く終わらせるためには、ドラゴンの若い王であるヴィランを討たねばならぬ。あれが王座に座ってから、回りの王達を力で押さえつけてその王達の妃と子をドラゴン城に籠めておるのだと記憶を見て知った。ヴィランを討つことに関して、あちらでは異論はないはずであるが、しかし我らがドラゴン城を襲えば、そこに妃と子が居る王達は、必死にそれを守ろうと戦おうとするだろう。ゆえ、根回しが必要であると考えたのだ。」

維月は、それを聞いてハッとした。ということは、あちらへ密かに襲撃の真意を知らせる必要があるのだ。それも、疑いもせずこちらを信頼して信じてくれる橋渡し役が。

「…レイティアは代替わりして今は孫のアディア殿が王座に。私もこの間の女の軍神の大会の折りに連絡したきりですが…あの時には、まだ政務も満足に出来ないので此度は辞退をと申して来ておったのです。レイティアは王座を退いてから、同じく退位したディーク様と離宮で穏やかに老後を過ごしておるのだと聞いておりまする。ディーク様の城の方では、リーク様がご即位なされており、その皇子も大きく育っておるのだとか…。アディア殿は、リーク様のお子でまだ年若いのですわ。」

維心は、頷いた。

「知っておる。アディアかリークのどちらかに話を通そうと考えておるのだが、リークの方が良いのではと思う。ミハイルは、どう思うか。」

ミハイルは、答えた。

「は。リークとは我も懇意でありましたし、あれならば話を聞くかと思いまする。今はその末の娘であるアリシアと、リークの妃であるターシャがドラゴン城に囚われておる状態。あれも取り返したいと思うておるはずであります。」

美加が、何度も頷いた。

「我らが逃れて参る時も、手助けは出来ぬがと、領地の中を通るのを黙認してくれ申しました。あの時は、まさかヴィランがここまでするとは思ってもいなかったのではないかと。」

維心は、また頷いた。

「決まりだの。では、問題は誰に行かせるかぞ。」

ミハイルが、間髪入れずに足を踏み出した。

「我が。」美加も維月も息を飲む中、ミハイルは続けた。「我なら土地勘があるゆえ迷う事はないし、誰かに行き合っても、それがどこの誰なのか判断出来まする。」

今、そこから逃れて来たばかりなのに。

維月も美加も言葉を失った。

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