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匡儀

維心は、ミハイルと美加をその場に置いて、急いで謁見の間へと飛んだ。

箔炎が、匡儀を連れて来たのには驚いたが、書状が来たと言って戻ったと聞いていたので、もしかして、匡儀自身が箔炎に、龍王に取り次いで欲しいから訪問すると、先触れのようなものを送ったのではないかと思われた。

しかし、あれだけ絶対に出て来ないと言っていたのに。

維心は、数百年前に匡儀に会った時のことを思い出していた。匡儀は、そこへ出て来るのも億劫なようで、面倒そうにしていた。そして、自分の地の戦国をやっと正したところなので、もうあのような世は要らぬと言って、自分の守る範囲以外へ出て来るのを拒んだ。他と交流したら碌なことが無いと思っているようで、維心も強く交流しようとは言わなかった。維心ですら、範囲が広がるのは否だと思っていたからだ。

維心が、そんなことを思い出しながら謁見の間へと入ると、段の下には、居心地悪そうにしている箔炎と、まぎれもなくあの時会った匡儀が、並んで立ってこちらを見上げていた。

維心は、何をしに来たのだと逸る気持ちを抑えながら、玉座へと座った。

「匡儀。どうしたのだ、驚いたではないか。絶対に出て来ぬのではなかったか。」

匡儀は、維心を見上げて薄っすらと笑った…ように見えたが、元々無表情なのでそう見えただけなのかもしれない。

匡儀は、答えた。

「こちらへ出て参るかと気まぐれに思うただけ。しかし、勝手に他神の領地の上を飛んだら、誰かに打ち落とされるやもしれぬであろう?ゆえ、一番近い海岸線を領地の端にしておる、鷹族の王に取り次いでもらおうと思うたのだ。主、誠我のことを何も申しておらなんだのだの。誰も知らぬで最初時を取ったわ。」

維心は、むっつりと言った。

「約したことは違えぬわ。箔炎、急なことで驚いたであろうが、これは北西の大陸の王を統括しておる王、匡儀ぞ。我との取り決めで、これの存在は言うても良いが、交流はせぬと決めておると申すので、誰にも申さぬとした。我とて数百年前にたった一度会うたきりよ。」

箔炎は、チラと匡儀を見やりながら、頷く。

「まあ、別に我は良いのだが。何やら主に似ておって、どうしたものかと思うたが、匡儀殿のことはミハイルと美加も申しておったから。主と交流があったことは知っておったし、ならばと連れて参ったのだ。して、ここで立ち話か?応接室へ参らぬか。」

そう言いながらも、箔炎はもう、この謁見の間の隣りに設えられてある、大きな応接間の方へと足を向ける。維心は、それを見て玉座から立ち上がった。

「参ろうぞ。匡儀の話も聞かねばならぬ。長い間出て来ずなのに、今になってとは気まぐれではあるまい。」

匡儀は、階段を下りて来る維心を見ながら、ふふんと鼻で笑った。

「時は掛からぬ。主は今忙しいであろうしの。」

北からの侵攻のことか。

維心は思いながら、匡儀と箔炎と共に、謁見の間の隣りの応接間へと向かった。


応接間に入ると、維心が正面の椅子へと座り、匡儀も促されるままにその前へと座った。箔炎は、匡儀の隣りへと腰を掛けた。

匡儀は、珍し気に回りを見回しながら、言った。

「主の宮は大きいだけでなく美しいの。珍しい造りで我も楽しめるわ。やはりたまには外も良いものぞ。」

維心は、面倒そうに手を振った。

「ああ、初代が建てたそのままぞ。ところどころ我が手直しさせたり細工をさせたりしただけ。それより、何ぞ、匡儀?主は出て来るだけでも我にとっては大きな事なのであるぞ。」

匡儀は、目を細めて維心を見た。そうして、少し考えて、答えた。

「…何やら北が騒がしい。我は、迷惑を掛けられるのを好まぬ。あれらがこちらを押さえたら次はあちらへ渡って来よう。あんなもの我の敵ではないが、我は独りではないゆえな。我が平気でも我より弱い奴らは命を落とそうし。主だってそうであろうが。己だけ、この宮、領地を結界で包んでおれば、中は問題ないはずぞ。ここへ来て初めて見たが、誰もあの結界は破れぬわ。我でも破れぬ結界など初めて見た。」

維心は、眉を寄せて言った。

「我は己だけ守っておろうなどと思うておらぬから。この地を守る義務があるのだ。主が北西の大陸を守っておるのと同じよ。こちらを押さえるなどさせぬわ。こちらが落ちぬとなったら、そちらへ行くやもしれぬとは思うがの。」

匡儀は、何を思っているのか分からない無表情で、頷いた。

「その通りよ。どちらにしろ、あちらが面倒を持ち込もうとしておることは確か。だからこそ、灸をすえておこうかと思うておるところ。主の民には気の毒ではあるが、こちらでそれを済ませて二度とどこへも侵攻などしようと思わぬようにしようと考えてここへ来た。もちろん主が放って置いてくれと申すなら、我は手出しせぬで己の方へと来た時に対応するで良い。主はどう考える。」

維心は、その言葉に裏が無いのかどうかも、まったく気が変動もせず、表情も変えない匡儀に分からなかった。

それでも、答えた。

「…あまり激しく戦っては、人世にも波及して乱れる事になるゆえ、考えて対峙せねばならぬと思うておったが、主も己の大陸を戦場にはしたくないのではないのか。こちらを踏み台にということか。」

匡儀は、薄っすらと笑った。

「だから主の民には気の毒だと申したではないか。ドラゴンが他の宮を取り込んでこちらへ侵攻すると決めたのだから己の運の悪さを恨むしかない。」

維心は、苦々し気に匡儀を見た。

「ま、主は建前など申さぬわな。そうであろうよ。とはいえ、我としては助かるのだ。どちらにしろまたこちらが戦場になるのは、あちらが最初にここへ侵攻して参ったのだから仕方がないと思うておる。だが、龍族だけでは難しいことがある。北から攻めるのが無理となれば、南東や東の海から来るのではないかと懸念しておるのだ。水が得意な種族は、こちらでは我ら龍族しかない。だが、ドラゴンも水の中で本性の姿で戦う事ができるのだ。主はどうか?主の本性は見たことがないが、あちらではどうよ。」

匡儀は、フッと笑った。

「分からぬか。我は主が北で戦うのを見て驚いた。龍族とは聞いておったが、遥か昔の遠い祖先でも繋がっておるだけかと思うておった。だが、我らは同族。鳥の中で分化したように、我らも龍の中で分化したのだ。我は、龍。白龍ぞ。」

維心は、息を飲んだ。

確かに気の色が似ているとは思った。

だが、まさか匡儀が同族などとは、思いもしなかったのだ。

こちらでは白い龍などいない。皆色が濃く、青や緑の深い色合いで、維心自身も濃く暗い青と、グレーが混じったような色の龍になる。例外として、維月が一度、龍の命を分けられた時、白龍になったが、それは一時的なものだった。

生まれてこのかた、白龍など見たことはなかった。

「…主は、龍か。」維心は、やっとのことで声を出した。「ならばそちらは皆、白い龍と。」

匡儀は、頷いた。

「真っ白でいくらか金色が混じるのは我だけであるがな。他はどこかくすんだ白や、黄みがかった白よ。主らが皆、暗い色なので珍しくて思わず筆頭軍神と見に参っておったほど。ならば放って置くのもと思うて、出て参ったというのもある。」

維心は、今知ったばかりの事実に驚いてまじまじと匡儀を見た。確かに何やら懐かしいような…安心感のあるこの様子は、初めて会った時も感じたものだった。

箔炎が、言った。

「ならば、宙から来る奴らのことは我らに任せて、海から上がって来ようとしておる奴らは主らで何とかしたら良いのではないのか。どちらにしろ、宙からなら我らにも見えようし飛んでくる海上で何とでも出来る。皆人型であるしな。面倒なのは、海中に逃げられてそこから攻撃されたら面倒なだけで。ドラゴンは主らに任せるわ。」

維心は、じっと考えていたが、頷いた。

「…早う始末してしまいたいゆえな。匡儀に共に戦ってもらおうぞ。」

匡儀は、頷き返した。

「ならば軍をこちらに。宮の守りに二万は残したいゆえ、よう送れて三万であるが、こちらはどうか。」

維心は答えた。

「我の軍神は五万弱。五千は北に配置しておるゆえ宮に一万五千残して残り三万を投入出来る。六万居れば、海中は問題なかろう。確かドラゴンは、全て投入したとしても四万ぐらいしか居らぬはずぞ。」

匡儀の目が、鋭くなった。

「ならばこちらから攻めるべき。」維心が眉を上げると、匡儀は続けた。「ミハイルに案内させてこちらの神をあちらへ侵攻させよ。攻めて来たと同時にこちらもあちらの城を攻めるのだ。さすれば守りは手薄のはずだしすぐに墜ちようぞ。ミハイルから話を聞いたが、ドラゴンの今の王は、事を急ぐあまりあちらでかなり強権的に他の王を支配し従わせておるようぞ。そう抵抗もないうちに城を押さえる事ができよう。」

維心は頷こうとしたが、ふと眉を寄せた。

「…ドラゴン城には他の王達の妃と子が居る。質に取られておるのだ。我らが襲えば、それを守ろうと必死に撃って出るだろう。攻めるにしても、そこを何とかせねばならぬ。」

箔炎が、頷く。

「そもそもがそのためにあれらはしたくもない戦に駆り出されておるのだ。北にいくらか捕らえておるのではないか?あれらを説得して他はどうにかして根回し出来ぬか。」

維心は、じっと考え込んで、頷いた。

「…親しくしておる宮がある。代替わりしておるが未だに何かの折りには文も来る間柄ぞ。維月と炎嘉は訪ねた事があるので面識もある。考えてみようぞ。」

匡儀が、ふと眉を上げた。

「維月?炎嘉?こちらの主の配下の王か。」

維心は、苦笑して首を振った。

「維月は我の妃。炎嘉は我が友の鳥族の王ぞ。北との交流が始まった頃、あちらの女の王国との対応の際に二人が適任であっての。また詳しく話そうぞ。今は時が惜しい。」と、箔炎を見た。「主は宮へ戻って他の最上位の王達に匡儀のことを知らせてくれぬか。また詳しいことはこちらから連絡すると申しておいて欲しい。」

箔炎は、急いで立ち上がった。

「ならば我は帰って書状を書こうぞ。ではな、維心。それに、匡儀殿。」

箔炎は、そう言い置くとさっさと立ち上がってそこを立ち去って行く。

匡儀は、それを見送りながら、ふーんと考えるような顔をした。

「主の土地では、あのように年若い王でも主と対等に話すか。確かに気は大きい方であちらでもあまり見ぬものであったが、我ならあのような対応では礼儀がなっていないと思うところであるがの。」

維心は、それに苦笑した。

「いや、あれは我の前世からの友でな。お互いに転生したのだが、あちらはつい最近転生して参ったゆえ、姿は若いが中身が古いぞ。我とて普通の神ならば対等には話すことは無いの。」

匡儀は、いちいち珍し気にそれを聞いて、頷いた。

「面白い。転生と。我は長く生きておって未だ死んだことがないゆえ…黄泉のことは、よう分からぬわ。とはいえ、新しい事が知れるのは良い。退屈で仕方が無かったゆえな。」

維心は、それには眉を寄せた。

「ただの退屈しのぎではないぞ。世が動いておるのだ。詳しいことを語り合うのは、全て終わってからにしようぞ。」

匡儀は、頷いて立ち上がった。

「そうしようぞ。ならば我は一旦帰るわ。明羽(めいわ)というのが我の筆頭軍神なのであるが、あれを残して参るゆえ、何かあればあれに書状を持たせよ。」

維心は、頷いた。

「では、その明羽に部屋を与えて置く。我の筆頭軍神は義心ぞ。あれにこちらの大まかなことは教えさせておくゆえ。」

匡儀は、足を戸口へと向けて会釈した。

「頼んだぞ。ではな、維心よ。」

そうして、匡儀は出て行った。

維心は、レイティアの後を継いで王座に座った、孫の女王であるアディアに連絡を取るべく、維月の待つ居間へと向かったのだった。

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