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その理由3

維心は、じっとミハイルの話を聞いていたが、言った。

「…では、その後のことを聞こうぞ。襲われてヴァシリーが命を落としたのだの?して?」

ミハイルは、ハッとしたような顔をした。途端に、目の色は元へと戻り、慌てたように続けた。

「は。臣下の手引きで奥へと侵入した輩が動けぬ父上を襲い、母はそれを守ろうとして戦いましたが多勢に無勢。母まで討たれそうになったところに、我が間に合い、飛び込んで、母と共に囲みを破って宮から脱出致しました。あれらは追って参りましたが、我らの方が飛ぶのが速かった。ゆえにあれらが思うておるよりずっと遠くへと、逃れておって見つかることはありませなんだ。あの宮などにもう思い残すことはございませぬが、父上を弔えなかったことが何よりの無念でありまする。」

その様子では、殺されたまま放って来るよりなかったのだろう。

しかし、維心は言った。

「遺体などただの抜け殻よ。死んだ瞬間命は解放されて黄泉へと向かう。もうこの世で使っておった体など顧みてはおらぬよ。それよりも、黄泉で落ち着いた時にこちらの世を覗いて、主らがどうしておるのか案じておるであろうて。こうして逃れたのを知って、ホッとしておろう。」

ミハイルは、それでも表情を硬くした。

「だとしたら…こちらにご迷惑をお掛けして、あちらの神達にまで不幸な毎日を強いておる今の状態を憂いておられるかと思いまする。」

維心は、それには重々しく頷いた。

「捕らえた捕虜の王達の記憶を見た。ヴィランは王座に就いてすぐに近隣の城から順に侵攻して参り、攻め落とそうとした。完全に皆殺しにされたくなくば、己に従えと脅し、妃と子を一人ずつ質に取り、ドラゴン城に住まわせて事実上監禁しておる。此度の侵攻も、あれらはただ神を皆殺しにしながら本州を目指せと命じられており、たどり着かねば皇子を殺すと脅されておった。あちらで、あれらの子と妃が今どうなっておるのか、我も知らぬ。」

ミハイルと美加は、顔を見合わせた。

「…我ら、潜みながらあれらの動きを見ており申した。ヴィランは、平和に暮らしておったあちらの神達の城を次々に襲い、かなりの神を殺した。急襲に誰も太刀打ちできぬで…なぜに急にそんなことをしたのか、我にも正確には分かりませぬ。ただ、あれは父上が生きておった頃から、南の島を侵略すべきだと一人、進言しておる男だった。こちらの気はあちらより清浄で、そして濃い。その気をいつでもこちらの神が使えるように、こちらは傘下に置いておくべきだと。父上は龍王が守る地を奪うなど出来ぬし出来るはずもないと言って突っ撥ねており申したが、あれは諦めてはおらなんだということではないかと考えると、納得がいきまする。ドラゴンだけではこちらを攻めることなど出来ぬので、数で押そうと他の宮々を使うことを考えたのではと。」

維心は、やはりこちらの気が目当てか、と険しい顔をした。昔、レイティアという女王が来てこちらのことを知った時も、こちらの気の性質があちらへと知れて、興味を持たれることを懸念した。そうして、あちらの大陸へと出て行き、わざわざ顔を合わせて自分の気の大きさを見せ、来るなら来いという気持ちで交流を始めたのだ。

そこで、あちらを統括する神である、ドラゴンの王、ヴァルラムと知り合った。それから親交を続けていたが、その息子であるヴァシリーも、平和的な考え方でこちらとは良い関係性を保っていた。それが、どうしてもこちらの気が欲しい神が王座に就き、そうしてこういう事になっているのだ。

維心は、大きな息をついた。

「ということは、あちらはこちらの気が欲しいということよな。目的は分かったものの、平和的ではない方法でこちらの気が欲しい、つまりはこちらの神を根絶やしにでもするつもりなのだろうの。」

ミハイルは、維心に負けず劣らずの険しい顔で頷いた。

「は。我もあれがどうしてそれほどにこちらの気に固執するのか分かりませぬが…何しろ、あちらでは気に困っている訳では無いのです。こちらと変わらぬ神の数であるのに、あれだけの広い土地がある。気は潤沢で、わざわざ別の土地の気など欲しなくても問題はないのですから。だからこそ、こちらの気のことが話題になっても、誰もこちらへ侵攻しようなどとは思いもしなかったものを。まして、維心殿に勝てると思うておるのか。あちらにも、維心殿ほどの力を持つ神は居りませぬ。」

維心は、それは知っていたので、ため息をついたが、首を振った。

「我とて万能では無い。我一人では全てを抑え切るのは困難ぞ。ドラゴンと我らは似ておって、水の中でも難なく戦える。むしろ水の中の方が有利なほどぞ。水の中から来られたら、あちらとこちらは戦力は同じぐらい。こちらでも、水の中でまで戦える神は少ない。人型ならばなんとか戦えようが、水の中で本性になられたら人型は不利ぞ。我ら龍族が迎え撃つしか方法はないのだ。」

地の利もあるので、こちらへ来られても近くの海の中なら僅かにこちらが有利なだけだと思っている維心は、そのままの険しい様を崩さずに言った。しかし、ミハイルはそれを聞いて、ふと眉を上げた。

「水の中と?…しかし、確かに我らは水の中でも難なく戦えるが、体の造りから申すに、龍ほど迅速には動けぬのが本当のところでありまする。龍は長い体に鱗があり、手足も短く滑らかに水中を動くことが出来まするが、我らには鱗も無く代わりに大きな翼が背に。これが水中では邪魔をして、龍ほど迅速には動くことが出来ませぬ。翼を畳んで抵抗を抑えるようにしておるが、それでも海流によっては煽られて勝手に開いてしまい、後ろへ引っ張られたりするもの。龍にはそれが無いと思うのですが。」

維心は、それを聞いて身を乗り出した。

「ドラゴンの本性はあまり見たことが無いのだ。ということは、主らは水の中が良い訳では無いのだな?」

ミハイルは、頷く。

「はい。それどころか、あまり長く海水に浸かっては皮膚がそれ用では無いので良い影響はございませぬ。今も申したように、龍にはある鱗が我らには無いのです。」

維心は、目を開かれるようだった。

「知らなんだ。そうそう本性で会う事など無いゆえに。ということは、海を警戒せずとも良いということか。」

ミハイルは、それには考え込むような顔をした。

「どうでありましょう。北からの侵攻に失敗し、北西の神とまで事を構えたくないからそちらは無理となれば、無理をしてでも南東の海から上陸を考えることもあるかもしれませぬ。何しろ、こちらの神でも水中で戦える神が少ないのは知っておるところ。ならばと考えるのは自然かもしれませぬ。」

維心は、じっと考え込んだ。これほどに強硬な姿勢であるのだから、やはり海から来ると思った方が良いかもしれない。水中での戦いが龍の方が有利なのは分かったが、そうなるとどうあっても龍族だけで次の侵攻は水中で終わらせた方が良いようだ。

だが…。

「…とはいえ、あれらには我と陸上でまともに対峙したら、勝てぬと分かっておったはず。現に北では、我が到着するまでは、先頭切って攻撃しておったドラゴンが、我が到着すると同時に退却したのだ。残ったのは、子の命を盾に取られておった神達のみ。王らしい者達だけを生きて捕らえ、後は殺した。ドラゴンも、最初の一撃を避け切れなかった者は死んだ。だが、一番犠牲が少なかったのはドラゴンだったはず。あれは、何をしに参ったのだ。本性のドラゴンに戻ったなら、少しは我も手こずったやもしれぬのに。」

ミハイルは、それには顔をしかめて首を傾げた。

「どうでありましょうか。もしかしたら、龍王がどれほどのものなのか、実際に目で見て確かめたのかもしれませぬ。それにより、対応を考えようとしたのでは。誰も龍王が最強だと聞いてはおりますが、実際に戦う様を見た者は居らぬのでは。それを見るためだったとしたら、そしてあわよくば数で押せる程度であったなら侵攻しようと思うておったとしたら、維心殿の大きな気にとても敵わぬとさっさと退いたのも分かるような気が致します。」

そんな軽い気持ちであったというか。

維心は、途端に不機嫌に眉を寄せた。あれで、何万の神が死んだと思うのだ。それが、同族でなければ気にしないということなのか。それとも、ヴィランという王は同族であろうと気にしないのだろうか。

どちらにしろ、浅はかなのは確かなようだ。

「…あれが様子見程度だとしたら、今あちらはどうやってこちらへ来ようかと考えておるということか。それとも、とても敵わぬから止めておこうとか簡単に考えておるのか。このまま、もしこちらへこなんだとしても、我はあちらへ討って出る。また来るかもしれぬと怯えて暮らすのは、性に合わぬゆえ。懸念の対象は、さっさと消してしまうに限るのだ。」

ミハイルは、それには何度も頷いた。

「ならば我が共に。あちらには地の利がありまするし、抜け道も全て知っておりまする。どこが弱いのかも知っておる。あちらを叩くなら、我が手をお貸ししまする。」

維心は、頷いた。ミハイルには手伝ってもらわねばならない。そして、もしあちらを殲滅したとしても、もう一度あちらへ帰って、王として君臨してもらわねばならないのだ。あちらを平穏に保つことが出来る王が、絶対に戦の後必要だからだ。

維心が、最終はあちらへ攻め入ることになるかと考え込んでいると、鵬が慌てたように、戸を叩いて外から言った。

「王!箔炎様が…!」

維心は、何を今さらと呆れたように戸を見た。

「入れ。箔炎が来たのか?それがどうした。」

しかし、鵬は戸を開いて進み出ると、維心の前に膝をついて言った。

「それが、匡儀様とおっしゃるかたをお連れになっておって!王のように大きな気の、お見掛けした事の無いかたでありまする!」

維心は、驚いて思わず立ち上がった。

「なんと申した?匡儀?!」

なぜに出て参った。

維心は、茫然としばらく命じることも忘れて困惑する鵬の顔を見ていた。

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