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状況把握2

海側の結界境には、400歳ぐらいの龍の女と、グレーの髪に深い青い瞳のドラゴンの男が、甲冑姿で浮いていた。

箔炎が到着すると、二人はその場で頭を下げた。

「…なぜに今ここへ参った。保護とて我らは正に今ドラゴンの侵攻を受けているただ中であるぞ。」

男の方が、答えた。

「我はドラゴンの前王ヴァシリーの子、ミハイル。こちらは母の美加でありまする。只今の王であるヴィランとの戦いに破れ、追われ申した。母の里がこちらであるので、逃れて参った次第。北西の大陸の王は、我らには干渉しないと申して我らが通るのを許してくれ申し、こちらへ参れました。」

ならば明維の娘か。

箔炎は、前世の記憶からそう思った。目は、龍王の血筋にしか出ない深い特徴的な青色で、言っている事は間違ってはいないと思われた。

「…ならば龍族に縁であるし我らの敵ではない。とはいえ、主はドラゴンぞ。主らを保護してこちらに益があるのなら良いが、何か我らに渡せぬものはあるか。」

それには、美加が答えた。

「我らが持つ情報を。あちらのことならば、何事もお知りになりたいことを、我らの知る限りお教え致します。」

今一番に知りたいことか。

箔炎は、それでも警戒を解かなかった。これらがあちらの覇権を取り戻そうと、こちらを利用しようとしているとも限らないからだ。

「…ならば話すのではなく主らの記憶を預かる。記憶は偽りを申さぬしの。それでも、我に保護を求めるのか。」

美加が、躊躇う顔をした。しかし、ミハイルは頷いた。

「何事も仰せのまま。我らは元より、隠すようなことはございませぬ。」

美加の方は、少し表情を曇らせていた。箔炎は、美加を見た。

「主は?何か後ろめたいことでもあるか。」

美加は、ハッと顔を上げて、目を伏せ気味に、言った。

「我は…もちろん、此度の戦に対しての、後ろめたいことなどございませぬ。ただ、かつてこちらを追われたのは、我があまりに恥ずかしい生き方であったゆえ。今さらにと、まだ存命である父にご迷惑を掛けるのではと、それを案じておりまする。」

箔炎は、目を細めて美加を見た。美加が追放された辺りは、前世、ちょうど自分の具合が悪くなって来た時だったので、それほど詳しくは聞いてはいない。だが、自分の血族を罪人として遠くへ送ったぐらいなのだから、維心にとってかなり厄介だと思われたのは確かだった。

確か、窃盗だとか…しかも、改心する様子がなかったのだと聞いている。

とはいえ、あちらで王の妃として子を産みそれなりにやっていたのだから、改心したのだと思う方が良いのだろう。何しろ、前の王であったヴァシリーは、愚かな王ではなかった。その王が妃としていたのだから、良い方向に考えられると思われた。

「…我は前世の記憶を持っておって、主が何をしたのか何とのう知っておるし、維心が主を面倒に思うて追放したのだと分かるゆえ、主が何を我に知られると案じておるのか知らぬが、そういうことなら大体知っておると答えるよりないの。それでも何か案じることがあるか。」

美加は、目を見開いて箔炎を見た。箔炎がまだ若い王なので、自分のことや起こったことは、絶対に知らないと思ったからだ。

だが、知っているのだ。だとしたら、今さら何も知られて困るようなことは無い。

美加は、一転して吹っ切れたような顔をした。

「全て知っておられるのなら、今さら一族の恥と記憶を出し渋るようなことはありませぬ。どうぞ、我の記憶をご覧になってくださいませ。」

気の強そうなその様は、何やら維月を思わせた。前世の血筋であるのだから、ある程度は似ているだろうと思った箔炎は、フッとわずかに口角を上げると、頷いた。

「ならば参れ。主らの記憶から、我らが今必要な情報をもらおうぞ。」と、踵を返した。「ついて参れ。」

そうして、箔炎が前を飛ぶのに、美加とミハイルは顔を見合わせ、頷くとついて、飛んだ。

その後ろを、黙ってついて来ていた箔真と佐紀が飛び、美加とミハイルは、三人に挟まれて、鷹の宮へと降りて行ったのだった。


維心と炎嘉は、地下牢で怯える相手から、有無を言わさず、それどころか何をするのかの説明すらせず、二人で手分けしてさっさと記憶を玉として手の中へと移した。

とはいえ、記憶を取った後、やっぱり戻してやろうとなると面倒なのは経験から知っているので、記憶の玉の複製という形で奪い取ったものだ。

何をされるのか分からないような状態で、北の神達は恐怖に顔を引きつらせて逃げようと必死だったが、術の衝撃でバタバタと気を失い、皆終わった時には意識はなかった。

まさに作業、といった感じで、維心と炎嘉は僅か数分でそれを成してしまったのだ。

維心は、自分が取った記憶の複製の玉を、着物の袖に放り込むと、カチンカチンとそれがぶつかる音を立てながら、もう戸の方へと足を向けた。

「さ、では中身の確認ぞ。早うなぜにこんなことになっておるのか調べてこちらも迎え撃つ準備をせねば、次はもっと軍神を投入してくるやもしれぬ。いくら我でも、数で押されたら取りこぼして本州への上陸を許してしまおう。何としてもここで食い止めねば。徹底的に痛めつけて、こちらへ来る心地にならぬようにせねばならぬのだ。でなければ…、ルートは、蝦夷からだけではないゆえ。」

それには、炎嘉も鋭い目をした。

「…北西か?主、そういえば北西の大陸の方へは足を向けておらなんだの。あちらは実際のところどうなのだ。何も聞いておらぬか。」

維心は、牢の外へと足を向けて階段を上りながら、炎嘉をチラと見た。

「あちらにも結構な年数を生きておる王が居る。だが、あちらはどこにも門戸を開くつもりはないゆえ、そういった理由で訪問は受けぬと書状が返って参った。同じような文字を使うゆえ、北の大陸よりは近しい感じであったが、昔戦国で大変だったという記憶があって、何にも手を出さぬということらしい。もちろん、攻めて来たらこの限りではないが、基本交流したくないと言う感じよ。」

炎嘉は、ううむと考えるように顎に触れながら、維心の隣りを歩いて言った。

「では、無理にあちらのルートを通って来ようとせぬ限り、あちらからドラゴンが攻めて来ることは無いということか。だが、ではと先に北西の大陸へ攻め入ったらどうなる。こちらへ来るには近過ぎようが。途端に鷹や白虎、高晶が矢面に立とうな。」

維心は、苦笑しながら首を振った。

「無理よ。恐らくはな。というのも、あちらも大きな陸地であるが、神は少ない。いくらか王は居るが、それを統率している神が居て、ほとんどを担って統治しておるようよ。それが、我に答えて参ったのだ。顔を合わせて話す必要があると我が申して、やっと一度だけ、北西の大陸のこちらの端にある半島で対面した。青み掛かった黒髪で濃い茶の瞳、ニコリともせぬ謹厳そうな男であった。己でも驚いたが、気が我によう似ておったもの。その上、かなり大きなものでの。その時に、これ以後は誠に必要でない限り、決してお互いに干渉せぬと約した。ドラゴンがあれを攻めたとしたら、蹴散らされてこちらへなど来れぬわ。だからこそ、あれらは蝦夷から来たのだろうからの。あちらからの方が、有利であるにも関わらず。」

炎嘉は、階段を上がり切り、応接室へと足を向けながら不貞腐れたように維心を見た。

「ならばなぜにルートは北からだけではないと申したのだ。主は北の神のことしか言わなんだではないか。今さらに北西の神とも会ったことがあるなどと。」

維心は、炎嘉に困ったように顔を少ししかめて、答えた。

「あまりあれのことを皆に知らせぬ方が、交流もせずで済むだろうと思うたのだ。我だって、約したことは違えとうないしの。北からだけではないと申したのは、まだ南東が残って居るからぞ。」

炎嘉は、ふうとため息をついた。

「南東は海ではないか。そっちこそ問題ないわ。して?そやつの名は何ぞ。まさか言えぬと言わぬだろうの。」

維心は、意外そうな顔をした。

「え?言わなんだか?匡儀(おうぎ)と申す。あちらでは知らぬ神など居らぬらしいぞ。かなり厳しい神のようで、あれに逆らう者など居らぬのだと、我が匡儀と話しておる間に義心が調べて参って我に申しておった。あれからは、約定通り探ることもしておらぬから、今は分からぬが。」

炎嘉は、息をついた。

「匡儀か。覚えておこうぞ。」と、誰も居ない応接室へと足を踏み入れた。「さあ、とにかくは記憶の玉よ。あやつら何を思うてこちらへ来たのか、これを見て調べようぞ。」

炎嘉が、自分の袖を振ってガラガラと音を立てた。

維心は頷いて、傍のソファの上へと袖をひっくり返して中身をぶちまけ、そうしてそれを読もうと凝視し始めたのだった。

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