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小さな乱れ

白虎の結界内は、きれいさっぱり亀裂など無かった。

やはり、あの時維心が通った後には、何も残らなかったと思われた。

義心が、夕凪と共に傍に浮きながら、言った。

「王。我の目から見ても志心様の結界内は他次元の気配を感じませぬ。恐らくは、王の気の力から逃れられる亀裂は無かったかと。」

維心は、頷いた。

「我にも何も見えぬな。確かに集中して探しておる我の気から逃れようと思うたら、誰かの気の防御でもなければ無理であろうし、志心の身に取り付いたものぐらいしか残れることはあるまいしな。」と、夕凪を見た。「夕凪、志心に問題無かったと伝えよ。とにかくは数日は、あれの気をしっかりと探って見ておくのだぞ。気の色が薄まっているとなると、その存在自体が危うくなっておるということぞ。あれは歳も歳であるし、慎重にな。治癒の神にも申しておけ。何かあったらまた連絡せよ。分かったの。」

夕凪は、普通は他の王には膝をつかないものなのだが、膝をついて頭を下げた。

「は!この度は大変にご足労をお掛けしてしまいました。そのように我が王にお伝えし、治癒の神にも知らせておきまする。」

維心は、頷くと高晶の領地の方角を見た。

「では参る。義心、参れ。」

「は!」

義心が返事をして、もはや後ろを気にせずさっさと飛び去る維心について飛び立って行くのを、夕凪は見送った。

龍という種族に追いつくためにも、もっと励まねばならぬ。

夕凪は、王の御為にと、そう決意を新たにしていた。


維心が高晶の領地へと向かうと、結界はすんなりと中へと通した。

そうして、あちらが来るのを待っていることを知り、そのまま宮へと飛んでいると、宮の到着口から高晶の筆頭軍神、征が急いで飛んで来るのが見えた。

維心と義心がその場にとどまって待っていると、征は二人の前に来て、頭を下げた。

「龍王様。ようこそお越しくださいました。我が王がお待ちでございます。どうぞ、こちらへ。」

維心は、頷いた。

「高晶は壮健か。」

征は、先を飛んで宮へと降りながら、頷いた。

「はい。別次元の問題を抱えていて、志心様にはしばらくお加減がお悪かったと書状でお聞きして、こちらでは驚いておったところでございます。我が王も、おかしなものを見つけたらすぐに知らせるようにと触れを出されており、ここのところ警戒なされておられた由。しかしながら我が王に於かれましては、お体は健やかで何の問題もございませぬ。」

維心は、ホッとしたように小さく息をついた。

「ならば良い。だが、念のため結界内を共に見回っておこうと思うて訪ねたのだ。」

宮の到着口へと降り立つと、筆頭重臣の泰が頭を下げた待っていた。

維心は、泰に言った。

「泰か。今、征に話を聞いておったところよ。こちらは問題ないようであるな。」

泰は、それこそ額を床に着けるほど頭を下げて、言った。

「はい、龍王様。我が王に於かれましては、お忙しい中こちらの事までお気にかけてくださって、大変に感謝いたしておりますとのことでございます。奥でお待ちでございますので、どうぞ奥へ。」

泰は、征に頷き掛ける。征は、維心に頭を下げて、奥へと先導を続けた。

維心は、他神の宮をうろうろするのは好きではなかったが、しかしこれは務めなのでしかたなく、回廊を歩きながら、その宮全体を気で探っていた。宮は一見穏やかなのだが、どこか重苦しいような、暗い空気をまとっているようにも感じた。

…高晶は妃も数人居って心安く暮らしておるのではないのか。

維心は、そう思いながらも何も言わずに、征について歩いた。

そうして、居間へと入って行くと、そこには高晶が、明らかに喪に服しているような暗い色合いの着物を着て、立っていた。

「何ぞ高晶。」維心は、高晶を見てすぐに、言った。「誰か亡くしたか。高司はまだ壮健であったよの。」

高晶は、少し疲れた様子で、頷く。

「は。実はひと月ほど前、我が第三皇女を不意の病で亡くしてしまい申して。その母であった妃の詩織(しおり)は、毎日あれを収めた墓所の棺に縋って泣き暮らし、ついには消耗して奥で臥せってしまっておる次第。このような状態で、申し訳ありませぬ。」

維心は、片眉を上げた。皇女を亡くした…?

「…それは、どのような病か。皇女の生死は成人しておらねば告示されることが少ないゆえ、我も今初めて知ったことよ。」

高晶は、まだ吹っ切れていないような、悲し気な瞳で答えた。

「それが、突然のことで。ある日、侍女と共に庭に出ておったのだが、急に倒れ申して。我が駆け付けた時には、もう息がない状況でありました。原因も何も病の兆しもなく、突然でどういうことか分からず。あれは、末の皇女でまだ子供で…まだ20ほどにしかならぬのに。あまりに不憫で、軍神達にも触れさせず、我が墓所まで運んで安置したほど。なので、妃の嘆きもよく分かるのです。」

維心は、それは気の毒なと思ったが、考えた。ひと月前…志心が具合を悪くしたのと同じ時期だ。

維心は、そう思いながら高晶をじっと見ると、高晶の体からは、いつものゆるゆるとした神の気ではなく、何か術を伴うような、守りの力を感じた。それは、薄っすらと膜を張るように、体全体を覆っているように見える。

維心は、その力の種類を見極めようと、じっとその体の淵を凝視した。

「…主…それは、何ぞ?」

維心が言いながら、まるで目が悪い者が何かを見ようとしている時のように、目を細めて眉を寄せ、じっと高晶の体を見た。高晶は、驚いたように少し身を退いて、そうして、戸惑うように言った。

「それとは…?何か、おかしなことでも?」

ついて来ていた、征も戸惑っている。義心は、分かっているのかじっと維心の足元に膝をついたまま、高晶の答えを待っているような状態だ。

維心は、言った。

「主、普段はそのような膜、被っておらぬであろうが。確率された術でもないようだが、術のような波動の、守りのようなものぞ。そんなもの、己の宮の中でなぜに被っておるのだ。」

高晶は、驚いたような顔をした。そうして、自分の手を見た。そうして、ハッとした顔をすると、慌てて言った。

「これは、幼い頃から庭などで遊んでおる時に、時に勝手にやってしもうておる膜で。物心ついた時から気がつくと、いつの間にかこのようなものがまとわりついておって。だが、これがあると安心するというのもあって、特に気にせずで居たのだが…。」

維心は、手を伸ばしてその膜に触れた。そして、その波動を読んで、目を見開いた。

「これは…次元を封じる術のような波動が混じっておるぞ。こんなものを、物心ついた時から気がつけば被っておったと?」

高晶は、次元と聞いてますます驚いた顔をした。そんなものが?!

「え、我に?!我は、次元を封じる術もついひと月前の会合の後に箔炎についでに教えてもらったところであるのに、そのような…。」

維心は、それを知っていた。次元を扱う術など、そうそう皆知らないのだ。何しろ、それを扱えるだけの気の量がある神の方が少ない。維心、炎嘉、箔炎、志心、焔にはその力があるが、志心でさえも長時間となると扱い切れるものではなく、扱えるとされる維心以外の神達も、大きな力に引きずられる恐れがあるので、必死になって細かい制御が難しい。なので、どうしても次元絡みになると、皆、維心に頼もうとなるのだ。

そんな術の波動をまとう膜を、幼い頃からと。

維心は、眉を寄せたままじっと高晶を見た。

「何と言うてもそれは次元を封じる術の波動と似ておる。幼い頃からと申したか?…高司は知っておるのか。」

それには、高晶は頷いた。

「はい。父上は己を守ろうとそのような力が発動したのだろうとおっしゃって、悪いものではないからと、必要な時に必要だからこそ出て来るのだろうから、そのままにしておけと。あまりに昔からなので、我とてどういったものかも考えずに、これまで来てしもうて…今、これが出ておるのも、よう分かっておらぬほどで。」と、立ちっぱなしだったとそこで気付いて、慌てて言った。「維心殿、どうぞお座りください。このように立ち通しで、申し訳ない。」

だが、維心は座らなかった。それどころか、くるりと踵を返すと高晶をせっつくように言った。

「高晶、時が惜しい。高司に話を聞きに参るぞ。離宮に居るか。」

高晶は、慌てて維心に並んで歩き出した。

「はい、父は離宮に。」と、慌てて征を見た。「父上にこれから参るとすぐに連絡を。」

征は、高晶に頭を下げて、慌ててそこを飛び出して行った。しかし、維心は居間の窓へと歩み寄り、もう飛び上がろうと窓を開いた。

「ぐずぐずしておってはまずい。もしやと思うが、主の娘は次元の裂け目にやられたのではないか。志心が正にそうであって、あれは気が大きく何とか我が対処するまで命はもったが、幼い娘だったならひとたまりもあるまいぞ。とにかく、まずは高司に聞かねばならぬことがある。参る!」

維心は、高晶の返事も聞かずに飛び立った。

義心が、その後を遅れることなくすぐについて飛び上がる。

高晶は、訳がわからぬまま、必死にその後を追って飛び立って行った。

夕暮れが近づいていた。

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