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治療3

龍の治癒の神達を連れて、明蓮は白虎の宮へと到着した。

宮では、白虎の臣下達が待ってましたとそれは嬉し気に、急いで奥からわらわらと出て来るのが見える。その中に、皇子の志夕が居るのも見えた。

明蓮が頭を下げていると、志夕は駆け寄って来て、言った。

「良い、明蓮であろう?」明蓮が顔を上げると、志夕は続けた。「紫翠から聞いて主のことはよう知っておるわ。主は龍の王族の血を引いておるではないか。我らと変わらぬわ。それより緑翠よ、よう龍王殿に話をつけて来てくれたの。」

緑翠は、頷いた。

「こちらへ来る間、飛びながら明蓮にはいろいろ説明したのだが、明蓮はそのような病は聞いたことも無いと申して。治癒の龍達も、診てみぬことには分からぬが現時点では聞いたことがないと。」

明蓮は、輿から降りて来た治癒の龍達を振り返って、言った。

「我は治癒の術もいろいろと習っておるのであるが、我が書を見た中にはあのようなものは無うて…これらの経験から何か気取るのを期待するよりないと思うておるのだ。」

治癒の龍のうち、一人が進み出で頭を下げた。

「志夕様。王の命により参上いたしました、我は龍の宮治癒の長、水花(すいか)。白虎王様のご様子を、お見せ頂けますでしょうか。」

志夕は、龍の宮の治癒の長は、代々女なのだと聞いていたが、これがそうかと驚きながらも、急いで頷いた。

「もちろんよ。主らが着いたことはもう、父上に知らせをやっておって知っておる。では、着いたばかりですまぬが奥宮へ。」

水花は、頷いた。

「はい、志夕様。ご案内くださいませ。」

志夕は、そんな水花達に頷くと、明蓮と緑翠にも視線を向けた。

「主らも。参ろうぞ。」

そうして、治癒の龍三人と、緑翠、明蓮を連れて、志夕は奥宮へと急いだ。


奥宮の居間へと到着した志夕と緑翠は、白蘭を話し相手に、正面の椅子で普通に背筋を伸ばした状態で座って、寛いでいるような様の志心を見て、驚いた。

一見、特に問題ないように見えたからだ。

「…父上?いったい…その、お体はいかがか。」

志夕が戸惑いながら言うと、志心は志夕を見て微笑んだ。

「おお志夕か。緑翠が我のことを月に頼んでくれたのか、月から浄化の力が降りて参ってな。いくらかマシで、こうして座っておったら何でもないふりは出来ようほどに。」と、少し、息をついた。「…とはいえ、すぐに気を消耗して参るのは変わりない。そこに居るは、治癒の龍か。」

緑翠が、ハッと我に返って、慌てて言った。

「はい。龍王殿が命じてくださり、連れて参りました、龍の宮の治癒の長、水花でございまする。」

水花は、志心の前に進み出て、深々と頭を下げた。

「志心様。我が王から命で参りました。早速にお加減を拝見したいと思いまするが、よろしいでしょうか。」

水花は、若いがさすがに龍であって、そこの治癒の長をしているせいか大変に目が鋭く、こちらを探るような視線は何もかも見透かされるような気がして、志心ですら落ち着かない気持ちにさせた。

白蘭は、今では公には完璧な貴婦人を演じることが出来るので、一同が入って来た時から高々と扇を上げて顔を隠し、ゆるゆるとした動きで立ち上がり、皆がそれと気付かない間に後ろへとゆったりと下がって、夫である緑翠の後ろへと隠れるように移動していた。そうして、後ろから扇の隙間を覗いて見ていたのだが、目の前には幼い頃から見慣れた志夕と、龍王に面影がよく似ている龍の軍神、それに、雰囲気は穏やかだが目が鋭い三人の龍の女神達…。

白蘭は、龍という種族の力強い気配に恐れを感じながら、何も知らない頃の自分はよくも龍の軍神などに懸想していたなあと、自分の物知らなさに己で呆れながら緑翠の背に隠れていた。

そんな白蘭の思いなどには全く気付かず、志心は水花に頷いた。

「せめて原因を調べてみてくれぬか。」

水花は、頷いて後ろに従う二人に頷き掛けると、スススと前へと進み出て、目を閉じたかと思うと手を翳した。

そのまま、三人の治癒の龍達は、手を上げたままじっとしていた。見た目の穏やかさとは違い、志心の体はこの三人の鋭く細かい探索の気に晒されて、チクチクと電気でも走っているように痛んだ。とはいえ、それと共に癒しと痛みを緩和する気も発しられているので、直接の痛みを受けているわけではない。つまり、痛みを緩和する気がなければそれなりの痛みを伴うこということで、これは十分に攻撃手段にも出来る技だと志心は思った。

しばらく、そのままじっと皆固唾を飲んでそれを見守っていたのだが、急に治癒の龍の三人が目を開き、手を下ろしたことで、志夕が一歩志心に向かって足を踏み出し、言った。

「どうであった?父上は、どのような状態か。」

水花は、志夕を見て答えた。

「志心様は、気を著しく何かに奪われ、それをお体が必死に補充してなんとか保っておられる状態。つまり、今この瞬間にも気を奪われ続けておられるということでございまする。今いくらかマシであられるのは、月の浄化の気のお陰で純粋な気になったこの辺りの気が、補充しやすいので補充の速度が上がっておるからにほかなりませぬ。少しでも補充が遅れれば、お命も危うい勢いで気が奪われておりまする。」

志心は、眉を寄せた。気を奪われている…抜け去っているのでも、補充出来ないのでもなく、奪われていると申すか。

「そのような…いったい、この白虎の結界の中の奥深くで、いったい何に気を奪われると申すのだ。」

志夕は、困惑してそう言った。今は、父王は結界を張るどころではないので、自分が張っている。もしや、自分の結界では弱いのか。

しかし、水花は首を振った。

「我には分かりませぬ。気が出て行く先も見えませず、急に宙に消えて行くような様で。体全体から消えて参るのですが、胸の辺りが激しいのでそちらだけでも封じようと致しましたが、我の力では抗えぬほどの吸引力で。術を放つ我の気すら消えて参る状態で。」

志心は、眉を寄せたまま言った。

「ならば阻止する方法は無いという事か。病ではないと?」

水花は、頭を下げる。

「はい。お体自身は健やかで、またそうであるからこそ志心様にはこのようにお命を保たれておるのかと。今もし病にでもさいまれましたら、一気に気の補充が追い付かれぬようになり、一瞬でお命を落とされます。大変に危険な状態であると申しておきまする。」

緑翠にも、訳が分からなかった。気を失っているのは、何かに奪われているからだという。だが、ここに居る誰もが、そんな神の力の波動も何も感じられていない。ただ、本当に宙へと気が消えて行くような状況なのだ。

困ってふと、明蓮を見た緑翠は、そういえば兄の紫翠が明蓮に分からぬことは無いと、いつも聞きに行っているのを思い出した。そうして、もしかしてと明蓮に言った。

「明蓮、主が知らぬ事など無いと兄上が申しておった。主はこれをどう思う?」

明蓮は、こやつらは兄弟揃って何でも我に振りおって、と内心思ったのだが、公の場ではあちらが王族で立場は上なので、神妙に答えた。

「我は治癒の神ではありませぬので分からぬのだとお答えするところでありまするが、しかしこれは治癒の神の領域ではないということでありまする。何かに気を奪われておるということは、その何かを成しておる何かがあるということ。それを探るしかありませぬが…その、消えて行く気の辺りを調べて、志心様の気を奪っておる術を放っておる輩を調べることも出来るかもしれませぬ。」

志心が、それに首を傾げた。

「我の気が何かを気取るほど無いゆえやもしれぬが、全く誰の気も感じぬのだ。主が言うように、誰かが術を放っておるなら絶対に僅かでもそれを感じるはずなのに。」

明蓮は、膝を進めた。

「では、少し調べさせて頂いてよろしいでしょうか。」

志心は、頷いた。

「良い。調べてみてくれぬか。」

明蓮は、じっと目を閉じて手を翳した。

志心の体からは、確かに物凄い勢いで気が失われ、そしてそれを追うように、志心の体が必死に気を補充している状態だった。つまり、志心の体の気は常に新しいものに入れ替わっていて、ここにある気は志心を通してどこかへ、本当に志心の体の表面を出た瞬間に、立ち消えるようにして消え去っていた。

普通、神の気は発したとしてもこんな風にいきなりに無くなる事はない。体から立ち上った気は、空気中に風に乗るようにして拡散し、そうして地へと還って行く。

それなのに、まるで最初からそこに存在しなかったかのように、ぷつりとそこで消えていた。

明蓮は、じっと眉根を寄せて、もっとも多くの気が抜け去って行く胸の辺りの表面に意識を集中した。

すると、自分の気に食らいついて来るような、そんな危ない気配がして、咄嗟に気を退いた。

「!!」

突然に目を開いた明蓮に、志心は驚いたように眉を上げた。

「どうした?何か分かったか。」

明蓮は、思いもかけず強い力で気を吸引されて、まだドキドキと動悸が収まらないのに抗い、ふうと長い息を吐いてから、言った。

「…いきなりの強い力で。確かに水花が申すように、強い吸引力で我が探ろうと放った気さえ食らおうとして激しく吸い上げられるのを感じて、思わず気を退いてしまい申した。ですが、確かに強い力なのですが、こうして探れねば気取ることが出来ぬほど自然な様子で…吸い出された気が消えさえしなければ、病なのかと間違うような様でございますな。」

緑翠が、心配げに言った。

「つまり、主も誰が術を放っておるのか気取ることが出来ぬか。」

明蓮は、首を振った。

「出来ぬ。というか、本来僅かでも宙へと消える瞬間に何かを気取れるはずだと思うたのだが、何も気取れないのだ。神の気というか、何か感じた事の無い感じを受けただけ。」と、水花を見た。「主も何も気取れなんだか。」

水花は、申し訳なさげに明蓮に頭を下げた。

「はい、明蓮様。病と申すなら我ら必ず治してみせましょうと申すところでありますが、これは病ではありませぬゆえ…。我らでは、力不足でございます。」

志夕は、焦ったように言った。

「そのような!では父上はどうしたら良いのか。このままでは、もし何かの軽い病でも得られたらお命が危ないではないか!普通に老いが参ったのなら諦めも出来ようが…このような、何が原因なのか分からぬような状態で、そのようなことは、絶対に避けねばならぬのだ!」

志夕は、必死だった。

緑翠には、その気持ちが分かった。父王が、何かの企みで命を危うくさせられているとしたら、それを解決せずにこんなに不自然な様子で命を落とされるなど考えたくもないのだろう。

志心は、そんな志夕に諦めたように息をついてから、言った。

「…父はもう良い歳ぞ、志夕。そろそろ覚悟もしておかねばならぬと常申しておったであろうが。とはいえ、もし我が世を去った後、主がまたこのようなことがあったらと案じられる。ここはとりあえず、神世をしらみつぶしに調べて上位の王達にも問い合わせ、我を殺して得をする者がおるのか探らねば。」と、明蓮と、水花を見た。「主らも。大儀であったの。とりあえず、何かの仕業で誰かの意思でこのようなことになっておるのだろうことが分かっただけでも此度は良かったと思おうぞ。十六夜のお蔭で、そうだるくも無くなった。これよりは、よう考えて参るゆえ。維心にも、我が礼を申しておったと伝えて欲しい。」

明蓮も水花も、他の二人の治癒の龍も頭を下げた。

「は。我が王にそうのようにお伝え致します。」

明蓮は、志夕も緑翠も気になったが、それでも自分は龍軍の軍神だ。仕えるのは龍王である維心であって、維心が命じないのにこれ以上の手助けは、出来なかった。

なので、明蓮は治癒の龍達を連れて、そのまま龍の宮へと何も出来ないままに帰って行ったのだった。

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