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命の懸念

そんなこんなで、その日は楽しく有意義な立ち合いが出来た。

結局、十六夜と義将、維月と義心の組み合わせになると、圧倒的に維月と義心が強かった。というのも、義心は維月の動きを完璧に読み、維月が自由に動き回る、その背をしっかりと守ることに徹したからだ。

一方十六夜と義将の場合、十六夜が義将を気遣うので、どうしても動きが鈍くなる。何も気遣わずに突撃して来る維月の太刀から、自分の刀を守るのは難しかった。

そんなわけで、維月と義心の圧勝で終わった。

次は維月と義将の組み合わせにしようか、と言ったのだが、もう日が暮れて来て、その日はそれで、お開きとなったのだった。

十六夜は、維月と共に部屋へと、甲冑をかちゃかちゃと鳴らしながら歩いて帰って行きながら、言った。

「義心はやっぱ、出来るヤツだなあ。お前の背中にくっついてるんじゃねぇかと思ったぐらいだ。お前、義心のことはぜんっぜん気にしてなかっただろ?好き勝手立ち合ってるだけだったじゃねぇか。」

維月は笑いながら、甲冑なのに飛ぶような足取りで歩いて言った。

「前世の義心でも一緒に組んで戦った事なかったから、どうなるかなって思ってたんだけど、義心ったらいくらでもついて来るし、これは放って置いても大丈夫そうって思ってああいう立ち合いになったの。義心だったら一緒に戦いやすいなあ。いつもすっごくいい位置に居て補佐してくれるのー。維心様もだからきっと、前世から重用したんだろうなあ。」

十六夜は、部屋の扉を開いて中へと歩きながら、笑った。

「マジかよ。で、とりあえずは維心が来てからあいつのことを話すの忘れちゃならねぇなあ。このままでも別にいいけどよ、後で知ったらあいつ隠してたのかってまた怒るだろ。めんどくさいし。」

維月は、甲冑の紐を解きながら何度も頷いた。

「だから分かってる。絶対話すわ。義心があれだけ優秀なんだもの、維心様だって喜ばれると思うんだけどな。だって、志心様のことだって調べて来たのよ?ええっと、十六夜は知ってるでしょ?」

十六夜は、さっさと甲冑を放り出すと軽い着物に腕を通しながら頷く。

「ああ、月から見てたから。志心が具合悪いんだろ?あいつもそれこそ隠したそうだったから、オレも誰にも言ってねぇんだが、義心が調べて来たからな。老いってんでもねぇみたいなんだが。」

維月は、十六夜と同じように甲冑を脱いで着物を着ながら答えた。

「そうね、義心もそう言ってた。ねえ、なんだと思う?お父様には聞いた?ただ疲れてるだけならいいんだけど。」

十六夜は、維月と手を繋いで椅子へと座りながら、うーんと首を傾げた。

「わからねぇ。別にめっちゃ具合悪そうとかでもねぇし、ただだるいっていうか、長い事動いてたら疲れるから寝てなきゃならなくなるって程度なんだよな。でも、治癒の神達が見てるけど分からんみたいだし。オレだって医者じゃあるまいしなんのこっちゃか分からんし、親父は聞いても教えてはくれねぇ。」

「神世のことってことね。」維月は、困ったように笑いながら言った。「お父様に何でも聞いたら終わりってなっちゃいけないから、お父様を責められないわ。次の会合があるから、それまでにご回復されなかったらきっと何か知らせて来られると思うんだけど。他の宮を案じておる場合じゃないもんね。」

十六夜は、維月の肩を抱いて笑った。

「そうだぞ?お前、維心を怒らせずに義心の転生の話をしなきゃならねぇし。蒼の言う通り、隠してたと思われたらまた面倒だしさっさと言おうぜ。なんなら今から手紙出して言ってもいいぐらいだ。」

維月は、それには首を振った。

「そんなこと手紙で送ったら、維心様は政務を放り出してここへ来ちゃう。だから、来られるまで待つわ。ねえ十六夜、どうやって言おうかなあ。嘘は通用しないし、私は正直にあの、別次元に落ちた時のことをお話するつもりだけど。義心にも同席してもらって、話した方がいい?」

十六夜は、真面目な顔で考え込みながら、首を振った。

「…いや。あいつもどんな顔をして維心の前に出たらいいのかって思うんじゃねぇか。そこは維心に任せようや。義心とお前が揃って話があるなんて言ったら、お前らがデキちまったんじゃないかってまた大変なことになりそうだし、そこは自然にやろう。」と、昇り始めた月を見上げた。「お、晴れて来た。なあ露天風呂行こう、維月。ちょっと北へ行った所に新しいの見つけたんだ。親父が、維月を連れて来てやろうって小屋作ってた。親父も呼んで、風呂に浸かってこよう。」

維月は、キラキラと目を輝かせて手を叩いた。

「本当?!嬉しい、行こう行こう!」

そうして、また二人は手を繋いで碧黎の部屋へと向かった。

義心のことは、もう忘れていた。


その頃、龍の宮では維心が遠く白虎の宮を探っていた。

維月も居ないしもう眠ろうかと思っていたのだが、それでも志心が気になって仕方が無かったのだ。

維心の気の量なら、集中して探れば他の神の結界の中でもある程度は感じ取ることが出来る。見ていると、どうやら志心は奥へ籠りがちで、時々に居間へと出て来る程度の生活をしているらしかった。

病となると特有の気を気取れるはずなのだが、志心からはそういった気は感じられない。それよりも、以前よりも格段に少なくなった気の量を感じ取れるのみだった。

…しかし、老いが来た時の症状と似ておることよ。

維心はそう思ったが、義心は老いでもないという。

それならば、これはいったいなんだ?

気にはなったが、それでも結論は次の会合まで出ることは無さそうだった。

維心がもう寝るかと思っていたら、フッと自分の結界を知った気が通り抜け、真っ直ぐにこの、奥宮へと向かって来た。

維心は、眉を寄せた…この時間になって、何をしに参ったのだ。

それでも、その気の持ち主が来るのをじっと待っていると、王の居間の目の前の庭へと人影が舞い降りて来てこちらへ歩いて来た。やはり、と維心は窓を開けて言った。

「炎嘉。何ぞ、このように夕刻を過ぎてから。もう寝るところであった。」

炎嘉は、それでもずかずかと維心の居間へと入って来ると、真顔で言った。

「我も寝ようとしておった。だが、気になる噂を嘉張が聞いて参って。もしかして知っておるやもと思うて来た。主、志心の話を聞いておるか。」

維心は、嘉張も気取ったか、と思ったが、息をついて自分の椅子へと座った。

「知っておる。まあ、座れ。」

炎嘉は、言われなくても座ろうと中腰になっているところだったので、そのまま座って言った。

「やはりか。なぜに我に言わぬ。志心が前の会合の折から何やら気を回復できずで困っておるのだとか聞いたのだがの。病でもないし老いでもないとかで、志夕が何とか宮を回してやっておるらしい。」

維心は、答えた。

「というか、まだ白虎は告示しておらぬだろう。こちらが密かに探って事を、皆に晒してはと思うたのよ。あちらも、困れば相談に参ろうしな。主とて志心には面倒な感情があるのではないのか?あまり構いたくないであろうが。」

炎嘉は、そう言われてバツが悪そうにジトッとした目で維心を見た。

「確かにそうであるが…それでも、あれももう良い歳であるし、気になるのだ。志夕は大きくなっておるとは言え、まだ政務を完璧にこなせるほど育ってはおらぬ。志心に聞きながらなんとかこなしておるようぞ。このまま代替わりなどせぬとは思うが…そうなると、箔翔のようにならぬか案じられることよ。何しろ、まだ神世に子ども扱いされておるのだからの。駿はあのように必要以上に出来た皇子であったから、観が亡くなった後も全く困ることは無かったが、志夕は王としてはまだまだぞ。気にするなと申す方が無理よ。」

言われてみたらそうだった。それなりに育って来ているとはいえ、それでもまだ志心に比べたら神世の厳しさを知らない皇子なのだ。駿は、宮があんなに荒れていたので、観の留守を務めたりと王の名代もこなす優秀な皇子だったので、いきなりに父王を亡くしてもああして問題なく宮を回しているが、普通はそう簡単には無理なものだった。

「主の気持ちは分かるつもりよ。だが、今はどうしようもあるまい。どちらにしろ、次の会合まで長引くようならあちらも理由を説明せねばならぬようになるし、そうしたら我らにも自然相談して参ろう。ゆえ、主も見守るだけにして大騒ぎはせぬことぞ。あちらは隠しておるのだからの。それを分かってやるが良い。」

炎嘉は、仕方なく諦めて、頷いた。

「…仕方のない。主の言う通りよな。それにしても…あれまでも世を去るようなことになったらと思うと、心が重いわ。まあ我とて一度死んでおるし、主もよな。命をどうこう言うても始まらぬよの。」

維心は、頷き返しながらも、考えていた。碧黎…ちょうど月の宮へ行くのだし、あれに一度聞いてみよう。

そう、決心していた。

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