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疲労

維心は、言った通り帰る前に高晶の結界の上へと立ち寄り、領地内の歪みが無いか確認してから、龍の宮へと飛んだ。

高晶の方の土地はそれほど乱れていないらしく、少し波打つ程度で問題は無かった。結界が通常に戻った今、自己修復しつつあるようで、変に手を加えない方が良いと判断して、戻って来たのだ。

やっとのことで龍の宮の到着口に降り立つと、鵬が待っていて頭を下げた。

「王。おかえりなさいませ。」

維心は、頷いた。

「今回は疲れたわ。会合の内容は義心に聞け。我は少し休む。維月は戻っておるか。」

鵬は、歩き出す維心に急いでついて歩きながら、頷いて答えた。

「はい。先ほど月から戻りになり、お部屋でお待ちでございます。」

維心は、ホッとして頷いた。

「分かった。では主らは義心から報告を受けよ。ではな。」

維心は、あちこちで広範囲に力を使ったので、大概疲れていたので、報告は全部義心に丸投げして、もう休もうと奥宮へと足を進めた。鵬は、頭を下げてそれに従い、義心の方へと戻って行くのが視界の端に見えた。

維心は、とりあえず寝たい、と思いながら歩いていた。


やっとのことでたどり着いた奥宮の居間では、報告通り維月が待っていて維心が入って来たと同時に頭を下げたが、そこには十六夜も居た。

維心は、また何か話でもあるのかとうんざりしながら維月へと手を差し出し、その手を取って椅子へと腰かけた。

「何ぞ、十六夜?我は昨夜一晩中次元の修復に飛び回っておって疲れておるのだ。少し休みたいと思うておるのに。」

十六夜は、軽く眉を寄せた。

「なんでぇ、せっかく維月を連れて来てやったのに。昨夜はお前が心配だってんで月に戻ってたんだからな。お前が仕事を終えたのが見えたから、じゃあ危険もないだろうからオレが送ってくって来てやったんだぞ。お前が戻って来たら帰るつもりだった。」と、維月を見た。「ほんとこいつは失礼な奴だな。とにかくオレは帰る。また戻って来いよ、維月。来月にでも里帰りして来てもいいんじゃないか。最近暇だしよお。」

維月は、苦笑しながらも頷いた。

「ええ、また時間を作るわ。ありがとう、十六夜。」

維心は、送って来ただけか、と少しバツが悪かったが、言った。

「昨夜は助かった。また里帰りの件はこちらも前向きに時を作るようにするゆえ。」

維心にしたら謝るということをあまりしない育ちなので、これが精いっぱいの譲歩なのだろう。十六夜は長い付き合いなので維心のことは分かっている。なので、フッと呆れたように微笑むと、頷いた。

「そうしてくれ。じゃあな、また来るよ。」

そうして、月へと打ち上がって行った。

維心は、十六夜がすぐに機嫌を直してくれたのでほっとしていた。十六夜はあれで、一度へそを曲げるとめんどくさいことになるので、こちらが礼を失したとなると機嫌を取るのが大変なのだ。

いくら疲れているからと、もう少し気を付けた動きをした方が良かった、と思いながら維月の手を取って立ち上がると、本当にだるそうに言った。

「維月、すまぬが誠に疲れておって。奥で休みたい。共に参ろうぞ。」

朝だけど。

と維月は思ったが、維心が言うのが別の意味の奥へ行こう、ではなく、本当に休みたいから奥へ行こうと言っているのだと、その気の量から、分かった。

次元を修復するにはたくさんの気が必要で、維心ぐらいしか出来ないということは、それだけ無理をして使っているということだ。維月は、維心を気遣ってその手を握った。

「はい。私がお傍に居りまするから。維心様には、ごゆっくりとなさってくださいませ。」

維心は力なく、しかし嬉しそうに微笑むと、維月の肩を抱いて、奥へと向かった。

「誠に…此度は疲れた。」維心は、維月に着物を脱がされて、襦袢だけになり寝台へと横になった。「範囲が広うてな。志心など途中でふらふらになってしもうて。途中からあれをぶら下げて我一人であちこち修復しておったら、疲れてしもうたのだ。神の力の干渉は気を付けねばならぬの。」

維月は、それを聞きながら、自分も上の袿を脱いで維心の横へと滑り込み、上布団を掛けた。

「はい。父が申すには高晶様と志心様の力の相性が良うないのだとか。高晶様の気が高司様より上であったのだということらしいですわね。」

維心は、自分の隣りに横になった維月を抱きしめて、ほっと息を付きながら、頷いた。

「そうよ。もう干渉しないように気を読んで離しておるから、あのようなことは起こらぬと思うが、しかし気を付けておくように高晶にも申した。」と、維月の髪に顔をうずめながら、言った。「ああ落ち着くものよ。主が居ると我は回復が早いわ。気の補充がすんなりと出来る。我はこうしておるのが一番に幸福よ。」

維月は、維心の背に腕を回して抱きしめ返しながら、その胸に頬を寄せて言った。

「私から癒しの気もお送りしますから。早うご回復なさってくださいませ。お手伝い致しますわ。」

維心は足でも維月を抱き寄せて、微笑んだ。

「主はそのままそこに居るだけで良いわ。しばしこのまま…休むゆえの。」

維月が頷くと、維心は途端に寝息を立て始めた。相当に疲れていたのだろうと維月は思い、その頭を撫でながら、いったいいつ義心の転生のことを話そうかと、維月は悩んだのだった。


そうやって維心も回復し、通常の政務に戻るようになった。

それでも維月は、タイミングを逃してしまってまだ義心が転生していることを話せてはいなかったが、隠しているわけでもなく、ただいつ話したらいいのかと、維心が機嫌を悪くしないようにと状況を見ているだけだった。

そんな様子でひと月ほど経ってしまい、維心が政務から戻って来て、言った。

「今戻った。留守中変わりないか。」

いつものことだったが、まだ出て行ってから4時間ほどしか経っていない。維月は、微笑んで首を振った。

「何も問題はありませんでしたわ。お茶をお入れいたしますか?」

維心は、維月の手を取って椅子へと座りながら、首を振った。

「いや。会合で飲んで参ったゆえ。」と、維月の肩を抱いた。「午前の政務が終わって戻って参るのが待ち遠しかったわ。主と離れておったら落ち着かぬのだ。本日は午後からは何も入れるなと言うて来た。」

維月は、困ったように維心を見上げた。

「まあ。私はこちらに居りますから、維心様にはご案じなさらずどうぞご政務にお出ましあそばして。そのように突然に切り上げてしもうては、臣下達が困りましょうほどに。」

維心は、ブスッとしてそれに答えた。

「良いのだ。明日は主がまた月の宮へと里帰りするのだし。もちろん我も後から参るが、こうして部屋へ帰って主が居らぬことを考えたら、居ても立っても居られる心地ぞ。明日からは夕刻までびっしり予定を入れさせておる。なので本日はもう良いのだ。」

維月は、苦笑して仕方なく頷く。それも、結局は維心が維月を追って月の宮へ行ってしまうので、その間の政務を一週間ほどに詰め込んで済ませてしまわねばならないからに他ならないのだが、それを言ってしまってはまた、維心がぐちぐちと言いそうなので、黙っていた。

また、義心のことを言い出すことが出来そうでないなあと維月がため息をついていると、義心の声が扉の向こうでした。

「王。ご報告に上がりました。」

維心は、顔をそちらに向けると、肩を抱いていた手を放して維月の手を握り、そうして、答えた。

「入るが良い。」

すると、義心がサッと入って来て、膝をついた。

維心は、義心を見て言った。

「何かあったか。」

義心は、顔を上げると、答えた。

「は。あれから次元の見回りをしておりまするが、今のところ志心様の領地も高晶様の領地も、その周辺の宮々も次元に歪みはございませぬ。恐らくは、王がご指示なさった通りの結界の位置で固定しているため、あの辺りは落ち着いた様子でございます。」

維心は、満足げに頷いた。

「それは重畳よ。あれからひと月であるし、そろそろ安定したと思うても良いであろうな。我も苦労した甲斐があるというもの。」

それにしても、こやつは次元を見通す目も持ち合わせておるとはの。

維心は、そんなことを思いながらもおくびにも出さずに言う。義心は、続けた。

「時に…我が王はそのように直後より気を回復されて問題なくお過ごしであられまするが、志心様にはお加減をお悪くなさっておるのをご存知でございましょうか。」

維心は、驚いて片眉を上げた。志心が?

「…あれは、気を回復出来ておらぬと?」

義心は、眉を少し寄せて頷く。

「はい。あれからいつなり奥で横になっておられることが多く、特にご病気である風でも老いが来られたわけでもないようですのに、お体に力が入らぬご様子。志夕様が政務を引き受けられ、分からぬことは志心様にお聞きになられるといった具合で、只今は白虎の宮は回っておりまする。もちろん、ただ気を失っておられるのかという風なご様子で、今すぐどうにかなるという感じでもありませぬが、王には知っておかれた方がよろしいかと。」

維心は、顎に手を当てて考え込んだ。老いが来たのでもない、病でもないのならなぜに志心は回復しないのだろう。確かにあの時は無理をさせたが…しかし、気を消耗しただけで大したことではないように見えた。蒼は、もう志心が良い歳なので案じていたようだったが、本人が何でもないと言っていたのだ。

「…解せぬの。どうしたことか。気を補充すれば終いであると思うておったのに。老いておると言うのなら理解も出来るが、そうでもないというのなら、何が原因であるのか。」

維月も、気遣わし気に頷いた。

「はい、私もそのように。ですが確かに、維心様にもあの折お帰りになった時には、大変にお疲れのようでありましたし…志心様にも、お疲れが出たとかそういったことではないでしょうか。」

頷きながらも、維心は、義心を見た。

「神世の王はこれを知っておるか。」

義心は、首を傾げた。

「志心様にはお隠しになりたいようでありましたし…臣下にも、箝口令を敷いておるようで、恐らくは未だ誰もお知りにならぬかと。このまま会合の日を迎えられたなら、恐らくはお知らせになるかとは思いまするが。」

維心は、苦笑した。ということは、義心が何やらコソコソとしている空気を感じ取って、密かに志心の結界内へと潜入して、調べて来たということなのだ。そんなことは、命じられてもいないのにどこの宮の軍神もしなかった。というよりも、他の宮の軍神では恐らく志心の結界内には気取られずに入れない。

この、義心の能力を継いでいる孫の義心だからこそ、それを成し遂げることが出来たのだろう。

維心は、言った。

「分かった。ならば我も知らぬふりをしようぞ。会合までまだひと月あるし、次の会合は我が宮で執り行う予定であるしな。志心が来れぬとなったら皆で押し掛けて原因を探るという形にする。しかし、あまり無理をするでないぞ、義心。主の祖父はそれは優秀であったが、主が無茶をして気取られたらと思うと我も案じられるわ。まあ、気取られるのは良いのだが、表立って面が割れたら面倒であるからな。気を付けよ。」

義心は、驚いたような顔をしたが、頭を下げた。

「…は。肝に銘じておきまする。」

維月は、ハッとした。そうだ、私に知られたのだから、維心にも知られていると義心は思っていただろう。だが、今の話で維心が知らないのを知って、一瞬戸惑ったのだ。

何も知らない維心は、出て行く義心を見送って満足げにしている。維月は、どうしたものかと思ったが、今、実はと言い出したなら、知らずであんなことを言うてしもうたと維心が拗ねるかもしれないので、それも出来ない。

明日からは里帰りだしと、維月がやきもきする横で、維心は何も知らずに志心のことを考えているようだった。

これは、月の宮へ維心様が来られた時に言おう。

維月は、そう決めていた。

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