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次元

維心は、ハッと月を見た。

青白い光が、月へと打ち上がって行く。

…維月は、月へ帰ったのか。

よく考えたら、それが一番安全だった。月に居る限り、誰も維月に手を出せないからだ。次元の亀裂さえ、月に居たら関係ないだろう。

自分がそれに気付かなかったことを自分で驚いていたが、とりあえずホッとして、維心は目の前の問題に目をやった。

広域に空間だけに目を凝らして見ると、確かに碧黎が言った通り、この辺りの次元がまるで熱であちこち歪んだガラス越しに見ているような、そんな様子に見えた。

志心の結界と高晶の結界がお互いにビリビリと干渉し合っていて、数メートル離れているにも関わらず、その辺りが波打っていて収まる様子は無かった。

維心は、顔をしかめた。

「…ならぬな。」維心は、二人を見た。「朝、上空から見た時はそうでもなかったというのに、別次元が開いたのが悪かったのかこれぐらいの開きでは干渉が収まっておらぬわ。主ら、少しずつここの結界を後退させよ。干渉が収まる地点を調べる。」

高晶と志心は、顔を見合わせた。そうして、言われた通りに手を上げ、その位置の結界を後退させ始めた。

高晶の結界は、あちらの方へとじりじりと下がって行く。また、志心の結界もこちらへと狭まって来た。結界は、維心の目にはバチバチと干渉し合って線香花火のように細い火花を散らしていたのが、徐々に無くなり、そうして、波打っていた表面が穏やかに揺らぎを止める、その時を待った。

「…今少し。」維心は、言った。「よし、そこぞ!」

二人は、ピタと縮める力を止めた。

見ると、お互いの領地境から数百メートル離れた位置になっていた。

「ここか。」

志心が言うと、維心は頷いた。

「この距離で張っておれば、全く干渉せずで済むようぞ。ここを覚えて、これからはこの位置を守るが良い。この辺りに住む者が居ったら移動させるが良い。」

志心は、頷き返した。

「すまぬな。確かに何か結界に引っ掛かる感覚が無くなったわ。この辺りに結界が無くなるが、とはいえそう神が住んで居る場所でもないので、対応も楽よ。このままにしておけば、無理なことは起こらぬということよな?」

維心は、また頷いた。

「起こらぬ。早急にあちこちにほころびが出ておる次元の不安定な所を、これより我と共に塞いで参ろう。余波であちこち歪んでおるから、そこを全て整えることで、今後はこれまで通りに安定するであろう。とはいえ、主らは気を付けよ。お互いの気が干渉し合うと面倒なのだという事は、覚えておった方が良いぞ。」

高晶が、頭を下げた。

「は。では、どこから整えて参るのでしょうか。」

維心は、遠く目をやった。

「…主の領地の方は、今のところ安定しておるな。それよりこちら。志心の領地の方が位置的に複雑になっておるようよ。こちらを整えよう。我と志心がやるゆえ、主はもう戻っておって良いぞ。念のため、明日帰る前に主の領地の上空を飛んで、見回っておくゆえ、案じることは無い。」

高晶は、ホッとして頷いた。

「は。感謝し申す。」

そうして、高晶はそのまま白虎の宮の、己の控えの方へと戻って行った。

維心は、志心を見た。

「では、参ろうか。大きく気を使う事になるゆえ、少々疲れるかもしれぬぞ。我が主立ってやるゆえ、主は補佐してくれれば良い。」

志心は、緊張気味に己の領地を見た。次元の問題は、やはり王であっても触れるのは慎重にならざるを得ないのだ。特に、志心一人ではそうそう次元が裂けて開いて来る時の、大きな力に抗うのは難しかった。

「すまぬな。主に頼ってばかりぞ。このような事は、我らには難しい。」

維心は、それを聞いて苦笑した。

「ま、仕方がないのだ。だからこそ、我は碧黎に地上の王だと言われておるのだろうよ。案じずとも、これぐらいなら我が何とか出来るゆえ。ただ、亀裂に落ちるでないぞ。狭間なら我でも引き上げられるが、別次元でそこが厄介であったら、我でも太刀打ちできぬ事がある。」

志心は、ゴクリと喉を鳴らして、頷いた。

「分かっておる。主の後ろから離れぬよ。」

そうして、二人は志心の領地の上を飛び、二人で空間の歪みを正して行ったのだった。


《でね、蒼に邪魔されちゃったから途中で切れちゃったけど、義心の事を維心様に隠しておくのは後々の事を考えたら駄目なんじゃないかって思うのよ。》

月で維月が十六夜に言うと、十六夜は神妙な声で答えた。

《だなあ。オレもすぐ言った方がいいと思うぞ。後で知ったらまた、あいつのことだから、義心が死んだ直後の反省とか忘れて、お前と義心がまた何かあるんじゃないかって勘繰って大変だぞ。…で、何も無いんだろ?》

維月は、とんでもないという声で言った。

《無いわ!確かに義心が戻って来てたんだって知った時には、とても嬉しくて私も戸惑ったけど、せっかく生まれ変わって来たのに、今生まで私なんて…。そもそも、維心様と義心には弓維をって、そう思ってたのに。》

十六夜の声は、渋い色になった。

《いやそれなあ…オレも義心には皇女がぴったりだって思ってたんだけどよ、あれが前世の義心と同じ義心だったら、絶対断るぞ。お前だって分かるだろ?今生はあいつも兄弟がいっぱい居てその兄弟の子供もいっぱい居るし、跡取りとか無いんだからお前が駄目なら一生独身でもいいって思ってると思う。無理強いしたらあいつにとっては有難迷惑だと思う。》

維月は、案じるような声を出した。

《そう思う?…じゃあ、無理には言わないけど…でも、誰か結婚したいって女神が出来たら、私達が口添えして絶対婚姻出来るようにする。それならいいかな。》

十六夜の声は、それでも気が進まなさそうだった。

《あのなあ、義心ならお前らが口添えなんかしなくても、相手が二つ返事で承諾するっての。とりあえず、余計なことはしない方が良いってことだって。あの義心だぞ?あいつもあれで、へそを曲げたら維心並みに面倒だからな。もうほんと、龍ってのは血が濃いほどあれだから厄介なんだよー。とにかく、ほっとけ。分かったな?》

維月は、渋々言った。

《…分かった。何も言わずにおくわ。でも、維心様には宮へ帰ったら記憶が戻っていたことはお話するわね。今生までお気を遣わせたくないし。》

十六夜の声は、歯切れが悪かった。

《う、うん、まあ、でも、維心は話しても話さなくても面倒なヤツだからなあ。話しといた方がいくらかマシだってだけだから。慎重にな。》

維月は、それには頷いたようだった。

《うん。大丈夫よ。多分。》

いろいろ不安だったが、しかし維心には言って置いた方が、後々のことを考えても、義心にとっても良いだろうと思われた。

そうやって、それからは維月と十六夜は、月で同じ体を共有しながら、関係の無い話に花を咲かせていた。


次の日の朝、蒼が眠い目を擦りながら夜明けに目を覚ますと、侍女が言った。

「蒼様。龍王様がお呼びであるとか。貴賓室へお越しくださいませとのことでございます。」

蒼は、急いで起き上がった。

「すぐに伺うとお伝えしてくれ。」

侍女の声は、戸の外から答えた。

「はい。」

そうして、蒼は起き上がると、自分の侍女達が慌てて持って来る手水の桶で顔を洗って、急いで準備をして維心の控えへと向かった。


そこには、炎嘉も焔も、箔炎も駿も翠明も高晶ももう、揃って座っていた。蒼は、恐らく自分が一番起きるのが遅かったのだろうなと思いながら、急いで空いている椅子へと足を運んだ。

「すみません、遅くなってしまって。」

それには、炎嘉が答えた。

「良い。主は普段日が高くなるまで寝ておるだろう。維心と志心が戻ったのだ。」

蒼が頷いて前を見ると、維心と、疲れ切ったように見える志心がこちらを向いて座っていた。維心が、答えた。

「行って参った。一晩中掛かってしもうたが、ここの次元を整え終わった。もう、こちらは案じることは無い。志心と高晶の結界も、問題ない位置まで離して張るようにしておるし、これで大丈夫だろう。また何かあったら申すが良いぞ。」

志心が隣りで口を開くのも嫌だというような様子でただ、座っているのが、蒼には気になった。なので、言った。

「あの、志心様は大丈夫ですか?大分お疲れのようですけど。」

維心は、傍らに座る志心を見て、苦笑した。

「ああ、志心には我の補佐をしてもろうておったのだが、あまりに長く気を放つので途中でフラフラになってしもうてな。そのままではあちこちまだ次元が緩んでおったし、宮へ帰す訳にも行かぬで連れて飛んでおったのだ。まあ、己の領地の中なのだから、すぐに回復しようし案じることは無い。」

とはいえ、志心は若い姿だが結構な歳だし、あまり無理をさせるのは良くないのでは、と蒼は心配した。志心は、そんな蒼の様子に気付いて、緩く微笑んで蒼を見た。

「案じるな。維心の言うように、ここは我の生まれ育った土地であるから、我には吸収しやすいので今回復しておるところよ。それより維心には、ほとんど一人であちこち元に戻してもろうてしもうた。感謝しかないわ。」

維心は、頷いた。

「我も少し疲れたが、しかし志心ほどではないからの。帰りに高晶の領地も見回ってから、我が宮へ帰ろうと思うておる。」と、息をついた。「して、維月は月へ帰っておるのだな。何か申しておったか。」

それには、蒼が答えた。

「十六夜がその方が良いと言って。維心様が龍の宮へ帰られたら維月もそちらへ降りると申しておりました。」

維心は、ホッと息をついた。

「そうか。我もそれに思い至らなかった己に驚いたわ。確かに月に帰っておるのが一番良いものな。ならば我も、もうここを発つわ。主らも、己の宮の結界を、今一度見ておくが良い。次元は全て繋がっておるから、どこに不具合が生じるか分からぬからな。何かあったら我に知らせを。早めであれば我でも何とか出来ようが、あまりに大きくなると我でもどうにも出来ぬようになる。碧黎に頼むとなるとひと騒動ぞ。ゆえ、しばらくは領地内をよう見ておくようにの。」

焔は、珍しく真剣な顔をして頷いた。

「離れておるからと油断しておってはならぬな。我も戻ったらよう見回っておく。傍の小さな宮々にも何か見つけたら申すように告示しておく。まあ、会合で志心と高晶の結界の干渉で面倒なことになっているのは言うたのだし、何かあったら黙ってはおらぬだろうが。」

炎嘉も、頷く。

「そうであるな。しかしあれらは気が利かぬ事があるから。こちらから見て回った方が良いやもしれぬぞ。我はそうする。さもないとこちらも迷惑を被るゆえな。」

駿は、戸惑うような顔をした。

「我は、封じる術を知らぬので、それを倣わねばなりませぬ。」

それには、箔炎が言った。

「主には我が教えるゆえ。この後そちらへ寄ろうぞ。」

駿は、ホッとしたように頷いた。

「頼む。安堵したわ。」

それを聞いて、維心は立ち上がった。

「では、我は参る。連絡が無いことを願っておる。」

そうして、維心はさっさとそこを出て行った。侍女達が、慌てたようにその後を必死について行くのが見えた。どうやら、維月について来ていたのだが、維月が月に居るので維心に置いて行かれては帰れなくなると必死なようだ。

それを見送ってから、他の王達も重い腰を上げた。

「さて、では我らも。」

皆がぞろぞとと歩いて出て行こうとするのに、翠明が慌てて言った。

「箔炎殿!我も次元の裂け目とかそういうものを封じる術を知らぬのだ、教えてもらわねば。」

箔炎は、翠明を振り返った。

「ならば主も駿と一緒に教えようぞ。今から一緒に参るが良いわ。」

どう見ても息子ぐらいの歳の箔炎が、父親ぐらいの歳の翠明にそんな風に言うのに、何やらおかしな様子だったが、中身が1000年以上生きた箔炎なのだからああなるだろう。

翠明は、駿と共に神妙な顔をして箔炎について出て行った。

志心も、疲れ切って話したくもない様子だったが、無理やり立ち上がって、己の部屋へと戻って行ったのだった。

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