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不明

義心は、毎日神世の様子を見て、何かあったら維心に知らせなければと、過ごしていた。

今日は、帝羽に宮を頼んで維心について、志心の宮へ会合に来た維心について来ていた。

自分が筆頭に座ったのはつい数年前で、驚くほどすんなりと、皆は自分の指示に従ってくれている。自分はまだ成人まで少しある神で、本当なら上位の軍神達の抵抗もあって、最初は面倒なはずだった。

それが無かったので良かったといえば良かったのだが、義心は複雑だった。

そんな義心の気持ちも知らず、維心は今日は久しぶりに維月を連れて宮を出て来ていたので、会合の間、控えの間で待たせるので、警護をせよと言い置いて、会合へと出て行った。

義心は、維月が居る最上の貴賓室のその扉の前で、じっと膝をついて、維心が帰るのを、維月を守りつつ待っていた。

すると、扉が少しだけ開いた。

「義心?居る?」

居なかったら大変なのだが、義心は答えた。

「維月様?侍女はどうなさったのですか。」

維月は、扉の隙間から、こちらを見て苦笑した。

「良いのよ。あの子達にはいろいろな宮の軍神が来ているから見ていらっしゃいって言ったの。今は私の侍女も代替わりで若い子が多いし、興味があるかと思って。」

義心は、顔をしかめた。部屋の中には侍女が居るから問題ないと思っていたのに、わざわざ人払いしたのか。

「…ならば窓も閉じても良いでしょうか。我の気で結界を。」

王がお留守の間に何かあったら大変だ。

しかし、維月は首を振った。

「いえ、私今からお庭に出ようと思って。ついて来てもらおうと思って声を掛けたの。」

義心は、目を丸くした。庭っ?

「維月様、王がご不在でありますのに、お一人でお庭になど。せめて王がお戻りなるまでお待ちになって、ご一緒に出られた方が良いのでは。」

維月は、顔をしかめた。

「維心様が居られない間にサッと見て来ようと思ったから声を掛けたのに。なら、良いわ。こちらのお庭なら知っておるから、一人で行って来ます。留守をよろしく。」

「え…、」

義心が呼び止めようとしたが、維月はさっさと引っ込んでしまった。慌てた義心は、そっと扉を開いて、中へと足を進めた。

「お待ちください、お一人でなどもってのほかでございます。」

維月は、もう部屋の掃き出し窓の前に居て、そこに手を掛けていた。本当に、一人で出て行こうとしている。しかも、ベールも着けずに。

「義心ったら志心様の宮なのだから、大丈夫よ。これまでは維心様は警備なんて申しつけずに会合に出てらしたのに、今日に限ってお気が向かれたのかあのように。帝羽だって維心様が出て来られるのを会議室の前で待っておったぐらい。気にしないで。」

義心は、首を振った。

「それでも、本日は我に命じられたのです。では、どうあっても行かれるのならせめてお姿を隠すベールを。ええっと、こちらか。」

義心は、傍にある厨子の蓋を開いて中を見た。そこには、維月の着物の換えと、きちんと全身を覆うベールも入っていた。

ホッとした義心は、それを持って来て、維月に掛けた。

「さあ、これで。さっと参って王が戻られる前にはお戻りくださいませ。ご心配なさると思いまする。」

維月は、仕方なく義心に被せられたベールを着けたまま、ため息をついた。

「分かったわ。志心様の宮は、白薔薇の園があってね、とても美しいの。」

存じておりまする。

義心は、志心の宮もとても良く知っていた。白薔薇の園と言えば、ここから歩いて10分ほど。行って帰ってそう、時は取らない。

「では、参りましょう。寄り道はなさらずに。」

そうして、維月は先に立って歩いた。義心は、留守の間に王がお戻りにならねばいいが、と思いながら、そこを後にしたのだった。


維心は、やっと終わった会合の席から、立ち上がった。

今日の議題は、そう大したことは無くて、志心と高晶、駿の領地は接しているので結界も接しているのだが、そこが最近は気同士が触れ合って不安定になっているとかで、結界を張る位置の調整がどうのといった、そんなことがメインの議題だった。

炎嘉が、歩き出した維心の後に続いて、志心や焔、蒼、駿、箔炎、高晶と、馴染みの面々が後へと続いて行く。

自分の控えはと気を飛ばして見ると、そこには維月の気配がない。警備を申しつけて来た、義心の気配もなかった。

さては、来る前から白薔薇の盛りなので見たい見たいと言っていたことだし、一人で行ったのだな。

維心は、そう思って顔をしかめた。ならば、義心が困っているだろう。本当なら、妃が王の留守にうろうろするのはあまりないので、義心は恐らく止めただろうと想像できるが、維月のことだから、行くと言って聞かなかったと思われた。

とはいえ、志心の宮で危ない場所など無かった。なので、維心が回廊を歩きながらため息をついていると、志心が言った。

「何ぞ?本日は維月も連れて来たのだろう?それでも早う帰りたいか。」

維心は、首を振った。

「違う、その維月が、庭へ出ておるようだから、戻るのを待たねばならぬなと思うてな。」

志心は、眉を上げた。

「庭?…そうか、維月はここの庭をよう知っておったな。」

維心は、頷く。

「来る前から白薔薇の季節であるから、見たい見たいと言うておって、だから連れて来たのだがの。恐らくは白薔薇の園へ行ったのではないか。」

志心は、それを聞いてふと、足を止めた。

「白薔薇の?…確かに盛りであって美しいが、今は半分が面倒な事になっておってな。修復中なのだ。まさか一人では行っておるまいな。」

維心は、眉を寄せながら首を振った。

「警護を命じておった義心が居らぬから恐らくついて参っておると思うが。面倒とは何ぞ?」

志心は、答えた。

「次元の裂け目ぞ。」

維心は、怪訝な顔をした。

「結界が接しておる場所だけではないのか。」

志心は、首を振った。

「会合で言うたであろうが。高晶の領地と接しておる辺りが、不安定で結界の張り方を変えねばと今、少し結界を離して張っておるが、一度不安定になってしもうたら、宮を建てる時に次元を跨いで作っておる場所が連鎖的におかしゅうなって次元の裂け目が出来ておるのだ。とりあえず我が封じて今、それを得意としておるヤツに完全に閉じるように指示しておる。しかし、準備が必要だとかでまだそのままぞ。」

維心は、嫌な予感がした。次元の裂け目といえば、月の宮が一度それで面倒な事になっていて、月の宮を建てる時維月がその裂け目に落ちている。まさに、あの義心の祖父の、義心と共に。

「…探しに参る。白薔薇の園は、東だったか?」

志心は、頷いた。

「東南東ぞ。案内しよう。我の封じがあるゆえ裂け目に落ちることは無かろうが…土地も不安定になっておるからな。」

炎嘉は、脇から言った。

「我らも参るか?」

維心は、首を振った。

「いや、志心が居れば十分ぞ。主らは先に宴の席へ参っておってくれ。ではな。」

維月の気配が探れない。

恐らくは、自分が術を掛けた気を遮断するベールを着けているからだろうが、それが逆に不安だった。義心の気も大きいので探りやすいはずが、どうしたことか、感じ取るのが困難だ。

…微かに、義心らしい気が感じ取れるような気がするが、しかし何やら心もとない様子に思える。しかし、志心の宮で心もとない様子など、あるはずもない。志心の結界の中には、維心の結界と同じく、変な輩は入っては来れないからだ。

「志心、何か見えるか?」

維心が言うと、志心はじっと空を見つめて、首を振った。

「…何も。気配を気取れぬな。維月の気は珍しいゆえ、すぐに見つけられるかと思うたが、全くぞ。結界の目を使っても、姿が全く見えぬ。それもまた異な事よ。どちからかで歩いておったとしても、我が結界内なら絶対に見えるものを。まさか、結界を出たのか?…しかし、何も結界に触れた様子は無いがの。維月だけならともかく、義心が抜けたら我には分かるゆえな。」

維心は、何か起こっているのでは、と不安になって来る気持ちを抑えながら、志心に案内されて、白薔薇の園へと足を進めたのだった。

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