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縁談

維月は、話の流れから、言った。

「まあ、では維斗は駿様にようお相手頂いておるのですわね。」

椿は、すっかり緊張も取れて茶碗を手に頷いた。

「はい。維斗様があまりに手練れになられたので、もう相手にならぬと我が王もお手上げといった様子で。それでもご自分より手練れの相手に向かって行くのは楽しいようで、維斗様がいらっしゃるのを心待ちになさっておりますわ。」

維月は、微笑んだ。維斗は最近、維明とも良いところまで追い詰めるほどに腕を上げている。

そして、ふと思った。

「…そういえば、皇女たちは立ち合いをされぬのですか。椿様は今も訓練場に立たれるのでしょう。」

椿は、苦笑して首を振った。

「いえ、あれらはおとなしい性質でそれはありませぬわ。ただ、維斗様に憧れがあるようで、よう影から垣間見ておりますけれど。」

維月は、まあ、と表情を明るくした。

「維斗に?もしや維斗はどなたかとお話などしておりますか。」

だったら維斗だけでも婚姻してくれないかしら。

維月が希望を持ってそう問うと、椿は残念そうに首を振った。

「それが…我が王も維斗様ならばと期待していらっしゃるようなのに、維斗様は一向に目も向けられず。維明様もそうでいらっしゃいますが、誠に龍の方々は禁欲的でいらして。」

維月は、やっぱり、と残念な顔をした。どうして維心様のお血筋は皆こうなのかしら。

「まあ…。父王があのようなので、やはり似ておるのかしら。ですけれど、そろそろどちらか一人だけでも、どなたか良いかたを妃に娶って欲しいものと我は思っておるのですけれど。獅子の皇女であるならば、申し分ないのに。ましてあのように良くお育ちの方々なのですから。」

綾が、身を乗り出した。

「まあ龍王妃様、確かにあれらは我もしつけておるので、我が孫ながらよう育ったと思うておりますのよ。龍王妃様からお勧め頂ければどれ程に幸運なことかと思いますわ。」

維月は、扇の下で苦笑した。確かに龍の宮へ縁付くのは、皇女にとって最高のステータスだろう。とはいえ、確かにそろそろ話を進めても良い歳だ。

維明は、あの維明なので前世を考えても絶対無理だろうが、維斗ならば…。

「…そうですわね。」維月は、言った。「あくまでも本人達の意思でありますが、一度維斗にさりげなく聞いてみますわ。維明は…誠に父王に似ておってなかなかに難しい子であるので。」

椿も綾も、パアッと明るい顔をした。龍の宮第二皇子に!

「なんと嬉しいことかしら。」綾は、誇らしげに胸を張った。「ご本人が否とおっしゃったとしても、龍王妃様にそのように思うて頂けるなんて。それだけでも、育てた甲斐のあることですわ。もちろん、維斗様にはご無理は申し上げませぬけれど、認められた心地でありまする。」

維月は、答えた。

「それはあのように出来た皇女達でいらっしゃるのですから。ですけれど、我が皇子達はいつなり、そんな皇女達にも目もくれずにおったので…あまり期待はなさらず。ご本人には、まだおっしゃらないでくださいませ。我も王も、婚姻は各々の気持ち次第と思うておりますの。ですので、王も命じることはございませぬ。お分かりになって?」

綾は、それにはため息をついて、頷く。

「はい、維月様。分かっておりますわ。あの龍王様でさえ、維月様以外の妃を娶られておらぬのですから。我もよう分かっております。でも、龍王妃様に認められるほどの皇女を持って、ただ誇らしいのですわ。」

私、そこまで大した命じゃないのよ、ほんとに。

維月は、心の中でそう思っていたが、しかしここは維心のメンツもあるので、何も言わなかった。

すると、庭へ出ていた皇女達が、戻って来るのが見えた。

「あら、戻って参りましたわね。」

椿が、それに気付いて窓の方を見る。

維月も、すっかり打ち解け合って笑い合いながら戻って来る、皇女達五人を見て自然、頬が緩んだのだった。


そうして茶会も終わり、綾も椿も、皇女を連れて退出して行った。

維月はそれを見送るのは身分柄出来なかったので、弓維だけが侍女達に連れられて見送りに出ていた。

維月は、重い着物を脱ぎながら、なんと重苦しい面倒な地位なのだろう、と思った。維心を愛したからこそここに居るが、そうでなければわざわざこんな面倒な宮へ嫁いだりしなかっただろう。

やっと着物から解放された維月は、気楽な部屋着で政務から戻って来た維心を迎えた。

「今帰った。」

維心が機嫌よく言う。維月は、微笑んで頭を下げてから、その手を取った。

「お帰りなさいませ。」

維心は、維月を引き寄せてその肩を抱いて、ホッと息をついた。

「主と一日離れておると落ち着かぬ。昼に一度ここへ戻った時も、主が居らぬから寛げずであったわ。して、茶会はどうであったか?」

維月は、相変わらずの維心に微笑みながら、答えた。

「はい。皆様健やかでいらして。綾様にも老いが進んでおられると聞いておったので、案じておったのですけれどお元気であられました。相変わらず美しい様でしたわ。」

維心は、頷いて維月と共にいつもの椅子へと座った。

「老いた時の方がその品の良さの真価というものが問われるものぞ。綾はやはり、根っからの貴婦人なのであろうな。宮で問題を起こしておった時にはどうなる事かと思うたが、翠明も良い妃を迎えたということであろう。」

維月は頷いて、先を続けた。

「それから、椿様がお連れになっておった、駿様の皇女達にも会いましてございます。皆、さすがに綾様と椿様がお育てしただけあって、お若いのによう弁えた動きで。感心致しました。」

維心は、興味を持ったようだった。

「ほう?あれらは確か、まだ成人してはおらなんだが、そろそろ嫁ぐ場も考えねばならぬ頃であろうな。」

維月は、維心を見上げた。

「はい。それで…あの、維斗でありますわ。」

維心は、眉を上げた。

「あれは、獅子の宮へよう行っておるの。何かあったか。」

維月は、ブンブンと首を振った。

「無いから困っておりまする。あのように出来た皇女達が居るのに、目もくれぬようで。もちろん維明もであるようですが、あれは前世を考えても無理であろうかと諦めておりますが、せめて維斗はと期待しておりますのに。」

維心は、うーんと考える顔をした。

「まあ、何度も申すが我のこともあるゆえ、我は婚姻に関して命じようとは思わぬのだ。前世の亮維のこともあろう。なので無理強いはせぬが、しかし確かに、駿の皇女なら申し分ない。あれが興味を持ってくれたら良いが…、ま、無理であろうの。」

維月は、見るからに落ち込んだ顔をした。

「そうですわね。一度、軽く匂わせてみようとは思いますが、恐らくは歯牙にもかけぬような気が致します。私も、そろそろ孫が見たいですのに。無理ですかしら。」

維心は、苦笑して維月を見た。

「我は前世1700年独り身を通したゆえなあ。それに、我の寿命は定まっておらぬし、皇子が二人も居ったらもしやの時も案じることは無いし、今は孫まで欲しいとは特に思うておらぬ。居っても良いとは思うがな。」

確かにだからこそ、弓維を産んだのだ。まだまだ孫も望めそうにないからと。

維月は、息をついた。

「龍とは、面倒な種族でありますこと。誰も彼もがなかなかに婚姻に後ろ向きで。私はただ、幸福に暮らしておる様を見たいだけですのに。」

維心は、維月を抱きしめて、笑った。

「そう言うでない。龍でもそれぞれぞ。ただ、我の血筋や軍神の一部がそうなだけで。」

維月は、息をついた。言われてみたら婚姻が幸福だとは限らない。自分は維心と共に居て幸福だが、維明や維斗が婚姻して幸福かと言われたら、それは本神次第なのだ。

「そうですわね。己が婚姻で幸福だからといって、子達までそうとは限らないのですもの。私も、一応聞いてはみますが、押し付けぬでおりますわ。」

維心は、頷いて維月を抱きしめる腕に力を入れた。

「そうであるな。我らが幸福だからと、あれらもそうだとは限らぬから。我もそう思うぞ。」

維心は、何やら嬉しそうだ。

維月は微笑んで維心を見上げると、そっと顔を近づける。

維心は、嬉々としてそれに応えて、維月に口づけた。

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