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そうやって、主に綾と椿、維月が話している中で、しばらくすると場に慣れて来たのか、桜、柚、楓からも緊張した気が感じられなくなって来た。

弓維も、場を楽しんでいるようで、ちらちらと同じ年頃の志穂の事を、見ているのは知っていた。

維月は、ホホと扇を上げて微笑むと、言った。

「まあ弓維?志穂殿が気になるのですか。」

弓維は、ハッとして顔を赤くした。あまり見るのは、いけなかったかしら…。

しかし、綾が同じように微笑んで、頷いた。

「まあ、ではお庭にでも出て参りますか?季節も良い感じでお庭のお花が美しいですし。」

椿は、桜たちの事を振り返った。

「あなた達も、出て参るのなら良いのですよ。龍の宮のお庭はまた格別に美しいのです。参りますか?」

桜たちは、嬉し気に扇を上げて顔を見合わせると、頷き合って、椿に言った。

「はい、お母様。見て参りたいですわ。」

桜が言う。維月は、頷いて弓維を見た。

「行っていらっしゃい、弓維。侍女達もついて参りますし、皆様をご案内差し上げてね。」

弓維は、頷いて立ち上がり、綺麗に小さな頭を下げた。

「はい、お母様。行って参ります。」と、志穂に頷きかけた。「志穂様、共に参りましょう。桜様、柚様、楓様、ご案内差し上げまする。」

志穂は、嬉し気に立ち上がり、桜たちも嬉々として立ち上がった。

そうして、弓維に頭を下げた。

「はい、弓維様。」

この皇女達の中では、弓維が一番高い地位になるのだ。

弓維は、しかし尊大な素振りは欠片も無く、会釈を返して、そこから見える、宮の庭へと出て歩いて行ったのだった。

それを見送って、維月は息をついた。

「誠に…娘を育てるのだけは、心を砕かねばなりませぬわ。我が王も、弓維を厳しく育てるようにと申されて…本来、活発な子なのですけれど、あのように。我は、月の宮で気ままに育てられましたので、弓維がつらくないかと思うてしまいますの。」

それには、綾が頷いた。

「はい。ですけれど維月様、やはり皇女は厳しく躾けておいた方が良いのですわ。我とて同じように、王宮で気ままに育ってしまって、礼儀は弁えておりましたけれど、それを公でしか使わぬでおりました。そうすると、大変に疲れてしまうのですわ。ですけれど、生まれた時からでありましたら、それが普通であってそれほどつらくは無いのだとか。椿とて活発で、立ち合いまでしておったぐらいですけれど、礼儀だけはしっかり躾けておりましたので、裏で気ままにしておるとはいえ、礼儀の範囲内であるので。駿様も咎めることも無いようでありますわ。」

維月は、苦笑した。確かにつらい。維心がどんなに自分がお転婆でも許してしまうので、実はやりたい放題の維月にとって、龍王妃としてこうして振る舞うのがそれはつらくて仕方ない。

だが、それが役目であり、仕方なく装っているだけのこと。

弓維には、その苦労は背負わせたくなった。

「そうですわね。」維月は、ため息を付きながら答えた。「確かに、弓維には我と同じ苦労は背負わせたくはないもの。椿様にも皇女達をあのように素晴らしくお育てになっておるのだし、我も努めますわ。」

椿は、恥ずかし気に言った。

「我はそのように大したことはしておらぬのですわ。母が遣わせてくださった乳母や侍女達に任せて、我はそれを監督するといった形でありますの。それがうまく行っておるようで、安堵致しておりまする。」

維月は頷いて、庭の方へと窓を見た。庭では、遠く皇女達のとりどりの絹が見えて、庭を軽い足取りで歩いて行くのを微笑ましく眺めた。


弓維は、皇女達を連れて庭の花畑へと案内していた。

そこは、父王が母のためと作り上げたいつの季節も花が咲いているという美しい場所で、弓維も好んで良く行く場所だった。

「ほら、そちらの角を曲がれば見えますわ。」

弓維は、嬉々として先導して歩いて行く。

手は、しっかりと志穂の手を握り、はぐれてしまわないようにと気を遣っているのが分かった。

「こちらまでも大変に美しい様でしたのに。もっと美しい場所ということかしら。」

柚が言うのに、桜が頷いた。

「本当に。あれほどに大きな木も、こちらで初めて見申しましたし。」

弓維は、微笑んで頷いた。

「はい。父が母のためと作った場所でありまして、いつなり花が満開に見えるように設えられてありますの。我も大変に気に入りの場所でありますわ。」

そうして、木の生垣を曲がる。

すると、そこはそれは美しい、花の園だった。

「まあ…!」

桜が、歓声を上げる。その、中央には噴水が設置されてあり、周囲にはそれを取り巻くように、いろいろな花々が先を争うように咲き誇っている様は、圧巻だったのだ。

広さは、遠く向こうの森が小さく見えるぐらいまであるようだ。

志穂が、弓維の隣りで嬉し気に言った。

「このように花がたくさん咲いておる様は、初めて見まする。なんと美しいこと…。お兄様にも、お見せしたいですわ。」

その花の園へとゆっくり足を進めて行きながら、弓維が小首を傾げて言った。

「まあ。お兄様とは…白翠様、でありましたか?」

志穂は、驚いた顔をした。

「ご存知でいらっしゃいますか?」

弓維は、頷いた。

「はい。本日皆様にお会いするのを楽しみにしておりましたので、ご家族はと侍女達に話を聞いておったのですわ。母君にお似申して、それは美しいかただとか。」

志穂は嬉しそうに頷いた。

「はい。お兄様はお美しいだけでなく、大変にお優しいかたですの。我の相手も、ようしてくださいまする。」

弓維は、微笑んだ。

「まあ。とても羨ましいですわ。我が兄は、維明と維斗でありますが、大変にお年上であられるから…。姉は嫁いでおりまするし。ですから、我も歳が近い志穂様がいらしてくださって、大変に嬉しいのです。仲良くしてくださいませね。」

志穂は、笑って何度も頷いた。

「我こそですわ、弓維様。でも、維明様と維斗様と言えば、龍王様に似て大変にお美しいのだと聞いておりますのに。」

桜たちが、ふと顔を赤らめた。興味があるのだろう。そういえば、維斗はしょっちゅう獅子の宮へ行く。何でも駿様に立ち合いの指南を受けているとか。維明も時に出掛けて行くので、顔を見ることもあるのだろう。

弓維は、それを気取って言った。

「お兄様は、確かにお父様に大変にお似申しておりますわ。ですけれど、妃を一人も持っておられなくて。いつだったか我が問うた時も、まだ考えておらぬとおっしゃって。我だって、お姉様が欲しいと思うておりますのに。どなたか来てくださったら良いのになあと思うておりまする。」

獅子の地位から言って、ここに居る三人の皇女達は十分に龍の宮の妃として入れる位置に居た。だが、この三人の若い皇女達は、まだ嫁ぐというよりも、ただ憧れのような気持ちで、美しい皇子というのに興味があるだけらしい。

桜は、扇で顔を隠しながらも、苦笑して言った。

「大変に敷居の高いことでありますわ。龍王妃様の様を見ても、あのような貴婦人にはなかなかになれぬものですもの。ですから、お兄様がたもなかなかに決められぬのかもしれませぬ。」

弓維は、それを聞いて、顔を曇らせる。桜は、眉を上げた。

「…何か?」

弓維は、小さく息をついて、頷いた。

「お母様があのようなので、我も大変に重荷であるのですわ。我は、なかなかに皆さまのように淑やかに振る舞う事が出来ませぬ。教育の侍女にも、よう叱られてしまいますの。」

それには、三人姉妹も志穂も驚いた顔をした。申し分ないのに?

「あの…弓維様には、非の打ち所がない様であられますけれど。」

そう言ったのは、柚だった。弓維は、離れた位置で見ている、侍女達を振り返った。

「まだまだですの。お母様のようにと言われるのですけれど、難しくて。お母様自身は、無理をせず一つ一つ進めて参れば良いとお優しくおっしゃってくださるのですけれど、父も侍女もそれは厳しくて。きっとお兄様にも、そのようなお考えであられるのか、と最近思いましてございます。だから、なかなかに妃をお決めにならないのだろうなって。」

三人姉妹は、顔を見合わせた。確かに龍の宮は大変に厳しいと聞いているし、だからこそ、弓維のこの様子でもまだ不足なのかもしれない。

初めて見た龍王妃は、それは美しくおっとりと動き、気もゆるゆると癒すようで心地よく、こんな女神が居るのかと思ったほどだった。

あんな風でなければならないというのなら、確かになかなか妃など見つからないだろう。

といって、維月にしたら着物が重いのでゆっくり動き、気は月なので元々癒しの気で、そして緊張をほぐそうとそれを全開にしていたので心地いいのも道理だったのだが、誰もそんなことは知らなかった。

娘の弓維ですら、母は当代一の貴婦人だと思っているほど、維月はうまくやっていた。

楓が、息をついた。

「我らには、想像もつかぬ事でありますわ。龍の宮は、憧れの場所でありますの。お父様と立ち合う様を垣間見ることもありますが、お二人とも大変にお美しい方々で。ですけれど、我らには敷居が高すぎるのです。こうして、時にお庭などを見せて頂くには、大変に幸福な場所でありますけれど。」

志穂も、同情気味に弓維を見た。

「あの、時に我が宮にも遊びにいらしてくださいませ。」弓維が志穂を見ると、志穂は微笑んだ。「父は第二皇子であるし、それほど厳しくはないのですわ。庭には柑橘の木がたくさん植わっておって、とても良い味わいですし、盛りには、皆様いらしてくださいませ。」

弓維は、自分を励まそうとしてくれる、志穂に感謝しながら、微笑み返した。

「まあ、是非に、志穂様。まだ一人で宮を出るのは許していただけませぬけれど、母が参る時にでも、共にお連れ頂きまする。」

志穂が頷き、桜たちも微笑んで頷き合っていた。

そこで、花々に囲まれて、皇女達五人は、親交を深めていた。

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