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子達

それからも、月日はゆるゆると過ぎて行った。

懸念された積の宮の財政は悪いままだったが、それでも回りの宮から少しずつの援助を代わる代わる受けて、節約して何とか宮の対面は保つことが出来ている状態だった。

やっと生まれた皇女も、まだヨチヨチ歩きの状態で、どこかへ嫁がせるような状況ではない。

それでも、皆の希望の皇女は、どうにかして気品高い皇女に育てなければと、積は今から高晶の妃の一人に育ててもらったりと、準備に余念が無かった。

弓維も宮の中を歩き回れるように育っていて、維心の方針で厳しく躾けられたため、幼いというのに走り回るようなこともなく、きっちりとした皇女へと育ちつつあった。

歳だからと宮を辞していた瑠維の侍女だった女神達も、この歳でも王からのお召しがあったとそれは奮起して、瑠維の時より更にしっかり躾けているので、小さな弓維は、歩き方まで品のある状態になっていた。

それはそれで、維月にしてみれば哀れに思ったのだが、しかし維心の方針に意を唱えることは出来ずに、ただ日々そんな様子を眺めているしかできなかった。

今日も、大きさは人で言うところの小学生の低学年ぐらいに育った弓維が、維心に挨拶をしようとやって来て、頭を下げた。そのまま、維心が話すのを待っている。

維心は、言った。

「弓維か。」

弓維は、顔を上げた。

「はい、お父様。おはようございます。」

維月は、そんな弓維を黙って維心の横で見ている。礼儀は完璧だ。父とは言え、自分から声を掛けたりは絶対にしない。維心は頷いた。

「本日は、母の友である翠明の妃が茶会に参るので、その皇子の緑翠の皇女もこちらへ連れて来るのだとか。主も母について出て参るが良い。」

弓維は、微笑んで頷いた。

「はい、お父様。」

維月が、脇から言った。

「私もそろそろ準備を始めるの。あなたもお父様が作らせてくださった新しい着物を着て、ご準備なさい。駿様の妃の椿様も、皇女の桜殿、柚殿、楓殿を連れて来られるそうよ。あちらはお年上であられるけれど、まだお若い方々なの。お話相手にして頂くと良いわ。」

弓維は、維月にも、頷いた。

「はい、お母様。」

弓維がしっかり育てられているのに、自分が気を抜くことも出来なくて、最近では維月も、宮の中でも龍王妃としてしっかりしていなければならず、言葉にも気を遣うので実は疲れていた。それでも、窮屈な想いをしているのは自分だけではないので、維月も頑張って演じていた。

「では、下がるが良い。」

維心が言い、弓維は深々と頭を下げた。

「それでは、御前失礼致します。」

そうして、居間を出て行った。

維月は、肩の力を抜いた。

「やはり…無理をしておるのではないかと案じられますわ。とはいえ、小さな頃からあのように躾けられておるので、私ほど疲れはしないのでしょうけれど…。」

維心は、維月を見て苦笑した。

「確かに、主を見ておると気を張っておるように思う。しかし、弓維の気を読んでおったらあれが当然なのだと思うておるようであるぞ。ここ数年、まだ己というものが出来る前から躾けた甲斐があったというものぞ。動きも洗練されて来ておるし、それが自然な仕草になっておる。あれならば、弓維自身も疲れる事無く振る舞うことが出来ようほどに。気にしておった良くない性質も、出て参る事が無いようで、ホッとしておるよ。何しろ、明維の娘の美加の事があるからの…やはり赤子の時から釘を刺しておかねば、いくら我の血筋でもどうなるか分からぬのだ。結局は、弓維自身のためであるのよ。」

言われて、維月は身震いした。確かに、美加が甘やかされて育ったので、面倒な性質に育ってしまっていたのは覚えている。罪を犯して北の地へ送られ、あちらで改心して皇子に嫁ぎ、幸福にやっていたようだったが、最近では老いが来ない、夫であり今は王であるヴァルラムの息子、ヴァシリーの下で、静かに老いているのだという。

維月は、諦めて頷いた。

「…はい。そうですわね。そこまでお考えであのようにお育てになっておるのですから、私も頑張って龍王妃として努めましょうほどに。では、御前失礼致しまして茶会に出る準備をして参ります。」

維心は、名残惜し気に頷いた。

「我も政務に出るゆえ。また夕刻にの。」

維月は頭を下げて、そして出て行った。

維心もそれを見送って、さて仕事だと重い腰を上げたのだった。


維月は、破壊的に重い龍王妃の正装を身に着けさせられていた。

今回は、維心が新しく作らせたという龍王の石を真ん中にあしらった額飾りまであるので、とにかく頭が重くて仕方がない。

とはいえ、これが正装なのだから仕方がない。

維月は、首が凝るだろうなあと内心思いながら、自然ゆっくりになる足取りのまま、茶会の席へと向かった。

弓維は、維月ほど大変な様子ではなかった。

まだ子供でもあり、それほどたくさんの簪は刺されてはいない。

せめて楽な様子で良かった、と思いながら、ゆったりと侍女に回りを支えられながら、大理石で作られた広間へと入って行った。

すると、もう待っていた一同が、一斉に立ち上がって、頭を下げた。維月は、とにかくはあの、中央の席まで頑張らねばと足を進めて、そこへとたどり着くと、ホッとして自然笑顔になって、言った。

「まあ皆様。本日はようこそいらっしゃいました。お会い出来まして嬉しいこと。」と、弓維を見た。「この度は、我が皇女、弓維も連れて参りましたの。何分まだ幼いので何事も弁えぬのですが、いろいろお教え頂けたらと思いますわ。」

弓維が、隣りで小さな体でそれは優雅にお辞儀をした。綾が、老いてなお美しい様で、フフと微笑むと、言った。

「まあ、何とお可愛らしいこと。龍王様に大変に似ておられて。このように幼い頃から、これほどに品のある様になるなど、さすがは龍の宮でありまするわ。」

維月は、微笑んだ。

「まあ、そういうそちらは、志穂様かしら?緑翠様のお子であられるのですね。」

志穂(しほ)が、緊張気味に綾の隣りで頭を下げた。さすがに綾の孫だけあって、やはり品のある動きだった。歳は、弓維と近いはずなので、大きさもそう変わらない。確か、この子は二人目の子で、上には皇子である白翠(はくすい)という子が居るはずだった。

維月は、志穂にも笑いかけた。

「志穂様。同じお年頃であるので、弓維と仲良くしてくださいませね。」

志穂は、緊張で真っ赤になりながらも、また頭を下げた。

「はい、龍王妃様。」

維月は、もうたいがい疲れていたので、そこで椅子へと座る。すると、全員がそれに倣い、自分が座っていた椅子へと腰かけた。弓維も、維月の隣りに腰かけたが、やはりこんな場は初めてなので、緊張しているようで、じっと唇を引き結んで固まっていた。

侍女達が、維月の着物の裾を綺麗に形を整える間、皆が黙ってそのまま待った。座ったら座ったで、形を整えなければならないなんて、本当に面倒な着物だわ、と維月は思っていた。

茶が淹れられ、皆に配られて行く。

維月はもう、茶を飲むぐらいでは緊張しなかったが、本日初めてこういう茶会に出る皇女達の緊張が伝わって来て、痛いほどだった。

その緊張を和らげようと、リラックスしている綾と椿の方へと、維月は話しかけた。

「椿様も。そちらは駿様の皇女であられますのね?」

椿は、微笑んで維月に頷いた。隣りに居た、三人の若い皇女達はびくりと肩を震わせる。

人でいうと、高校生ぐらいだろうか。初々しい感じのする三人は、やはり椿に躾けられているので、とても動きが洗練されていた。

しかし、今は恐らく、椿に龍王妃の前ではと強く言い聞かせられているのか、それは緊張していて顔は真っ青で、小刻みに震えていた。

椿は、おっとりと微笑んで頷いた。

「はい、龍王妃様。こちらから、桜、柚、楓でございますわ。」

三人は、立ち上がって深々と頭を下げる。維月は、何とか緊張を解けないかと精いっぱいの癒しの気を発しながら、微笑みかけた。

「桜殿、柚殿、楓殿。どうぞ、お座りになって。初めてお目に掛かりますわ。まあ、それにしても、皆美しくお育ちであること。」

三人は、コチコチの状態で、維月に頭を下げて、言われるままにまた、椅子へと座る。椿が、苦笑した。

「龍王妃様を初めてお見上げして、大変に緊張しておるのですわ。申し訳ありませぬ。」

維月は、なるべく気にしていないように見えるように、微笑んで首を振った。

「良いのですよ。この機会に、仲良くして頂きたいですわ。」

維月は、茶わんに手を伸ばして、それに口を付けた。そうしないと、いつまで経っても誰も茶を飲めないからだ。

いろいろと先にしなければならないので、堅苦しいことこの上ない。だが、上位の宮の付き合いとはこんなものなのだ。

弓維が、じっとそんな茶会の様を見つめている。恐らくは、今頭の中で必死に学んでいるのだろう。

維月は、友達付き合いぐらい気楽にしたいなあと、内心はため息をついていた。

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