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嫁ぐ先3

そこは、一応椅子も並べてあったが、やっと一人が歩けるような幅の、狭い場所だった。目の前には仕切り布が垂れていて、それでもその布の間から、様子がチラチラと見えた。あちらの方が明るいので、薄暗いこちらからはあちらがよく見えるのだが、あちらからは見えない。

そんな場所で、綾は後ろの椅子へと座ったが、翠明と志心は珍し気に立って外の様子を見ていた。

白蘭は、もう仕草は板についているのでそれは淑やかに美しいが、扇もすっかり閉じて胸元に挿してしまい、それは楽し気に遠慮なく笑いながら、椿と緑翠と共に話していた。

「ですが公明様は良い相手ですわ。」椿が、そう言った。「本当に頭のよろしいかたで、我も幼い頃はお兄様と共によう遊んでくれましたもの。育って後には、立ち合いの相手などもして頂いて。緑翠も同じように育ってので、兄弟のような間柄ですわ。早くに王座に就いてしまわれたのでこちらへ来られることはあまりありませんでしたけれど、我らがよう参っておって。特にお兄様とは仲がよろしいのですわ。」

緑翠が、頷く。

「そう。明るい性質で話が上手く、公青殿とよう似ておる様ぞ。まあ、まだあまり女神には興味は無いようであったが、嫁いでおったらそのうちにその気にもなろうし、あれは良い性質であるから、主を蔑ろにはせぬと思うがの。」

しかし、白蘭はハアと息をついて、茶わんを置いた。

「分かっておるのですわ。ですけれど、そのように素晴らしいかたに、我などと思うてしまうのです。我の性質は、このようでしょう?なかなかに持って生まれたものは変えられぬのだと、己で自覚しておる次第でありますわ。もういっそ、お父様の結界内で暮らしながら、時にこのように緑翠様や椿様と息抜きをして生きて参れたらなどと、思うておりますわ。」

椿が、困り顔で微笑んだ。

「それは白蘭殿の選択でありますが…でも、我はともかく緑翠は、婚姻などしたらこのようにはお会いできぬようになりますわ。今は独り身であるのでこのように気軽に我の弟として出て参れますが、やはり妃の皆さまにも対面がありましょう。ずっとと申す訳には参りませぬの。」

白蘭は、え、と驚いたような顔をした。

「でも…あの、緑翠様は…?」

椿も緑翠の性癖だけは知っていた。定佳との何某は知らないが、幼い頃から一緒に育ったので、そういうことは敏感だ。なので、苦笑して緑翠を見る。緑翠は、仕方なく答えた。

「…主が知るは、150年前の我ぞ。今は別に、どちらでも良いという感じであってな。別に男でなくとも女でも、良いと思うたら婚姻でも良いかと思うておる。昔ほどこだわりはないのだ。」

それを、仕切り布のこちらで聞いていた、翠明がしまった、という顔をした。志心が居るからだ。

しかし、志心は自分が両刀なので、そういうことには理解があった。緑翠が両刀だと知ったので、むしろ感覚が同じだと印象は良かった。

白蘭は、驚いたように袖で口元を押えた。

「え…女のかたも良いのですの?」

緑翠は、辛抱強く頷いた。

「そうであるな。ここまで生きて来て、別にどちらでも良いと思うようになった。男が慕わしかったのは、その思想や生き方を敬えるからなのだ。つまりは女であっても、同じように共感できる相手であったら良いという事だと思うた。この生を、共に生きるのであるから、やはりお互いに信頼し合える相手でなければの。なので、今はこだわりはないのよ。今姉上が言うたように、我とて妃を娶る時があろうかと思う。そうなったら、確かにこのようには会えぬの。主は兄弟でもないしな。」

白蘭は、目に見えてショックを受けたような顔をした。そうして、両手の袖で口を押えると、黙り込んでしまった。

緑翠は、どうして自分が男に興味がある時は平気だったのに、両方に興味があったらショックを受けるのか、と怪訝な顔をしたが、椿は立ち上がって白蘭の背に手を置いた。

「白蘭殿…少し、二人で話しませぬか?緑翠はこのようなので女同士の話は皆目分かりませぬの。緑翠には、場を外してもらって。」

緑翠は、顔をしかめた。確かに女同士の話など分からないが。

「では、我はこれで。」緑翠は、憮然として立ち上がった。「それならばしようが無い事よ。ではの、白蘭。姉上、あまり時を取ると父王がいらしておるのだから、そこそこまででの。」

椿は、軽く緑翠を睨んだ。

「分かっておるわ。本当にあなたは、鋭いのか鈍いのか分からぬこと。」

緑翠は、どうして自分が悪いのか分からなかったが、何も言わずそこを出て行った。

志心も翠明も、そんな様子をじっと見ていたが、訳が分からず顔を見合わせる。綾だけが、後ろの椅子に腰かけて、ため息をついていた。


「…意味が分からぬ。」翠明が、居間へと戻って来て綾を横に座りながら、言った。「どういうことなのだ。我が鈍いのか?」

志心も、顔をしかめながら翠明の前へと座り、頷いた。

「主が鈍いのだ。恐らくは、白蘭は緑翠に惹かれておるのだろうの。だが、緑翠が男しか相手にせぬと長く思うて来たので、そう考えぬようにしておったのだと思われる。しかも、緑翠はあのようであるし、白蘭を娶ろうなどと露ほども思うておらぬだろう。それでも、女に興味が無いのだからと思うて来たのだろうが、ああして知ってしもうたら…恐らくは、他の女と考えると、ショックだったのではないか。」

しかし、綾は首を振った。

「恐らくは、大筋では志心様がおっしゃる通りでありましょうが、細かいところが違いまするわ。」志心が、綾を見た。綾は続けた。「白蘭殿は、恐らく緑翠の事を慕わしいなど、思ってもいなかったのだと思いまする。ですけれど、緑翠の妃という現実を目の当たりにして、それをあの時、ご自覚なさったのではと思いまする。傍目には、似合いの二人であったのですわ。白蘭殿は長く緑翠を頼りにして参って、緑翠もよう世話をしておったし。ですけれど、緑翠が男にしか興味がないと思うておったのもあって、そんな風に考えたことも無かったのだと思いまする。それが、あのように。緑翠がもしかして女神をと思うた時に、己は会えなくなるのだと、またショックであられたのでは。椿も、二人を案じておりましたの。あの子は側近くで話を聞いてみておりましたし、二人のことを二人以上に気取っておったようですの。取り返しのつかないようになってから、自分の心を知ってしもうたら苦しむのでは、と、案じておりました。」

志心も翠明も、そんなことが水面下で行われていたとはただただ驚いていた。ならば、最初から緑翠に無理にでも娶ってもらっていたなら良かったのでは。

「ならば緑翠の妃になった方があれも気が軽いのでは。」志心は、言った。「緑翠はあれの全てを知っておる。白蘭も楽であろうし、公にはうまく立ち回れるようになったのだから、問題なかろう。緑翠には気の毒やもしれぬが、白蘭のことを考えると、そうなった方が…。」

翠明が、どうしたものかと黙り込む。綾が、また大きなため息をついた。

「誠に…姿ばかりか、性質まで親子でよう似ておること。」翠明が怪訝な顔をすると、綾は苦笑して続けた。「我は始めからこのようではありませなんだでしょう。我は焔様に疎まれ、己の居場所を探してこの宮での茶会にも出て参った。翠明様、あなた様は我を、どうしたら縁付くことが出来るのかと、いつも指南してくださっておりました。最後には、もうどこへも嫁がぬで良いと腹をくくった我に、己が最後まで面倒を見るとおっしゃってくださって…そうして、こちらへ。だからこそ我は、このように己の名誉を取り戻すことが出来、幸福に暮らすことが出来ておりまする。緑翠は、あの時の翠明様と同じように、白蘭殿を放って置けず、お世話をしておったのでしょう。誠に同じでありまするわ。」

志心が、驚いた顔をする。翠明は、急いで首を振った。

「あれは主が不憫であったから。だが、主を娶って良かったと誠に思うておるぞ。主はよう務めてくれて、皇子も皇女も良いように育った。宮の格も申し分ないのは主の力ぞ。我は、良かったと思うておる。」

綾は、フフと笑った。

「分かっておりまするわ。常そのように申してくださるから。ですけれど、緑翠はいかがでありまするか、我にも分かりませぬ。あの時の我とは違い、白蘭殿には引く手あまたであられるのですもの。そちらの縁が良いと思うて、己が娶るとは言わぬかもしれませぬ。我も己のことがありますので、婚姻のことにまで口出しはせぬ方が良いと思うておりますの。想う相手が居らぬなら勧めはしますけれど、望まぬ縁は無理にはと思うております。緑翠に任せたいと思いますわ。」

それには、翠明も頷いた。

「…そうであるな。確かに、あれはいろいろトラウマもあることであるし。我とて、あれが望まぬのなら無理にとは思えぬ。志心殿、申し訳ないが、我らが決めることは出来ぬ。白蘭殿とて、緑翠をというても、あれは第二皇子であるし、嫁ぐまで考えておるのではないかもしれぬ。ここは、本人たちに任せた方が良いのではないか。」

言われて、志心は渋々頷いた。確かにそうだ。無理に親が推し進めて、良い事など無いように思う。こだわりがないのなら良いが、しかし嫁げば生涯そこで暮らさねばならないのに、勝手に決めてしまっては白蘭も哀れ。それに、あのように表向きだけとはいえ、見事な皇女になることに成功したのは、ひとえに白蘭の努力の賜物なのだ。それならば、あれが確かに幸福に生きられるように、待ってやるのもいいかもしれない。

志心は、息をついた。今、椿とどういったことを話しているのか分からない。だが、白蘭自身が乗り越えて決めるよりないのだ。

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