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縁談

積の宮の話は、志心も知るところになった。

というのも、積自らが白虎の宮へと訪れて、志心に嘆願したからだ。

志心には、積の気持ちが分かった。どうあっても、宮をどこかの宮に吸収されてしまう未来は避けねばならない。

何しろ、皇女は居ないが幼いながらも皇子は居るのだ。その皇子達を、どこかの宮の臣に下らせるのだけは、避けたいと思っているのだろう。

志心は、この大きな宮の跡取りとして生まれ、王座に就いてからも宮の財政のせいで、宮を失うという危機に陥った事など無かった。

そんな危機に晒される、気持ちはいかばかりなのかと積に同情した。

だが、白蘭はそんな苦労をするような、宮へとやるにはあまりに惜しい様に成長していた。あれほどに出来た皇女を、政略でそんな宮へとやるのは哀れだと思った。何しろ、白蘭はあれほど努力しているのだ。それなのに、どうしてそんな、落ちぶれた宮へと嫁がせねばならないのか。

そう思うと、積には気の毒だったが、とても首を縦に振ることは出来なかった。

それでも、その場で断ってしまうのは直接に足を運んで来た積にも礼を失すると思ったので、一応、志心は白蘭にも聞いておこうと、そっと白蘭を呼び、脇の仕切り布の脇から積の姿は見せた。

積は、取り立てて美しいというほどでは無かったが、それでも不器量でもなく、真面目な若い王だった。

宮の財政もあって、妃は一人、子は皇子が二人という状況だ。

白蘭がそこへ入るとなると、もちろん正妃待遇となるのだが、それでもこの、白虎の宮の三分の一ほどの大きさの宮で、白蘭が戸惑うのではないかと思われた。

庶民の出ではあったが、この150年はこの、白亜の宮殿で育ったのだ。

あまりに理不尽なように思えて、志心はハッキリとは返事をしないまま、その日は積を帰したのだった。


積が帰った後、白蘭を居間へと呼び、言った。

「脇から垣間見て、どうであったか。あれは真面目で浮いた噂などない王であるが、しかし宮の情勢が悪うてな。本来、嫁いだ先では世話になるものなのだが、今回の場合は、嫁ぐことでこちらから支援を受けるという立場になる。ゆえ、あちらで主が無下に扱われることは絶対に無いのだが…如何せん、最上位の宮の皇女である主が、嫁ぐような宮でも無いのが正直なところよ。我とて断ろうと思うてはおったが、積があまりに気の毒での。一度主に見せておくかと思うたまで。」

白蘭は、扇で口元を押えて下を向いた。積様…確かに、真面目そうな殿方だった。だが、義心様を想ったような、そんな胸のときめきなど全く無く、あのかたを夫として生涯を過ごすなど、想像もつかない…。

なので、白蘭は答えた。

「…はい。我は…積様は良いかただとは思いまするが、夫と見ることが出来るかと申しますと、無理では無いかと思いまする。お父様が、参れと申されるのなら、参りまするが…。」

志心は、諦めているように、頷く。

「そうであろうな。主は上位の、もっと気が大きな神達をたくさん見ておるのだしの。主は我の皇女であるし、そこまで身を貶める必要はないと思う。主が参りたいと申すならと思うたのだ。ならば、やはり断るゆえ。案じるでないぞ。」

白蘭は、深々と頭を下げた。

「はい。お父様…ご心配をおかけして、申し訳ありませぬ。」

志心は、首を振った。

「良い。主のせいではないのだ。それでなくとも主には、あちこちからもっと良い縁が参っておるのだし。わざわざリスクの高い縁を選ぶ必要などない。」

白蘭は、それを聞いてホッとして、父王にまた頭を下げると、父の居間を後にした。

志心は、もうこうなったら決めてしまわねば、あちこちから変な縁が来てその度に白蘭を煩わせるのは、さすがに哀れだと真剣に相手選びに力を入れようと思い始めていた。


「え、我でありまするか?」

龍の宮では、維斗が眉を上げていた。維心と維月が、居間で並んで座っていて、その前には、二人に呼び出された維明と維斗の二人が並んで座っている。

維心は、息をついて頷いた。

「そうなのだ。身分は申し分ないが、いろいろあって維明が娶ると龍王妃になる可能性もあって後に面倒が残るかもしれぬから、志心がこちらにと申すならば、主になるかとの。どう思う。」

維斗は、戸惑うよりも煩わしく思った。何しろ、誰かを娶るという気持ちに今は全くなれなかったのだ。

なので、答えた。

「…申し訳ございませぬが、白蘭殿がどうのというよりも、今はまだそのような相手を娶るつもりはありませぬゆえ。お断りしてくださいませぬか。」

維斗は、驚くほどしっかりと物を言うようになった。

維心は、それはそれで頼もしく思ったのだが、しかしやはりそうかとまた息をついた。

「で、あろうの。まあしようがないわ。あちらも正式に申しておるのではないし、もし誰かを考えておるなら候補に入れてくれぬか、という程度であったゆえ。我も断ろうかと思うておったが、一応聞いておこうかと思うてな。何しろ、白蘭はあのように美しく良い皇女になったゆえ。では、主らの意思は聞いたし、こちらはそういう意思はまだないと申しておくことにする。」

維斗も、維明もホッとしたように頭を下げた。

「は。よろしくお願い致します。」

維明が言う。維心は、二人に頷きかけた。

「では、下がって良い。」

二人は同時に立ち上がると、サッと頭を下げ、そうして、余程居心地が悪かったのか、先を争うようにそこを出て行った。

それを見送りながら、維月が言った。

「誠に…こればかりは難しいことでありますわ。炎月とはあのようなことがあったので無理でありまするし、箔炎様は前世と同じであられるからなかなか良いとは仰らぬかと。駿様には椿殿が居るし…焔様も炎嘉様もいろいろご存知で娶ることはあられないでしょうし。」

維心は、頷いた。

「最上位は無理であろうな。しかし上から二番目三番目なら、いくらでもあるのだ。申し入れが多数来ておるはずであるし、志心がああして最上位に聞いて参ったのは、それを受ける前に、先に少しでも可能性があるなら、聞いておきたいということであろう。やはり、娘を最上位の宮へと縁付けたいと思うのはどこの王でも同じであるからな。」

維月は、頷いた。

「はい。よう励んで素晴らしい皇女におなりなのですから、どちらへ参られても大切になされますでしょうし。私もそろそろ維明に良い縁があればと思うておるところですが、維斗すらあのようでは…困りましたこと。」

維心は、維月の肩を抱いた。

「しようがないわ。我も己のことがあるゆえ、強く娶れとは言えぬ。志心には申し訳ないが、此度は断ろうぞ。それにしても…皇女だけはもう、要らぬな。降嫁させる先に困るわ。」

維月は、あら、という顔をした。

「まあ。義心がおりますのに。私は今もし瑠維が適齢期であったら、迷わずそのように申しましたわ。あのように優秀な義心の孫なのですもの…幸福になって欲しいもの。」

維心は、苦笑した。

「そうであったな。ならば今からでも良いぞ?子は幾人でも良い。もう一人どうよ?」

維月は、困ったように微笑んだ。

「維心様ったら…そうですわね、もう孫が居てもおかしくはないのですけれど、まだまだ望めぬようですし、久方ぶりに子の走り回る様も見たいこと。」

維心は、珍しく維月が前向きなのに目を輝かせた。

「誠か?ならば今からでも。のう、次はどういった名にするかの。おお楽しみなことよ。」

維月は、笑った。

「まだ宿ってもおりませぬのに。誠に維心様ったら…。」

維心は、微笑んで維月に口づけた。

維月はそれを受けながら、子供の居る明るい宮に思いを馳せた。

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