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情報2

「はあ、最近は面白いことが無いのう。」焔が、退屈そうに刀の根付けを弄びながら言う。「どうよ翠明、主は孫もたくさん出来て楽しいか。まだ獅子の宮へと妃と足げく通っておるそうだの。あれからどんどん子が生まれて今では駿の子は五人とか聞いたが確かか。」

それには、翠明ではなく駿が頷いた。

「その通りよ。子は桜、(りゅう)(すい)(ゆず)(かえで)の五人、皇子が二人、皇女が三人。皆歳が近接しておるから、もう身は一人前だがまだ誰も成人はしておらぬな。翠明殿にはよう綾殿と共に我が子達を見に参ってくださるゆえ、椿も心強いようよ。」

しかし、翠明はバツが悪そうだった。

「いや、綾がどうしてもと申すし…我は、もう良い歳なのにあまり姿が変わらぬから、もしかして気が大きくなったゆえ老いが停まっておるのかと治癒の神に聞いたら誠にそうらしいし、綾は普通に老いて来ておって、死ぬまでに出来るだけ孫を見ておきたいとか申すから。つい、連れて参ってしまうのだ。」

それには、炎嘉が深刻そうな顔をした。

「そんなに老いておるか。そういえば、綾は主より年上であったものな。今どれぐらいよ。」

翠明は、それには手を振ってさらに首を振った。

「いや、まだまだ元気よ。あの折でもまだ400ぐらいであったし、今は600にはまだ少しといった歳で。ただ我が老いぬから、己の老いが目立つとこぼしておるのだが…。」

焔は、酒を志心に注がれながら言った。

「まあ、我らの中では王が老いぬで妃が先に老化で死ぬというのが普通であるから。主らの島ではそんな長い寿命を持っておるのは中央ぐらいだったか?」

翠明は、今度は頷いた。

「そう。公青の筋だけが長生きで。そういえば、公青も最近は老いて来ておるのだと聞いておる。やはり気の大きさに準じておるのかの。」

それには、志心が頷いた。

「そのようよ。昔から、ある一定の気の量があるとこうやって老いが停まり、それは軍神でも例外ではない。主らの島ではそれほど大きな気を持つ神が、公青の中央しか居らなんだから、そうだったのだろう。我も数百年前に、飾りに置いておった妃を三人失っておるからな。蒼も確かそうではないか。」

じっと黙って聞いていた、蒼が頷いた。

「はい。オレも三人居ましたが、みんな寿命で逝きました。最後の妃を見送ってからもう、そういうのが面倒になって。やはり悲しいものですし、今は独り身を満喫してます。」

焔は、脇息に肘をついてそれにもたれ掛かり、閉じた扇で下唇をトントンと叩きながら干した盃を転がして息をついた。

「…誠に…長い生であっても碌な事が無い。暇で仕方がないわ。最近は酒も飽きた。主らは真ん中近くに生きておるから、いろいろ見えて面白いやもしれぬが我が領地は北で離れておるから、訪ねて来る者もそう多くは無いし毎日持て余すのよ。静かで燐などは良いと暮らしておるが、我は騒がしゅうても賑やかな方が良いのに。」

炎嘉は、苦笑した。

「まあ主はそうよな。とはいえ仕方がないではないか。主らがあの地を選んでそこへ根を張ったのだ。遥か昔の、我らの祖先の時代にな。」

焔は、またわざとらしくフウと息を吐いた。

「分かっておるわ。それにしてもなぜにあのように北に離れた山脈に。今少し南でも良かったのに。まあ、そんなことを言うても始まらぬ。で、何か面白いことは無いのか。主ら、ひと月前と変わらぬ様か。」

維心は、困ったように言った。

「別に変わったことは無いの。箔炎の宮で臣下の大掛かりに代替わりがあったということは皆知っておるし。誰も変わった動きなどしておらぬよな?翠明、西の島はどうか。」

翠明は、肩をすくめた。

「特に何も。そういえば定佳が駿殿の妹君の茉奈殿を娶ってから、育った皇子の定志(ていし)がこのところよう育っておると噂であるの。緑翠を跡目にと言うておったが、我らは立派に皇子が育っておるならもう、破棄して良いかと話しておるところよ。緑翠も最近は、落ち着いてよう励んでおるし、たまに近隣の宮へ遊びに出ておるようではあるが…。」

それには、駿が頷いた。

「ああ、椿が居るからよう来るの。他にもいろいろ行って学んでおるようなことを言うておったし、良い事ではないか。」

志心が、脇から言った。

「観の時とはえらい違いであるな。獅子の宮が大盛況ではないか。緑翠も翠明も綾も行っておるのだろう?うちの志夕と白蘭も、幾度が邪魔しておるのだ。何しろ、白蘭は椿殿に書を指南してもらってから、友として行き来しておるからの。志夕も良い学びになると言って、そちらの訓練場でよう立ち合わせてもらっておるようよ。」

駿は、笑って頷いた。

「ああ、父上の代で荒れておったのが嘘のように落ち着いておるから。まだたまに変な輩は出るが、しかし他の軍神達が押えてしまいよる。我も楽になったと思うておるよ。だからこそ、いくらでも来てもらえば良いから。」

箔炎は、そんな皆の話を黙って聞いている。

維心は、そんな箔炎をそっと盗み見た。義心の報告が、気になって仕方がないのだ。箔炎は、記憶を持って来たのか。持って来たなら、なぜに言わぬ。思い出したのではないのか。

しかし、思い出したのではないかもしれないし、記憶など無いのかもしれない。なので、維心から聞くわけにも行かなかった。

箔炎は、維心の視線に気づいてこちらを見た。

「…どうなさった、維心殿。」

維心は、とりあえず取り繕うために、言った。

「いや…主は、我らの友の箔炎に誠によう似ておるなと思うてな。懐かしいことよ。」

炎嘉も、それには頷いた。

「誠に。我も最近では殊にそう思うぞ。育って参って体つきが似て来たからであろうの。」

箔炎は、穏やかに微笑んだ。

「我は祖父のことはあまり知らぬのだが。」

焔は、身を乗り出した。

「宮に書き残されて居らなんだか?長く治めた王であるし、引き籠ったのもあれだが、出て来る決断をしたのもあれだったと聞いておる。我はその後転生したので詳しくは知らぬが、維心や炎嘉は知っておろう。激動の治世であったのだから、資料は多かろう。」

箔炎は、微笑して頷く。

「それは確かに公式な資料は残っておるが、誠祖父がどのような性質でどのように生きておったのかは知らぬ。しかし、臣下達の様子を見たら、確かに絶対的な王であったのだろうと思う。」

維心は、それを聞いてやはり祖父の威を借ろうと思ったのか、と少し失望した。炎嘉は、そんな維心に気付かず、遠い目をして言った。

「そうよなあ、あれは変に真面目であったな。我らが公式の席で軽口を叩いておっても、あれは顔をしかめてこちらを睨んだりしておったし。だが、元は同じ種族であるし、我は仲は良かったぞ?結構無理な頼み事をしても文句を言いながら聞いてくれたしの。維心すら箔炎とはそこそこ仲が良かったものであった。まあ、良い歳であったし黄泉へ逝った時は解放されたのだろうなと思おうとしたものよ。あれは…長い生で、幸福だったのは最後の方の数年だったのではないかと思うたからの…。」

しみじみと語る炎嘉に、箔炎は一瞬表情を崩した。目が潤んでいるように見えたが、もともと金色の、薄っすら赤い目なのでよくわからなかった。

「…祖父が、友と接して幸福だったと思うので、最後の数年ということは無いと思うがの。もちろん、祖父は日々のことを書き記すような几帳面なかたでは無かったので、個でどのようなことをしておったのかは分かりませぬが、聞いておるとそのように。」

炎嘉が、真顔で聞いていたが、いきなりぶわっと涙を流した。

箔炎は急なことなのでぎょっとした顔をしたが、焔も同じような状態で、フォローする者がいない。

だが、維心が急いで胸から懐紙を引っ張り出すと、慣れているのか炎嘉に押し付けた。

「そら、もう、主はほんにいつもいつも。すぐに泣くでないわ。」

それを見て、志心も慌てて隣りの焔に自分の懐紙を渡した。

「主も。懐紙を持って来ておらぬか。」

炎嘉が、先に派手な音を立てて鼻を噛む。焔は、志心から懐紙を受け取って、鼻へと当てながら言った。

「我らは妃が居らぬから、持たせてくれるような者が居らぬのよ。」

そうして、チーンと音を立てて鼻を噛んだ。志心は、顔をしかめて言った。

「我だって妃はとうに死んでおらぬのに己で指示して用意させておるわ。それぐらいせよ。」

炎嘉は、まだ鼻を懐紙で押えながらもごもごと言った。

「己で準備しなくても維心がいつも質の良いのを持っておるから良いのだ!必要ならもらうゆえ。」

そして、ぐいぐいと鼻をこすってから、その懐紙を丸めてその辺にぽいと捨てた。

維心が、それを見て顔をしかめた。

「こら。懐紙ぐらいいくらでもやるが、我をあてにするでないわ。あーあーもう、そこらに投げるでないというに。」

蒼の方へと転がって来たそれを、どうしたものかと困っていると、侍女がすすすと寄って来て、回収して行った。

そういえば、神世にゴミ箱って見たことないな。

蒼は、今さらながらにそう思った。もちろん、月の宮は自分が統治しているので、ゴミ箱はある。王であろうときちんとゴミ箱にゴミは捨てるし、侍女達もそこから毎日回収して処理してくれている。

考えたら、侍女にはゴミ箱が楽なのかもしれない。

箔炎がそんなやり取りを見て苦笑している。蒼は、そんな箔炎に言った。

「いつもの事なので。箔炎様と炎嘉様、維心様は再会した時もそれは嬉しそうだったし。仲が良かったので、今でも会いたいって思うんだと思う。気にすることは無いよ。」

箔炎は、そんな蒼に寂し気な顔をした。なぜそんな顔をするのか分からなかった蒼は戸惑ったが、箔炎は言った。

「…我には、そんな友はまだ居らぬから。祖父が羨ましい限り。」

言いながらも、目は維心と炎嘉、焔を見ていた。

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