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気持ち

悠理が訓練場に顔を見せなくなったのは、そんな時だった。

毎日ほど来ていたのに、急に来なくなったのは、恐らく嫁ぎ先の立ち合いが近いため、皆の邪魔をしないようとの事ではないかと、皆は思っていた。

しかし、佐紀は違った。悠理は生真面目な性格で、来ると決まっているのにいきなりに来ないなどということは、絶対に無かった。

それなのに、来ないという連絡もなく、ただ来ない日が続いている。

もしかして、また嫁ぎたくないと落ち込んでいらっしゃるのでは。

佐紀は、そう思うと気になってしまい、箔真の対へと向かった。

箔真は、政務から帰って来たところだった。佐紀は、いきなりに訪ねた非礼を詫びてから、箔真の前に膝をついて、言った。

「悠理様が、訓練場へ参られぬのですが。いつもなら、きちんと理由をおっしゃってから休まれるのに、ここ数日は全く何もないままいらっしゃらない日々が続いております。」

それには、箔真が息をついた。

「姉上は、名乗りを上げた軍神の名簿を見た途端から、気分を悪くして臥せってしもうておって。どうやら、思うような軍神が居なかったのかと、兄上と困っておったところ。とはいえ、もう告示してしもうておるし、どうしようもないであろう?試合を中止することも出来るが、そうなると軍神達も良い気はせぬだろうしな。想う相手が居るのなら、言うてくれたら良かったのにと、我も兄上も思うておるところよ。」

佐紀は、怪訝な顔をした。想う相手とて…20位までとなると、ほとんどが名乗りを上げているのではなかったか。

となると、もしかして上位の軍神達が名乗りを上げていて、皆条件が良くないのを気に病んでいるのかもしれない。

「…困りましたもの。もしかして想う相手というよりも、上位の者達の条件が悪いのに、どうやら勝つのはこれらかと思われて、気が重いのではないでしょうか。箔真様もおっしゃったように、条件的にはあまり良い者達ではないので…。確かに、軍神としては大変に優秀なのですが。我も、もし妹にと言われたら、確かに少し、戸惑うかもしれませぬ。」

箔真は、それには大きなため息をついた。

「主もそう思うか。のう佐紀よ、主、やはり出てはくれぬか。それで、どうしても娶りたくないと言うのなら、破談という事にして、なあなあにしてしまえるのではないかと思うのだ。今さらに引っ込みはつかぬし、姉上があれほどに塞いでおるのに嫁がせるのも気がかりで。」

佐紀は、戸惑った。別に娶りたくないというのではなく、こんな年上の我になど、悠理様は更に重い気持ちになられるのではと…。

「それは…出るだけというのなら。我が、勝ち抜いてしまえば良いのです。あれらなど敵ではないので。ただ、前にも申し上げた通り、我はかなり悠理様より年上であって、悠理様の方がお嫌であろうと思うてのこと。もっと沈まれるではありませぬか?」

箔真は、首を振った。

「だから主は何の責任も負わずで良いから。主が勝ち抜いたら、主らで決めてくれたら良いのよ。否ならば破談にするし、良いならそのまま婚姻ぞ。全ては勝ってからぞ。主、確かに勝てるであろう?筆頭であるものな。」

佐紀は、それにはすぐに頷いた。

「はい。負けることなど考えられませぬが…分かり申した。では、我が勝ち抜いた後、悠理様にお気持ちを決めて頂くということで。それで、よろしいか。」

あくまでも疎まれたくはない。

佐紀は、そう思った。あの天真爛漫な悠理に、疎まれて笑ってくれなくなるのは、絶対に嫌なのだ。


立ち合いの当日、悠理は綺麗に飾りつけられて、訓練場の観覧席へと足を踏み入れた。

箔炎と箔真の二人に付き添われて、貴賓席へと座った悠理は、真っ先に佐紀を探した。佐紀は、確かに甲冑を着て、皆の中で立っていた。

箔炎は、隣りの悠理をじっと見て、誰を見ているのかと品定めしていた。とはいえ、恐らくは佐紀を見ているのだろうと、もう箔真と二人で話し合って知っていた。

何しろ、箔真が佐紀に頼んで何とかこの試合を他の軍神に勝たせずに終わらせたいと言った後、佐紀がそれを飲み、早速悠理に佐紀も出ることになったと知らせたら、悠理は今まで臥せっていたのがなんだったのかというぐらい、元気になった。

びっくりしたのは箔真で、もしかして悠理は、佐紀だったのかもと箔炎に知らせて来て、回りくどいことをせずに、さっさと佐紀に娶れと命じたら良かった、と箔炎は後悔したほどだった。

佐紀は、己の歳を最後まで気にしていた。

だが、悠理はそんなことは全く気にしていなかった。

それだけのことだったようだ。

「…全く、派手なことになってしもうたものよ。」箔炎は、思わずつぶやいた。「もう、さっさと皇女なのだから筆頭に娶らせたらそれで良かったのに。」

しかし、箔真が悠理を気にしながら、声を潜めて言った。

「兄上、そのような。まだ佐紀が勝つとは限らぬのです。確かに筆頭で誰よりも卓越した技を持っておりますが、試合というのは、その当日の調子で変わって参りますから。」

嫌な事を言う。

悠理は、弟を少し、睨んだ。佐紀は、誰よりも強かった。訓練に来ていても、いつも皆の立ち合いを見て、指南していた。指南しながらでないと、佐紀のレベルは違い過ぎて対等には立ち合えないからだ。

軍神達にしても、佐紀が出ると聞いて、途端にトーンダウンしていた。それまでは、己が何が何でもという雰囲気だったのに、佐紀相手に勝つことなど難しいのを皆知っておるので、重苦しい雰囲気になっていた。

弟の佐井は、そうそうに辞退していた。何しろ、兄であろうと弟であろうと、家系に皇女が嫁いで来るとなれば、同じだからだ。

そうして、皆の士気はどん底に落ち込んだまま、その試合は始まった。

箔炎は、その試合を見ながら、確かに皆、以前よりはそこそこ立ち合うな、と思っていた。とはいえ、龍軍の軍神達と比べたら、まだまだなので、思っていたより頑張っている、ぐらいの気持ちだった。

佐紀は、誰と立ち合っても相手にならない。なぜなら、佐紀一人が龍軍の将とも渡り合える実力を持っているので、ここでは皆、勝てるはずなどないのだ。

箔炎は、額を押えた。これは、少し修行にでも出さねばならぬか。

そんなことを思いながら、上位20位までの立ち合いを見ていると、総当たりのその戦いで、全勝したのはただ一人、佐紀だけだという事になった。

悠理はホッとしたように胸を撫でおろして微笑んだが、違う意味で暗い気持ちになった箔炎は、立ち上がって、言った。

「佐紀はようやったわ。だがの、趣旨とは違うが言わせてもらおうぞ。主ら、今少し最上位の宮の軍神である自覚を持たぬか。佐紀だけではないか。佐紀は、龍軍の将と戦うのだぞ?主らにそれが出来るか。悠理を娶る以前の問題ぞ。もう少しやるかと思うたのに。これから、上位から順に龍の宮、鳥の宮、白虎の宮へ修行にやる。そこで学んで参れ。このレベルかと思うたら、今が太平で良かったと思うものよ。分かったの。」

試合に負けた上、王に徹底的に咎められて軍神達は下を向いている。佐紀は、これらに罪はないと言いたかったが、しかし甘やかせてはこれからにも関わるのだ。自分一人が頑張っても、戦になったら王を守り切ることは出来ないだろう。

なので、黙っていた。

すると、箔炎が続けた。

「まあ…ということで、佐紀に悠理を娶る権利を与えようぞ。他の者達は、修行の準備をせよ。我が、あちらに頼んでおくゆえな。ああ、もし妻が居っても連れては行けぬぞ。そう思うて励むが良い。」

全員が、項垂れたまま出て行く。

佐紀は、勝ち残ったものの、どうしたものかと思った。悠理は、ベールを深くかぶっていて、下からでは表情が見えない。箔炎が、上から言った。

「佐紀。我の居間へ参れ。そこで話そうぞ。」

佐紀は、悠理がどう感じているのか知りたいと思ったが、しかし悠理は箔炎に手を取られて、そのままそこを出て行ってしまった。

…我などが勝ち残って、悠理様はどう思われたことか。

佐紀は、それだけが気がかりだった。

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