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動き

ザハールは、供の軍神たった一人を連れ、北へと向かった。

大勢連れて戻るのは難しい。そこはヴィランの命が無いと、さすがに無理だった。なので、ヴィランからの命だと言って、一人だけをとりあえず連れて出て、何かあった時の戦力にと考えて、急いでドラゴン城へと飛んでいた。

眼下に見える大陸の神達は、今はドラゴンについているので問題はないはずだ。しかし、上空を飛んでいるのを気取られるので、気が変わったと捕らえられては面倒な事になる。

なので、なるべく神の宮が無いルートを取って、海岸線上を通ってドラゴン城を目指していた。

…今のところ、島は静かなようだ。

ザハールは、島を右に見ながら思った。ピリピリと緊張するような気は感じたが、それでも闘気が湧いていて今にもこちらへ攻め込むような、そんな雰囲気はない。

ミハイル様は、あちらでどうなさっておいでか。

ザハールは、最後の時を思い出していた。自分が帰るまで、ドラゴン達を守って待っていてくれとミハイルは言った。自分に出来る限りのことはしているが、それでもヴィランの軍神の扱いは荒い。最初の島の北への侵攻の時も、本当ならあのまま、全軍死滅する勢いで攻め込まねばならなかったのだ。だが、ザハールは龍王が来たのを見た時、とても敵うものではないとすぐに退くように命じた。他の王達は、質に取られている妃と子の命が懸かっていたので、必死に残っていたが、結果など目に見えていたのだ。

自分がドラゴン城に居る間に、ミハイル様にお戻り頂ければ。

ザハールは、思った。今なら、自分しか居ない。残っている軍神達は、ヴィランではなくミハイル派であった軍神で、南東への時間稼ぎの侵攻も、皆それらに申しつけられて捨て駒位置にされている者達だ。匡儀へ攻め込む時も、城へ残されていたのは、戦場のどさぐさに紛れてヴィランに手を掛けようと思う輩が居てはと懸念されたからだった。

実はヴィランが恐れているのはザハールなのだろうが、ザハールの戦力は侮れず、初めての土地でザハールを連れて行かないという選択肢は無かったようだ。

つまりは、今ミハイルが龍王と共にドラゴン城へと来てくれたなら、無駄なドラゴンの命を散らすことなく、簡単に城はミハイルの手に落ちるのに、と、ザハールは連絡を取れないことを残念に思っていた。

それでも、龍王は愚かではない。近いうちに絶対にこちらへ来るはずだと、ザハールは城への道を急いでいた。

すると、その辺りにはこの土地の神も居ないと聞いている、空いた土地を飛んでいる時に、急に斜め後ろを飛んでいた、軍神が低いうめき声を上げた。

「?!」

ザハールが振り返ると、その軍神は気を失って落下して行く。

ザハールは、慌てて軍神を追って急降下した。

「サミエル!」

ザハールが手を伸ばすと、サミエルに到達する寸前に、背に大きな衝撃を感じて、気が付くとザハールは、地面へと叩きつけられて倒れていた。

…気付かなかった…誰が…。

強い衝撃に動きが取れず、目の前に同じように倒れるサミエルが、気を失っているのが見えるのに焦っていると、誰かの足が、目の前に降りて来て、自分を見下ろした。

ザハールが、気力を振り絞って顔を見ようと見上げると、その男は、真っ白い髪に薄いブルーの瞳で、口元に笑みを浮かべて、言った。

「…良いところに。北の神の気をまとってるな。聞きたいことが山ほどあるのだ。素直に話せば命は取らぬ。が…」と、手を上げた。「ちょっと寝ておれ。」

…来る…!

ザハールは思ったが、成す術なくその力に捕らえられ、目の前が真っ暗になって何も分からなくなった。

…ミハイル様…お待ちすることが出来ぬで申し訳ありませぬ。

ザハールは、最後にそう、思った。


彰炎は、実に七百年ぶりで宇洲と顔を合わせていた。

宇洲は、あの頃よりは少し、年上の外見ではあったが、そこで止まったのかほとんど変わらぬ外見だった。

その落ち着いた茶色の瞳を見て、彰炎は懐かしさに込み上げて来るものがあったが、それでも表面上は何でもないように、努めて平静を装って言った。

「…わざわざに来てもろうてすまぬな、宇洲。此度は匡儀の事で取り急ぎ問い合わせたのだが、そちらでも調べは進んでおるか。」

特に感慨もなく、いきなりに用件を言う彰炎に、宇洲は苦笑して言った。

「相変わらずであるな。主はこういう時は務めばかりよ。こちらは、紫貴が至らぬから逃げ帰って参って毅沙ほど調べて来ておらなんだ。こちらの方が毅沙から情報をもろうたほど。して、誓心は?何か申して来たか。」

彰炎は、首を振った。

「まだ何も。あれは北東で離れておるから、知っておっても反応が遅れるのやもしれぬ。知らせをやろうにもあちらは匡儀の宮を挟んで対角線上の北東。北の土地にも近い位置であるから、軍神一人でやるには遠すぎるだろうと行かせられておらぬ。」

宇洲は、息をついた。

「そうか。宮を閉じてからも、こちらの動きは隣りであるしよう見えておったが、誓心の事は全く分からぬでな。匡儀がどうなったのか、主に分かるか。」

彰炎は、首を振った。

「全く分からぬ。何しろ、外から見えることしか分からぬで。攻撃を受け始めるまで、あれがどう動いておるのか全く探っておらなんだ。なので、あの時に宮の中に居ったのかも知らぬ。ただ、最近はうろうろしておるなあと感じておった。北から島へ攻撃があったのは知っておったし、それを見に行っておったのも気の流れで気取ってはおったからの。それからの事は、あまり知らぬ。こちらは静かで、まさか北からこちらへ先に侵攻して参るなど考えてもおらなんだ。」

宇洲は、厳しい顔をした。

「…まさか討たれてしもうたことは、あれに限ってないとは思うが…しかし、空から光が降りて参ったのはどう思う。もしかして、あれは月ではないのか。毅沙に聞いたが、どうやら龍をその光が運び去ったのではないかと思われる。匡儀は、あちらの島と交流を始めておったのでは。」

彰炎は、ため息をついて肩を落とした。

「分からぬ。ま、座れ。」と、傍の椅子を示してから、続けた。「月などと話したことも無いしな。毅沙、その光から感じた気の様子はどうであったか。」

毅沙は、彰炎の傍に膝をついて、思い出すように遠くを見た。

「はい。何やら懐かしいような癒されるような、しかしあの折は焦っているような、そんな感じを受けました。神の気とは違うような心地で…咄嗟のことであったので、もしも月だとしても慌てたのではないかと思われますが…。」

宇洲は、椅子に背を沈めてうーんと唸った。

「月のう…。確かに月に何かが居るのは常、感じておったが、こちらに目を向けることも無いようなので、我もあまり意識したことが無かった。時々に月のせいで地上が荒れておるのを感じたこともあったが、直に収まったし、月も具合を悪くすることがあるのだなと、簡単に思って見ておったものよの。」

彰炎は、宇洲に身を乗り出した。

「ならば月に話しかけてみたら良いのでは。もしかして、こちらがこんなことになっておるから見ておるやもしれぬぞ。そうしたら、月からいろいろ情報ももらえよう。」

宇洲は、顔をしかめて彰炎を見た。

「何を言うておるのだ。今まで話しかけて答えたことがあったか。月など、数多の戦場で戦っておる時に何度も見上げ、我が軍神達とてたまに月に祈っておる時があったが、答えておる様など見た事もないわ。何か居るのは分かっておるが、聞こえておっても答えぬというのが常識ぞ。此度は特別ではないか。匡儀がどのようにして月に手助けしてもらったのか分からぬが、我らにはそんな伝手もない。」

彰炎は、確かにそうだ、とまた肩を落とした。

「ならば手詰まりぞ。誓心はまだ生きておろうの。あれが近いゆえ、何か知っておるやもしれぬが、今一番出来ることと言えば、あれと連絡を取ることぞ。」

それを聞いていた、毅沙が膝を進めた。

「王。我が参りまする。お命じくださいませ。」

彰炎は、片眉を上げて毅沙を見た。今、他の王達の領地の上を通って、誓心の居る北東まで行くのは自殺行為だ。まして、よく分からぬ異形の神が居るのを知ったばかり。それらに見つけられ、襲われたらまず命はない。それどころか、どこの神だとこちらを調べに来る危険性まであるのだ。

「…主の気概は嬉しいが、無理ぞ。北のよう分からぬ神まで居る中、あちらへ無事にたどり着けるか疑問ぞ。誓心が何を考えてどう動いておるのか分からぬし、そもそもが誓心がまだ生きておるのかも分からぬ。我ら歳が同じで、我も宇洲も1000歳を超えておる。誓心も生きておったらそれぐらい。普通の神並みの寿命であったなら、あれはもう居らぬと見た方が良い。皇子が(しょう)と申して今頃はそれなりの歳になっておるはずだが…あの頃は、まだ赤子であったしな。我らと面識はないし、行ったところでこちらの力になるかは分からぬの。その翔すら今頃己の子に王座を譲っておるやもしれぬし…。」

話しながら、彰炎は己で改めて驚いた。そうだ。それほどに長い時を籠って来たのだ。こうして宇洲と再会したら、まるで断絶したのが昨日のことのように思われるが、それはお互いに生きていたから。長く共に生きた時があるからだ。

もし、誓心の率いていた白虎の、今の王が別の神ならば、自分たちに力を貸す事などなく、まして匡儀にもこの土地の他の事も興味もなくただ、宮を閉じて過ごしているのかもしれない…。

宇洲は、同じように思ったのか、彰炎を見て、言った。

「誓心が生きておるのかどうかも分からぬ。とにかくは、我らだけでどうにかすることを考えよう。白虎に期待してはならぬ。」

彰炎は、息をついて宇洲に頷いた。とはいえ、どうやって情報を得たら良いのだろう。ここは匡儀の領地を中心に考えると南西の位置。自分たちの後ろにはこの方角には誰も宮を構えてはいない。だが、北には宮が連なり、南にも宮々があり、それらもこの戦に加わっていたように感じる。何しろ、回りが騒がしいと思ったのは、そんな神達が出陣して行く気配を感じていたからなのだ。

情報を得るためにはあの島へと向かうのが一番だと思われた。東へ行きたいのだが、東にも宮がある。東のあの島までたどり着くには、獅子の宮の後ろへと下がり、南へと大きく向かい、海へ出てからぐるりと迂回して向かう必要があった。

そうして、行った先で、果たして東の島の神達は、自分達をどう見るのか。

北から侵攻されている最中なだけに、警戒されていきなり襲われるということにもなりかねない。

文字通り八方ふさがりの状態に、彰炎は頭を抱えた。なぜに、もっと早くに匡儀と再会しておかなかった。とっくに謝る覚悟は出来ておったのに。何がどうなってこんなことになったのか、まったく流れが分からず身動きが取れない…。

宇洲は、そんな彰炎を見ながら、顔をしかめていた。宮を閉じるリスクは分かっていたはずだった。他の宮との交流がなくなれば、外からの情報が全く入って来なくなる。匡儀の力に甘えて悠長に宮を閉じていたばかりに、こんなことに。

しかし、先に進むしかない。

彰炎と宇洲は、どこへ向かうべきなのか、そのまま毅沙を交えて真剣に話し合ったのだった。

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