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相違

白龍の宮では、ドラゴン達が会合を持っていた。

この地の王達の代表として、関留と功、それに他三人の王達も同席している。

しかし、ヴィランは一人の軍神を睨み付けていた。

「そんなことを申していたら、あちらの思う壷ぞ!今すぐに攻め入るのが一番の近道ぞ!あちらに考える余地を与えてはならぬ!」

ヴィランが言うのに、相手は冷静に答えた。

「考えると申すなら、こちらへ攻めている間に考えておるとみるのが普通でありまする。あちらの神は、我らがこちらへ攻めている間にもこちらへは出て来なかった。何か考えがあるからではありませぬか。空からの光が、龍達をどこかへ連れ去ったのは周知の事実。大半の龍があちらへ連れ去られたのは容易に想像できまする。つまりは、月が手を貸したのだと考えられましょう。王の匡儀様もすぐに戻れる距離をお戻りにならなかった。結界は、破ったのではなく、破らされたのだと考えた方が自然でありまする。ヴィラン様、ドラゴン城へお戻りになるべきです。今はあちらが案じられまする。」

ヴィランは、何度も首を振った。

「うるさいうるさい!ザハール、そんなことを申して時を稼ごうとしておるのではないのか!ここは簡単に堕ちたのだ、こちらの神達の手助けなどないとたかをくくっていたからではないのか!あちらに体勢を整える時が惜しいわ!」

ザハールは、それでも首を振った。

「体勢など。あちらにどれ程の神が居ると思うておられる。とっくに整っておりまする。北へ急襲した時に分かり申しましたでしょう。」

ヴィランは、怒鳴り付けるように言った。

「あの時は徹底的に叩けと申したのに!主を行かせたのが間違いであった!すぐにドラゴンに命じて退きおってからに!今少しドラゴンが居れば、もっと侵攻出来ておったのに!本州にたどり着けなんだのは、主の責ぞ!」

ザハールは、それでもヴィランを睨み付けて言った。

「無駄に散らすために、軍神達を率いておるのではありませぬ。本気の龍王などに叶うはずもないものを。ヴィラン様は出て来もしなかったのではありませぬか?我を龍王に殺させようと思われたか。我は己の力の限界を知っておりまする。敵わぬ敵の前で、皆の命を無駄に散らす判断など出来ませぬ。」

ヴィランは、歯ぎしりした。悔しいが、生まれ持った気の力はこのザハールの方が大きい。若い頃からヴァシリーに重用され、今も変わらず大きな力を持つ。それでも、王座に興味も無く、敵ではないと思っていた。むしろ王座に就いた後は、この男を使える分、南を攻めるには便利だと思った。今でも、軍神達の中ではザハールの言葉に従う神が多く、今中からザハールに反旗を翻されたら、ヴィランも面倒でどうしようもなかった。討とうにも、ザハールは隙を見せず、今ヴィランに盲目的に従っている、マルクや他の軍神達では、皆で掛かっても返り討ちにされるのは目に見えていた。

なので、無碍にも出来ないのだ。今は内輪揉めしている余裕はなかった。

そんな中、関留がうんざりしたように言った。

「主らの中で意見が違うのは良いが、そんなものを聞くために我らここに来ておるのではない。我らは匡儀を討つために居るのだ。島に居るという、もう一人の龍王とやらはそれほどに厄介な神か。」

それには、ザハールが答えた。

「はい。匡儀様より強く大きな気を持ち、戦い慣れており隙などありませぬ。あちらの島に居る鳥、鷹、鷲、白虎、獅子など力のある神達も、全くの叛意無く従っており、月の妃を持ち完璧に君臨しておる王。まず、その顔を見ることすら難しいのではないかというほど絶対的な存在でありまする。」

それを聞いた、功や他の王達も息を飲んだ。これまで、匡儀以上の力を持つ神など見たこともない。

功の隣に居た、関根というここに居る誰より年上であろう神が言った。

「…聞いたことがある。」皆がその顔を見た。関根は続けた。「我が祖父の代の頃のこと。父が皇子の頃に、強い力を持つ王達が、この地でも君臨していたのだと。それらが匡儀と共に皆を押さえて戦うゆえ、成す術もなかったのだと。それでも皆が抵抗しておった中で、それらの中でも諍いがあったようで…一人、また一人と宮を閉じ、残ったのは匡儀だけであったとか。その匡儀が単身ここを平定し、我らその下に下った。それが今そやつが申した、鳥、獅子、白虎という種族であったのだと。ならば今も、攻めて来ようと狙っておるのでは。」

ザハールは、目を細めた。宮を閉じた…?覇権争いに負けたからか?それとも…。

しかし、ヴィランはふんと鼻を鳴らした。

「どうせ匡儀と誰が治めるなど揉めて負けたのだろうて。そんな気概のない輩など知らぬ。今も怯えて籠っておるのではないのか。何しろ、己が敵わなかった匡儀を破ったのであるからな。我らに敵などない。案じるでないわ。」

しかし、ザハールは言った。

「いや、しばらく。こちらの地のことは我らは全く知らぬのですぞ。それらの居場所だけでも探っておいた方が良いのでは。鳥、鷹、白虎の力は侮れませぬ。北で鳥と対峙致しましたが、我らほどには力を持ちまする。ましてかなりの手練れだった。警戒なさっておかねば挟み撃ちになるやも…」

「もう良い!」ヴィランが、いきなり叫んで立ち上がった。「島へ攻め込む絶好の機ぞ!日没と共にあちらへ向かう!」

ザハールは、同じように立ち上がった。

「なりませぬ!日没後など、月が昇った我らの動きは丸見えなのですぞ!本日は満月の次の日、十六夜の夜。月の力が…ドラゴン達を無駄に殺させるわけには!」

しかし、ヴィランはそれに答えず、振り返ることすらなくドカドカと派手な音を立てて、そこを出て行った。

残された、関留が顔をしかめた。

「主らの王は面倒では無いのか。確かに我らも早う匡儀を討ってしまわねばと焦るが、それでも状況を見極めるのが先ぞ。ただ闇雲に攻めるだけでは勝てる相手ではない。まして、そのあちらの島の龍王は、匡儀より力を持つのだろう。我は少し様子を見させてもらいたいと思うが。」

隣りの、功も頷く。

「我もそのように。こちらでは籠っておって直接に知らぬが、確かに関根殿が申したようなことを、宮の書で読んだことがある。鳥や獅子など見た事も無いし、どれぐらいの力を持つのか想像できぬのに、我らも兵を出すことは出来ぬぞ。」

関根も、老いて丸くなった背を伸ばして鋭い目で頷いた。

「祖父が常、あれらを侮るなと幼い我に申しておったのを覚えておる。籠っておるという事は、出て来ることも出来るということ。まして、匡儀と何があったにせよ、今はその匡儀が居らぬのだ。これ幸いと出て来てもおかしくはない。ドラゴンという種族もそこそこ強い気を持っておって、我ら心強く思ったゆえこちらについて戦ったが、それに加担してここを離れて戦っているうちに、背後から宮を取られるようなことはあってはならぬ。我はザハールという軍神に同意よ。主らも、島を取りに出てここを取られ、おまけに本丸の北の城まで落とされたらどこへ帰るのだ。行き場も無くなってあちこちから挟み撃ちにされてどうしようもなくなるのではないのか。王が、城を放って置いて気にもせぬのが驚きであるがな。」

臈長けた様子は、妙な説得力があった。

こちらの地の王達が、頷き合ってそこを出て行った後、珍しくマルクが、神妙な顔でザハールを見た。

「…主は、北の城を龍が襲うと思うか。」

ザハールは、珍しく自分に意見を聞いて来る、マルクを見て頷いた。

「今、城には一万五千しか兵が居らぬ。龍王が、一瞬で三万ほどの兵を消し去ったのを見たばかりぞ、マルク。簡単に落ちると考えて、あちらへ向かいながら領地は他の神に守らせたら簡単だと思うはず。あの龍王なら城ごと消し去って跡形も残らぬ。我は今、あちらを守るべきだと思うておる。まして、こちらの神がこの土地に、潜んでおる力のある神が居ると二の足を踏んでおるほどぞ。確かにあの、関根という王が言う通り、そんな神が居るのにこちらから侵攻してこちらの守りが薄くなっておる時に、そんな神達に出て来られてはこちらも面倒なことになろうぞ。」

マルクは、考え込むような顔をして、レスターとハリスを見た。二人とは、まだヴァシリーが王であった時から共に切磋琢磨した仲間なのだとザハールは知っていた。ヴィランに見出されて王になるのを手助けし、その功績で上位筆頭から三位までを任されている者達だった。

だが、愚かではない。

ザハールは、今の話し合いでこの三人が戸惑っているのを感じた。

じっと三人の様子を見ていると、レスターが、重い口を開いた。

「…あちらには、父上も母上も居る。もう老いておるし、龍などが来たら逃げることもままならぬ。他の軍神達も、妻も子もあちらに…。攻め込まれたら、どうしようもない。」

ハリスは、言った。

「だが、あちらには質の神達が居るだろう。それ諸共消し去ろうとすると思うか?それこそあちらの神達が、必死に抗おうから城は安全なのだと王はお思いなのでは。」

マルクは、それにも考えながら答えた。

「龍王が、そんなものを気にすると思うか。あの折の容赦ない様子は、我らその場に居らずとも遠目に見て恐怖を感じたのではなかったか。王に命じられて来ただけの軍神であるのは分かっておったはず。それなのに、王以外を全て殺してしもうた。王だけを捕らえて、あちらでは質にしておる。そんな絶対的な力を持つ王が来て、抵抗するであろうか。手を貸して、王を返してもらおうと考えるのでは…城に捕らえておるのは、妃と子だけなのだ。臣下なら、どちらかと言われたら王を取り返したいはず。龍王につくと考えてもおかしくはない…。」

レスターは、顔色を変えた。そして、マルクに言った。

「ならばマルク、王にご進言を。今少し島への進軍は待って、我らのうち誰かと軍神一万だけでも、あちらの守りに戻るご許可を。残った誰かが、こちらの王が言うておった、潜んでおる神のことを調べて参るということで。此度ばかりは、ザハール殿が言うておることが間違っておるとは思えぬ。王は今夜と申されたが、あの王達が兵を出さぬと申しておる以上、王だけではそれは敵うまい。」

マルクは、困って顔をしかめた。あのヴィランが、自分の言葉で考えを変えてくれるとは思えない。もしかしたら、この地の王達の説得を夜までにせよと命じられるかもしれない。そんなことは、出来そうにもなかった。

ザハールが、ため息をついた。

「どちらにしろ、ヴィラン様はあちらへ今夜侵攻するなど無理であろう。ここに連れて来ておる軍神が三万と少し。あれだけで島へと攻め入るのは自殺行為ぞ。主はとりあえず、ヴィラン様に他の王が背後から襲われたらと、兵を出すのを断って帰ったとご報告を。その上で、潜んでおる神達を調べるご許可をいただくのだ。それが島へと侵攻する近道であると。北の城が気になるが、今のヴィラン様にそこへ帰るご許可をいただくのは難しかろうな。そうであるな…我が、ひとまず戻っても良い。」

三人は、驚いた顔をした。

「王からの許可を待たずに?」

ザハールは、頷いた。

「主らにそれが出来まい。我ならば命に背いてもすぐにはどうにも出来ぬ。後で罰を受けるのは我だけであるし、主らは知らぬで通る。何より今は、主らがあちらを案じずにこちらで戦えることぞ。我がついておると思うたら、主らも心強かろう。」

言われて、三人はまた顔を見合わせた。確かに、このザハールは王座に全く興味はないが、本当なら王座争いに加わっていてもおかしくはないのだ。ヴィランが、これほどに意見して面倒なのにそれでもザハールを始末出来ないのは、ここに居る誰よりも力を持ち、手練れだからだ。

そんなザハールに城の守りに戻ってもらえたら、確かに皆安心していられるのも確かだった。

「ならば、我ら黙っておこう。主が居らぬとなれば、恐らくは城の様子を案じておったのでそちらでは、と答えておく。王だとて、リーリア様があちらに居るのだから、案じられるはずなのだ。きっと分かってくださるはずぞ。」

ザハールは、そんなマルクに苦笑した。分かってくれるはずとは。

「…ならば、ヴィラン様にはそのように。我はすぐに発つ。後は頼んだ。無駄にドラゴン達を殺すでないぞ。」

三人が頷くを見て、ザハールはそこを密かに北へと飛び立った。

それを見送りながら、マルクはハッとした。

そういえば、ザハールがヴィランを王と呼んでいるのを聞いたことがないのだ。

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