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古い友

匡儀は、遠い目をしながら、続けた。

「あちらはこちらより長い時間戦国であったのだ。そんな戦いに嫌気がさして、一人、また一人と宮を閉じて表に出て来ぬようになった。最後には、我一人になってしもうて…思ったより時が掛かってしもうたが、五百年前ぐらいにやっと我が平定した。友であった神達であったが、あれらは臣下を突然に襲われて失ったり、妃が里帰りの折に襲撃されて子共々失ったりと、戦国の世に見切りをつけたのよ。我は、妃も子も居らぬから、そんな思いもせずで。」

維心は、驚いていた。たった一人で。…自分には、炎嘉が居たし、箔炎も途中までは居た。志心ともいろいろあったが最後には友好関係になって一緒に戦った。

だが、匡儀にはそれが、最初は居たのにどんどんと減って行って、最後には一人になってしまったのだ。

維心は、匡儀を治療し終えた維月が、涙ぐんでいたのを思い出した。

維月は、匡儀の生きて来た道を、見て知っていたのだ。癒しの過程ばかりを聞いて、内容など詳しい事は聞いてはいなかった。

焔が、同情したように匡儀を見た。

「それは…主、大変であったの。して、それはどこの神ぞ?まだ生きておると思うか。」

匡儀は、首を傾げた。

「どうであろうか。位置から申すと、我が宮の北東に一人、南西に一人、そこから更に南西に一人。」

維心は、目を丸くした。そんなに居るのか。

「また多いの。そんなに皆が皆籠ってしもうたと。」

匡儀は、また頷いた。

「皆、友であったがな。戦い詰めであったし、あれらの心地も分かる。我には妃も子も居らなんだし、支障は無かったから最後まで戦っておっただけのこと。」

炎嘉が、身を乗り出した。

「その神達はどうしておるのだ。籠っていた神はこちらにも居ったが、今は出て来ておるぞ。それらは力がある神であったか。」

匡儀は、また頷いた。

「ああ、我よりは少し、劣るぐらいであったか。北東には白虎、南西は鳥、その向こうには、獅子。」

駿と、志心と炎嘉が仰天した顔をした。

己と同じ種族が居ると聞いたからだ。

「獅子…」駿が、必死な様子で言った。「獅子と?!匡儀殿、我と、我と同じ気であったか?!」

匡儀は、駿をじっと見て、ハッとしたような顔をした。

「そう。確かにそうよ。名は宇洲(うしゅう)。まだ若かったが、今は老いて亡うなったやもしれぬ。だが、子が継いでおるかも。子の名は(しょう)であったな。」

駿は、愕然とした。今ではこちらでは王族しか居ない獅子が、あちらには種族として残っておるやもしれぬと。

匡儀が駿の様子に戸惑っているようだったので、炎嘉が、そんな駿を気遣って言った。

「こちらではの、獅子は維心に反旗を翻して滅ぼされたのよ。残ったのはこの駿の父の観と弟の暦の二人で。復帰するまで、かなり苦労をした。今でも獅子は、王族の数人しかおらぬのだ。」

それには匡儀が驚いた顔をした。獅子が居らぬ?

「…なんとの。確かにそんなこともあるだろうに、我は思うても居らなんだ。では、白虎も鳥も居るか。そういえば、炎嘉殿は鳥であったな。確かに…派手な様がよう似ておるわ。」

匡儀は、懐かしそうに炎嘉を眺める。炎嘉は、ブンブンと首を振った。

「同族であるのだから似ておって然るべきぞ。主と維心とて気の感じがそっくりであるし。では、そやつらは此度の襲撃には加担しておらぬのだな?」

匡儀は、顔をしかめた。

「加担しておらぬと思うがな。あれらはドラゴンなどと組まずとも、我を討ちたくば討てるだけの力があるしの。そもそも外でこんなことになっておるのを、知っておるのかも疑問ぞ。領地が広いゆえ、離れておったしなあ。」

何やら呑気な様子で、炎嘉はイライラと言った。

「何を悠長に。それらに渡りをつけられさえしたら、こちらに手を貸してもらえるやも知れぬではないか。宮を取り返してヴィランを討てるのだぞ!」

匡儀は、悲しげに視線を落とした。

「…あれらには悪い事をしたのだ。我はあれらの子などに興味はなくて、あの当時冷たい対応であった。後にわかったものだが。あれらは我の事など助けようとは思わぬだろう。力で押さえ付けるだけではならぬと…彰炎(しょうえん)に何度も言われたのに。今頃はそれ見た事かと笑っておるのではないか。」

維心は、顔をしかめた。力で押さえ付ける…それは自分もそうだった。炎嘉がうまく口利きをして橋渡しをしていたので皆殺しにせずに済んだが、それがなければ今頃は、残った神は少なかったかもしれない。

炎嘉が、眉を寄せた。

「彰炎?誰ぞ。」

匡儀は、炎嘉を見て答えた。

「我が一番親しくしておった友よ。歳が近くて…皆が皆我にはものを言えぬだったが、あれは遠慮もなかった。鳥族の王よ。妃も子も多くて華やかで、我とは対称的な男だった。まだ生きているかは知らぬ。」

炎嘉は、息を飲んだ。

まるで、前世の自分のことを言われたように思ったからだ。

維心もそうのようで、炎嘉を複雑な顔で見た。その彰炎という男は匡儀を見捨てたが、炎嘉は維心を見捨てなかった。

それだけの事なのだ。

炎嘉は、それに気付いていたがそちらを見ずに、匡儀をじっと睨むように見て、言った。

「ちょっとしたすれ違いぞ。」匡儀が驚いて炎嘉を見ると、炎嘉は続けた。「相手だってまさか何百年も放って置こうなど思ってはおらなんだと思うぞ。意地を張っておる間に時が経ってしもうて、主が一人でも平定してしもうたから、出て来れぬでおるのだ!何しろ、主は己のやり方で平定したのだろうが。ならば己無しでもさっさと治めてしもうた主に、己から出て来て主が苦労して作った主の世に、平気で暮らすなど出来なんだのだと思うぞ。主は相手に声を掛けたのか。放置しておるのではないのか。」

匡儀は、炎嘉の話に目を丸くしていたが、渋々ながら頷く。

「我だって、あれと話したいと思うが、あれは最後、妃の一人と子を三人、我らを憎む輩に殺されてから、恨みを買うだけのやり方ではついて行けぬと捨て台詞を残して、宮を閉じてしもうたのだ。宇洲(うしゅう)誓心(せいしん)もそれに同意して同じように宮を閉じた。あれらと共に戦っておったから、我はあの頃突然に一人になって、更に強権的にするよりのうなってしもうた。最近になって…彰炎が言うておったことが思い出されて、緩めて参ろうとしておったところで。己なりに、付き合いというものも、せめばならぬかと、会合の後の宴にも出てみたり。」

焔が、もううんざりしたように匡儀を見た。

「してその、誓心とは誰ぞ?我ら全くそちらのことが分からぬのだ。説明せぬか。」

匡儀は、慌てて付け加えた。

「誓心は白虎の王。だが、彰炎も宇洲も誓心も、我より少し若いぐらいであってほとんど同じであったから、今頃は死んでおるやもしれぬ。生きておったら皆1000歳と少しぐらいでな。」

志心が、珍しく前のめりで首を振った。

「我らの気の量で1000など軽く生きるわ。我は今1400年生きておるのだぞ?もしも我なら、引っ込んでおっても外でかつての同胞が追われたと知ったら、黙ってはおらぬわ!」

炎嘉も、それには頷いた。

「我もそう思う。意地になって籠ってしもうて出て来るに出て来れぬようになっておると思うぞ。もしも我なら案じて仕方がないわ。今頃どこへ行ったと必死に探しておるのではないのか。匡儀、今こそそやつらと和解する時ぞ!」

駿と志心と炎嘉の三人が、かなり前のめりに匡儀に寄ってたかって言う背を見ながら、維心は考えていた。

匡儀に逆らえないようになっていた神達は、数は多いが皆ドラゴンよりは劣るぐらい、つまりは、強くてもこちらの序列上から二番目三番目ぐらいあるか無いかの力のように思う。対して、匡儀の友であった神は、こちらの最上位、鳥、白虎、獅子と同じぐらいの力があるはずだ。何しろ、同じ種族で違う土地で発展しているだけなのだ。僅かな差はあっても、大差は無いかと思われた。

それらが今回の戦に参戦していなかったということは、もしかしてドラゴンは、その存在を知らないのではないか。

「…待たぬか。」維心が言うと、皆が口を閉じて維心を見た。維心は続けた。「そやつらが何百年も籠っておるという事は、今居るそちらの反乱分子の神達は、そやつらのことを知っておるのか。」

匡儀は、維心が何やら真剣な顔で聞くのに、驚きながらも首を傾げた。

「…どうであろうか。あやつらは、平定してから代替わりした者が大半で。皆普通の神並みの寿命であるしな。だが、いくら籠っておっても領地には立ち入らぬのだから、そこに何か居るのは分かっておったはずよ。」

維心は、首を振った。

「そういう事ではないのだ。直接に鳥や白虎や獅子と対面したことがある神が、残っておるかと聞いておる。」

匡儀は、それには首を振った。

「直接に対峙した神は居らぬだろうの。我が臣下でさえ、皆で戦っておった時代の後に生まれておって、直接に会ったこともない。平定したのは僅か五百年前、あれらがこもったのが更にそれより二百年前。あれから七百年なのだぞ。あの当時、我も若かったがあやつらもまだ300そこそこであった。」

維心は、それならいける、と思った。あちらでは、そんなに力のある神が、その大陸に潜んでいるなど知りもしないのだ。

「ならばドラゴンも知らぬ。」維心は、匡儀を見た。「匡儀、ならばこれより策を練ろうぞ。我が主と共に龍達を率いて主の土地へ行く。宮は堕とせぬやもしれぬ。だが、我らが攻撃しておる隙を見て、主は密かに友の宮へ参るのだ。閉じておっても主ならば話しぐらい聞くだろうぞ。和解して、今一度あちらの地を治める力になってもらうのだ。ドラゴンは、どうしても討たねばならぬ。あちらの神にどう手を貸してもらうかは、これより考える。全ては主が相手を和解することに掛かっておる!」

匡儀は、維心に言われて息を飲んだ。

炎嘉も志心も駿も、ただ聞いている他の神々も、固唾を飲んでその様子を見ていた。

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