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月の宮と会合と

蒼は、謁見の間で匡儀を迎えていた。

その後ろには、慣れない場所で緊張気味にしている軍神二人、堅貴と桐生が黙って控えている。

蒼は、大事になったなあと内心ため息をつきながら言った。

「匡儀殿。我が月の宮王、蒼。この度は大変な事であったな。ご回復されて何よりぞ。」

蒼は、神の間の付き合いには、もう慣れていて、いきなりに人のようではまずいのは分かっていたので、神の王達と同じようにそう言った。

匡儀は、軽く会釈した。

「大変にお手間をお掛けしたことよ、蒼殿。月のお陰で軍神の大半を失わずに済んだこと、礼を申し上げる。して、月の十六夜は?」

蒼は、苦笑した。十六夜は疲れて月で寝ている。なので、気にするな、とにかく早く戦を終わらせろと伝えろと言って、降りて来なかったのだ。

「…十六夜はいろいろあって今、月から降りて来ていないのだ。ただ、気にするなと伝えて欲しいと。戦を早く終わらせて欲しいそうな。」

匡儀は、神妙な顔をした。

「それもこれも我があちらをしっかりと治め切れておらなんだせいだと思うておる。迷惑をかけておる上にすまぬが、我ら白龍、こちらの領内に、滞在させてはもらえぬか。ここからは大陸にも近いし、月の守りの中に我が臣下達を置いて頂ければ我も心置きなく戦いに出て参れる。静かにお暮らしであるのは分かっておるのだが、此度だけ、お許し頂きたいのだ。」

蒼は、維心の所じゃないのか、と驚いたが、確かに軍神の大半はここに居る。移動させる事を思うと、ここがいいのかも知れない、と思い、頷いた。

「それはいいのだが、ならば入れる場所を作らねば。今は前に他の種族を受け入れた時に作った集落に、皆を収容しておる状態。匡儀殿と重臣は宮に滞在してもらい、他は仮設の屋敷で過ごしてもらうことになるが、それでも良いか。」

匡儀は、頷いた。

「どこなりと。誠に世話を掛ける、蒼殿。よろしくお頼み申す。」

匡儀は、軽く頭を下げた。王は軽くでもあまり頭を下げないのを蒼は知っているので、慌てて言った。

「そのように頭を下げる事などないのだ。当然の事をしておるだけぞ。では、すぐに箔炎とも連絡を取って皆をこちらへ集めよう。龍の宮の軍神一万もこちらへ。手配しようぞ。」

匡儀は、首を振った。

「いや、これより箔炎殿にも礼を申しに参り、自らあれらを引き取って参る。龍の宮には堅貴をやって一万の軍神は直接こちらへ来させよう。突然に騒がしくなるが、蒼殿にはよろしくお願い申す。」

蒼は、頷いた。匡儀は、それなりの王なのだと思っていたが、出来る王なのだと蒼の中で格上げされた。臣下のために、あちこち頭を下げる事が出来るのだ。簡単に出来るようで、なかなか神世にはそんな王は居なかった。

それに、維心と似ていると聞いていたが、こうして見ると匡儀は維心より少し、温和な感じがした。維心は、知らなければ何を言っても聞いてくれないような、厳しい緊張感を感じるが、匡儀は話せば聞いてくれそうな雰囲気がある。とはいえ、維心はその実話せば聞いてくれる王なのだが、それは蒼だから知っていることで、他のあまり親しくない王から見たら、維心は未だに厳しい非情な王なのだ。

去って行く匡儀の後ろ姿を眺めながら、蒼はここで、匡儀が滞在しているうちに、いろいろと知り合っておこうと心に決めていた。


そうして、匡儀は回復したばかりだというのに、鷹の宮で箔炎と対面し、臣下達と対面を果たして、それらを連れて月の宮へと入った。

蒼が対面の時に話したように、匡儀と近しい重臣は宮へと部屋を与え、軍神でも上位の者達は、軍宿舎の方に部屋を与えて、他は再び作られた難民宿舎の集まりのような村へと収めた。

月の宮は神が少ないので、その昔維心から譲られた領地は広く余りあるぐらいで、ちょっと龍が10万ほど増えたからと、特に問題はない。

それに、軍神達は龍であるから大変に礼儀正しく規律がしっかりしていて、迷惑を掛けられるようなことも一切なかった。

それに、この月の宮は神世の桃源郷と言われて居るだけあって、癒しの気が常に降り注ぎ、浄化された清浄な濃い命の気に溢れている。

逃れて来たのに、白龍達は常より元気そうだと、匡儀は安堵しているようだった。


そうやって白龍達は落ち着き先を見つけて一旦胸を撫で下したのだが、問題は山積していた。

こうなってしまったからには、ドラゴンを警戒して、龍達どころか鷹も鷲も鳥も白虎も獅子も、島の海岸線全てを見ていなければならなくなり、宮を守る最低限の兵だけ残して、後はずらりと海岸線に配置されていた。

そんな厳戒態勢の中、緊急に招集された龍の宮での会合で、維心は珍しく自分から発言した。

「事態は余談を許さぬ状況になっておる。」隣りには炎嘉、反対側の隣りには匡儀が座っている。維心は続けた。「ドラゴン達は、本気でこの島を手にしようとしておるようぞ。北への対策も行っておるが、間に合うのかまだ分からぬ。ドラゴンさえ落とせば、相手は分裂しようが、今はあちらの兵力の方が多く、こちらは防衛一方になっておる。ドラゴン城など我が一人でさっさと消してしまえるが、果たしてそれで終わるのか分からぬ状況になってしもうた。今は王のヴィランが匡儀の宮に居座って、こちらを睨んでおるようぞ。あちらの王達も、匡儀を討とうとこちらへ入って参ろうし、我ら最上位だけでは守り切るのは難しいやもしれぬ。前にも申したように、己の宮の管理は己でしっかりとせよ。数が必要な時であるから、出陣する時には例え最後尾でも出て参れ。今にも三方から突然に襲い掛かって来るやもしれぬ非常の時ぞ。こちらの土地の土を踏ませぬつもりであるが、そうなった時、己の宮の臣下を逃がす方法も各宮で対応しておくのだ。誰が犠牲になっても、その王の責任ぞ。我らももしかして、己の結界内に籠城して守るしかなくなるやもしれぬのだ。主らを守ってやることが出来ぬやもしれぬと肝に銘じよ。」

滅多に話さない維心が、長々と話すのに下位の宮の王達は震え上がった。今まで、対岸の火事と眺めているだけで良かったことが、本土へと敵になだれ込まれたら、各々の宮は各々で守るしかないという事なのだ。

つまりは、絶対に上陸を阻止せねばならないという事になる。

皆の顔がいつになく真剣になったのを見て、維心は炎嘉を見た。炎嘉は、頷いて口を開いた。

「では、後は我らが。主も己が世話をされておる上位の宮の王に、後程己の役割を聞くようにせよ。誠、今この瞬間にでもドラゴンが来るのではないかと我ら気が気でないのだ。主らが安穏と暮らせるのは、維心が今までがっつりこの土地を治めて守っていたからぞ。今はその維心でも、一人では手が回らぬ事態になってしもうておる。分かったのなら良いが、もっと危機感を持て。では、主らは帰って臣下にこのことをしっかりと話し、対策を取っておけ。以上ぞ。」

言われて、下位の宮々の王達は、急いでそこを飛び出すように出て行った。全く何もしていなかったとしたら、早く宮へ帰って何とかしなければと慌てるだろう。

維心は、息をついた。

「前も申したのに。あれらはいつも、我が何とかするだろうとまだ思うておったということであるな。」

炎嘉が、フンと鼻を鳴らす。

「よう懐いてかわいいもんだが、こんな時ぐらい力になってもらわねばの。」

炎嘉は世話好きなので、いつなり皆の世話をしているので、そう感じるのだろう。

そうやって皆が退出した後、残ったのは炎嘉、焔、駿、志心、箔炎、蒼、翠明、高晶、公明の十人だった。

いずれも軍神を多く抱える力のある宮で、上から二番目までの同じ序列の中でも、先頭切って戦わねばならない役目を担う宮の王達だった。

それに匡儀とミハイルも加わり、総勢十二人で向き合って顔を合わせた。

ミハイルが、言った。

「我が同族を我が押さえきれずにこのようなことになってしもうたこと、責任を感じておりまする。我がもっと根回しをしておったなら、王座をヴィランなどに奪われる事などなく、こんなことにもならなんだと悔やまれまする。」

炎嘉が、ミハイルを気遣うように言った。

「主が悪いのではない。とはいえ、主の味方はおらなんだのか。少しでもあちらの事を知れたら、それだけ優位に立つ事が出来ようし。嫌々従っておる軍神とて居るのでは。」

ミハイルは、眉を寄せて視線を落とした。

「は…。確かに居り申したが、今は筆頭ではないだろうし、どこまで内情を知っておることか。あの頃、父の筆頭軍神であったザハールという者は、我が逃れる時に守って共に逃げようと言うてくれた。だが、あの中でそれは無理な話だとあれには残れと申しました。必ず帰って参るからと。あれはヴィランより腕はたつし、気も大きかったが、欲がなく王座に興味もないようで…今頃は、戦力になるゆえ残されておるだろうが、難しい立場に居るのではないかと。」

筆頭に座っていたドラゴンか。

炎嘉が、希望を持ったようにミハイルを見つめた。

「力があるドラゴンであるなら必ず、ヴィランが隠しておっても己で調べて知っておろう。それに連絡がつけば良いのだが…接触すること自体が難しい状況よな。」

蒼が、気が進まないようだったが、言った。

「十六夜に頼むしかないかもしれませんね。」皆が蒼を見る。蒼は、肩をすくめた。「とはいえ、月を使うのは反則なんですけど。十六夜はその、ザハールという神を知りませんから、探すのが難しいんですが、見つけさえしたら、こちらへ連れて来る事も、話をすることも出来ます。その気になれば囁き声だって聞き取れるんですから。ただ、連れて来たり、送ったりすると、そこへ光が収束するんで可視出来て気取られるので、緊急時ぐらいしか出入りさせるのはお勧めしませんが。」

焔が、ブスッとして言った。

「反則とは何ぞ。あちらだって己の領地以外をガンガン攻めおって、そっちの方が反則ぞ。まして北西の大陸など関係なかったであろうに、この島を落としたいばかりにあちらから先に手をつけて来たのだろうが。使えるものは何でも使ったら良いのだ!十六夜に頼めるなら探してもらったら良いではないか。その、ザハールという軍神の特徴は?」

ミハイルは、戸惑いながらも、答えた。

「これといって特徴は無いのだが…薄っすらと赤いようなグレーの髪、赤み掛かった金色の瞳で、歳は300ほど。がたいは良い方で、目つきは他より鋭い。そう言って月があの中からザハールを見つけ出せるのかと言われたら、難しいような…。」

焔と炎嘉は、顔を見合わせる。

確かに、そんな特徴だけを伝えて十六夜がそれらしい者に、お前がザハールかとか話しかけて回ったら、違った時にそれがヴィランに近しい軍神だったりした時、ザハール本人が危なくなる。

炎嘉は、腕を組んで息をついた。

「…ならぬな。その男には、ミハイルがあちらへ帰った後に仕えてもらわねばならないし、危険なめに合わせるわけには行かぬわ。困ったの…ではどうしたものか。とりあえず、十六夜にはこのことだけを伝えておいて、もし万が一ザハールが月に話しかけるようなことがあれば、答えるようにしておこう。」

蒼は、苦笑して頷く。炎嘉は、それを見てから続けた。

「で、内偵を望めぬとなれば次の手ぞ。維心、こちらは防戦一方か?匡儀も宮を取られた今、ヴィランも居るし北西の白龍の宮を取り返すために討って出るのも良いのでは?」

維心は、じっと考えていたが、頷いた。

「我もそう考えておった。あちらを戦場にはしたくないと匡儀が申しておったから、出来たら攻め込みたくはなかったのだが、このままでは海を渡って来よう。ただ、あちらも守りが緩くなっておる。」

志心が、それに頷く。

「本丸のドラゴン城か。」

維心は、志心に頷き掛けた。

「北には今、ドラゴンは一万五千。南東へ攻め入った一万が帰り、残っていた五千と合流してそれぐらいしか居らぬ。サイラスが仕事をしてさえくれておったら、あちらは亮維に行かせたら恐らく落とせる。維明もついでに連れて行かせて、任せて良いかと考えておるのだ。」

焔が、顔をしかめた。

「亮維というのは、前世の主の末の皇子であったか。力はあるのか。他の皇子は?」

維心は、答えた。

「亮維は最後には将維より力を持っておった。あれは己の土地から離れず、この土地の気を補充して体を完璧に整えておったからの。今でもそうよ。明維、晃維、維明、維斗より、亮維が今では我に一番近い。全盛期の将維ぐらいだと思うてくれたら良いわ。とはいえ、焔は知らぬだろうがな。」

炎嘉は、頷いて焔を見た。

「亮維と対面したら分かるわ。あれは前世のこれにそっくりよ。歳を経ておるから重みも増しておってな。」と、維心を振り返った。「ということは、主は北西へ渡るか。」

維心は、息をついて頷く。

「それしかあるまいな。我と匡儀で掛かるしか、中央の匡儀の宮を取り返すことは叶わぬだろう。とはいえ、四方から敵が来るとは厄介な。あの土地には、そんな神しか居らぬのか、匡儀。」

じっと黙って聞いていた匡儀は、維心を見た。

そして、首を振った。

「…居る。というか、居ったのだが…。」

炎嘉が、眉を上げた。

「居ったのだが?」

匡儀は、少し気落ちしたような顔をしたが、顔を上げた。

「長く会っておらぬ。あれらは、もう何百年も前に籠ってしもうたからの。」

焔が、息を飲む。

あちらの土地にも、宮を閉じている神が居るのだ。

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