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新しい世

神世は今のところ、表面上は穏やかだった。

あれから約150年、箔炎もやっと成人し、炎月もあともう少しで成人、あの頃まだ子供だった者達が、軒並み立派に成人近くまで育っていた。

上位の王達も、それなりの歳にはなっていたが、やはり気が極端に大きいので、誰も老いてはおらず、共に300を超えた辺りでピタリと老いが停まり、そのままの姿で生きていた。

もちろんのこと、蒼も維月も十六夜も、月の命は歳を取らないので、姿は全く変わらなかった。

あの頃はまだ若いと思えた姿だった駿も、今では皆と同じような見た目になり、どうも最近、老いが停まった様子だ。

子は、桜の後に皇子の(りゅう)が居た。騮も今や大きく育ち、成人にはまだあるが、それなりの歳になって宮でも頼りになりつつある。

次世代の神が次々に世に出て活躍する、そんな世になっていた。


龍の宮では、維心がいつものように政務から帰って来た。

今日は、午後から軍務の方の会合もある。最近の序列の移動を、維心に見てもらいたいとの事だった。

義心が死んでからというもの、筆頭軍神は帝羽、次席新月、三位明輪、四位慎也、五位義蓮という並びになっていたのだが、ここのところ後進が育って来て序列も見えなくなって来ていた。

慎也には慎司(しんじ)という息子が居て、それが育って来ていたのだが、その慎司と、明輪の息子である明蓮が大変に腕を上げていて、そして何より、義蓮の息子が父の義蓮を越えるほどの腕前とのことで、最近では序列がよく分からなくなっているらしいのだ。

義蓮の息子は、350歳の義将と、150歳の義心の二人だった。義蓮が下の息子を義心と名付けたのは、父の義心を亡くして沈んでいる時に生まれた息子だったので、父のように育って欲しいと望んだからだと聞いている。

回りは、義心と付けるなど本人が育って後にそれは重いだろうと案じたが、本人はそんなことは知らずに普通に育ったのだそうだ。

軍神家系は皆そうなのだが、父に教わりながら、幼い頃から軍神の真似事をしながら過ごす。なので、100になる前にはもう、軍務についている事が多かった。なので、150歳の義心が、もう序列争いに紛れ込んでいると聞いても、維心は驚かなかった。

「おかえりなさいませ。」

維月が、居間へと帰って来た維心に頭を下げた。維心は、頷いて表情を緩めると手を差し伸べた。

「今帰った。」と、維月の手を握りながら、息をついた。「がしかし、すぐに出て参らねばならぬわ。本日は序列の移動をと、帝羽が我に申請して参った。我もそれを見に参らねばならぬのよ。軍神達の総当たりであるが、今朝からもう、下位の者達は終わっておるはず。我は、上位の者達の立ち合いを見に参るのだ。」

維月は、明るい顔をした。

「まあ。私も見に参りたいですわ。最近は訓練場にも立っておらぬで引き籠っておりましたから。維心様がいらっしゃるのなら、ご一緒にお連れ頂けますか?」

維心は、頷いた。最近は、維月もあまり奥から出ることもなく、この150年は月の宮へ里帰りするぐらいで、自分から外へ出るとは言わなかったのだ。

やはり、維月も義心がああやって死んだことを、思い悩んでいたのだろう。維心も、蒼からもしかして義心は、維心と維月が一緒で、だからこそその傍でまた生きたいと思ったのではないかと聞いて、納得していたからだ。義心は、自分と維月が二人で庭を歩いていても、維月が笑っていると幸福そうにそれを眺めていたものだった。維心に仕えて支えていたのも、維心が維月の幸福を守る存在だと信じていたからで、そうして維月を守る維心を助けて確かに世を安定させて治めて欲しいと願っていたと。

そう考えると、確かにすっきりした。維心は、義心が自分を盲目的に崇めて仕えていたのではなく、実は最後まで、あの、また維心に仕えたいと言った時すら、その言葉の裏には維月の側でその幸福を守りたいという、愛情があったのだと悟ったからだ。

そうすると自分は楽になったが、維月は逆にドスンと暗くなった。もう死していく時すら、言葉すら掛けられずに黙って去るしかなかったのかという想いが、維月の心に重くのしかかっていたのだ。

そうして、普段の生活は変わらないのだが、あまり外へ出なくなっていた維月だったので、維心は行きたい、と言ってくれて、ホッとしたのだ。

「ならば、薄布を。姿が丸見えでは、軍神達も目のやり場に困ろうからの。本来王の妃をしっかり見ることなどないのだしな。」

維月は、微笑んで頷いた。

「はい。準備致します。少しお待ちくださいませ。」

維月は、侍女達に準備をしてもらうためにそこを出て行った。

維心は、やっと維月も元気になって来たか、と、安堵していた。


普通はそんな場所に妃を連れて行く事など無いのだが、しかし維心が連れて来たのだから誰も文句など言えない。

急いで維月の席を設えて、もう総当たりの立ち合いの終わった軍神達が観覧席にひしめく中、維心と維月は、高い位置にある貴賓席に座って見ていた。

決めねばならないのは、上位の10人だった。

残っているのは、帝羽、新月、明輪、明蓮、慎也、慎司、義蓮、義将、義心、清也の10人で、その内の五人は、まさに新しい世代の、親子同士の対決になる予定だった。

「まあ…。」維月は言った。「この名簿にある名を見たら、親子で対決することになるのですわね。総当たりということは、全てと戦う訳でしょう。兄弟でも戦う事になりそうですわ。誠に、見ごたえがありそうですこと。」

維心は、頷いた。

「新世代がそれは優秀なのだと帝羽も言うておったのだ。確かに見ごたえがある試合になろうと思うぞ。明蓮は最近、明輪に勝つのだそうな。歳のせいもあろうが、それでもあの若さで父を超えるとは大したものぞ。」

維月は、フフと笑った。

「瑠維の子ですし、我らの孫でありますもの。あの子はとても賢い子ですし、先が楽しみですこと。」

そんなことを話しながら、二人が座っているその貴賓席の前に並んで、全員が膝をついた。維心は、立ち上がって言った。

「表を上げよ。」皆が、上を見上げる。維心は続けた。「我が宮我の手足となって戦う主らの順を決める戦いぞ。勝敗も見るが、しかし我はその技術の巧みさを見る。つまりは、主らが戦う全ての試合の動きを見て決めるということぞ。勝敗よりも、内容を見ておると思うてよう考えて立ち合うが良い。楽しみにしておるぞ。」

全員が、頭を下げた。

「はは!」

帝羽が、刀を上げた。

「では、初戦は我と慎也ぞ。他の者は後ろへ。」

そう言っている中で、何やら義将が気遣わし気に義心を見て、その背に手を置いている。義蓮が、気付いて問うた。

「何ぞ。早う後ろへ。試合が始まるのに王の御前でもたもたするでない。」

義将が、義蓮を見て案じるように首を振った。

「父上、義心がめまいを起こして。初めて王、王妃にお目通りしたので緊張したようでありまする。」

義蓮は、急いで義心を支えた。

「大丈夫か?王の気の圧力に酔ったのかの。最初にお会いしたらようこうなるのだ。とりあえず、こちらへ。すぐに慣れて楽になるゆえ。」

義将は、頷いて義心を義蓮と共に支えて脇へと寄る。

それを見ていた、維月が心配そうに言った。

「まあ…あれは、義心でありますか?義蓮と義将に連れられて脇へと参りましたわ。具合が悪いのかしら。」

維心が、それを目で追って苦笑した。

「若い軍神にはようあることぞ。我の気を初めて正面から受けたら具合の悪くなる者が居るのだ。すぐに慣れるゆえ、立ち合いには影響はあるまい。」

維心はそういうが、維月は心配だった。顔がよく見えなかったが、しかし青かった気がする。よほど維心の気が堪えたのだろう。

兄と父に気遣われて訓練場の隅へと座る義心に、維月は気がかりでならなかった。義心の孫なのだ…同じ名を与えられた、間違いのない義心の血筋。

維月が義心を気遣っているのは分かったが、しかしどの神も通る道だった。大抵、維心の気を初めてまともに浴びたら倒れるか、倒れなくてもショックを受ける神が多い。なので維心は、神世の神をバタバタとなぎ倒すつもりもなかったので、大概は気を抑え込んで外出していた。今も、いくらかは押えているが、己の宮の中なので、少しは緩いかもしれない。それでも、慣れてもらわねば仕える王に会う度に倒れていては任務にも付けない。

なので、それをむしろ微笑ましく見守っていた。

そんな中で、皆の立ち合いは始まった。

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