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始まりは最悪の日①

架純かすみ亮二りょうじが入ってきた時には、茫然とくずおれていた。


白いブラウスは上から2つ目のボタンが取れてはだけていて、白っぽいブラジャーがその合間から見えたかと思うと、ふっくらとした胸の谷間がチラッと見えた。


架純は亮二の存在に気づくと、胸があらわにならないように右手で隠し、乱れた衣服を整えながら、取り繕うように微笑んで見せたが、亮二の眼をほとんど見なかった。


「ごめんね。なんか恥ずかしい所を見られちゃった。彼、怒ると見境がつかなくなるところがあって。あ、でも本当はいい人なの。あ、そうだ、今お茶入れるね。飲むでしょ? 待ってて、すぐ入れるから」


架純はやはり亮二の方に顔を向けはしたがしっかりとは見ずにキッチンの方へと向かい、やかんにやけに水道の蛇口を強く捻ってたくさんの水を出しながら注いだ。


はだけたブラウスの部分を左手で掴み、その手をぐっと胸に当てながら、自分に起きたことの整理がつかず、大きな音でかき消したかった。手が震えるのを止められず、それを抑えようと動作に余計な力が入ってしまう。


茶碗やきゅうすを戸棚からせかせかとガチャガチャと出してきて、キッチンの窓の方を見たかと思うと少しうつむき、呼吸が乱れているのを肩を少しだけ上下させながら整えているように見えた。時々肩が震えていた。手で涙を亮二に何とかそう見えぬように拭おうとしている。


「ああ、そうだ亮二君、前に借りたDVDなんだけどさ。あれ感動した。あんな風な関係、いいなって思った。うらやましいくらいに。世の中のカップルは、いろんな形でああいう風に思い合って、大切にし合っているかって。あら? なんかこんなこと言ったらまるで私と彼がそうなっていないみたいかな。でもそんなはことないよ。私は彼のことを」


架純が唐突に鼻声で何とか明るく間をつなごうとまくし立てていたその時、ふと後ろから抱きしめられる感触を覚えた。


「・・・え? ・・・ちょっと・・・何やってんの? 亮二君? 何で私のこと抱きしめてんの? 私には上手くいってるラブラブの彼が・・・」


消え入りそうな涙まじりの声でその続きを架純が言おうとした所で、亮二に両肩を優しくもたれ、くるっと後ろに振り向かされた。


架純の眼からは今にも涙がこぼれそうになっていた。涙が伝った跡を頬につけていた。そのままゆっくりと少しだけ上に視線をあげ亮二の眼をじっと見つめたかと思うと、涙が頬をつたい、すぐにうつむき視線をそらした。


「ふふ。冗談ばっかり。でもこういう冗談はだめだよ。女の子に失礼だよ」


そう言っても亮二が何も言わずに黙っているので架純は涙を拭いながら、様子を窺うように亮二の眼を見つめた。


亮二は架純にそっとキスした。


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