魔族
ゴブリンソルジャーをなんとか倒すことができた私たちは、洞窟の奥に向かい歩いていく。すると、今まで私たちがいたのと同じぐらいの広場に到着した。その広場では既に戦闘が終了していたようで、いたるところにゴブリンの死体が散乱していた。その中に、一際大きなゴブリンがいたのでこいつが、ゴブリンソルジャーだったのだろう。
「ここでアッシュさんが戦ってたんだろうね」
「そうだねさすがに私たちとランクが違うね。私たちより早くに倒せてる」
「そうだね、でも仕方ないよ。実際私たちの実力がギリギリ端に引っかかる程度なんだし」
「だね。熟練の人たちは違うよね。さて、このあとどこに行けばいいんだろう」
しずくがそういったのには意味があり、この広間にはさっきまでのところと同じようにいくつもの脇道が有り、どれが最奥に続くかがわからない状態だった。
そんな時はしずくがいつも先頭に立って先導してくれる。今回もそうだ。
「よし、何も考えずにまっすぐ行こう」
「まぁ、方向も分からないしいいかな」
「そうだね、しずく先頭お願いね」
「あいあいさ~」
しずくが敬礼してから警戒しながら正面の道を進んでいく。そのあとを私、ミラの順番で一列に並び進んでいく。真ん中が私なのは近距離戦が苦手なのが主な理由。そのまま奥まで進んでいくと、少しづつすえた臭いがしてきた。それを嗅ぎ取ったミラが神妙な顔で私たちに忠告を飛ばしてくる。
「くるみ、しずく。少し心の準備が必要だと思う」
「なんだろう、食べ物が腐ったような匂いが」
私たちは、空いている手で口と鼻を抑えて道を進んでいく。すると、そこには広い空間があった。そこには台がありあたり一面赤黒くなっている。
さらに、地面には臓物が落ちている。散乱した臓物の中には、何かに踏み潰されたのか一部が潰れているものも散見される。この光景を見た私としずくは、口元に手を当て今まで来た道の方を向いてうずくまることになった。
だけど、ここに来るまでと変わらずゴブリンがこの部屋にもいるので、いつまでもこうしているわけにもいかないが、この部屋の状況は想像以上にひどい有様だった。そのせいで、直視できない私たち姉妹の代わりに、ミラが矢でゴブリンを射殺していく。
ある程度落ち着いたので、再度気合を入れてこの部屋と向き合う決心をして部屋の中に再度足を踏み入れる。隣を見てみるとしずくも同じように決心したのか私の手を握りながら隣に立ってくれていた。
「この部屋とってもひどいね」
「魔物の巣はこういうのはたまにあるけど明らかに解体したような臓物はちょっとおかしい」
「そうなの?」
「うん、魔物は基本本能に従って食い散らかすから、臓物は散乱するけどここまで綺麗じゃない」
「ということは、人がいて解体してたとかなのかな」
「それか、最近までここは人が利用していたかだね」
確かにここら辺に散らばっている臓物は、ところどころ潰されてはいるけど、食い散らかされたような状況ではない。私とミラで考察していたけど、あくまでそれらしいものしか出てくることがなかった。
一方しずくは顔を青くしながら私の腕にしがみついている。しずくはミントさんの解体小屋の件で堪えているのかこういう部屋をしずくは苦手としている。
「さらに奥あるから行ってみよう」
「あんまりいい予感しないけど人がいるかもしれないってわかったから行くしかないよね」
私は渋々了承し、ミラを先頭にしさらに洞窟の奥へと足をすすめることにした。
そのまま進んでいくと奥からうめき声のようなものが聞こえてきた。それを聞いた私たちは、歩く速度を上げ奥へと向かっていく。
「う・・うぅ・・」
「ふん、こんなものか」
声の主のもとにたどり着くとそこには、この前の部屋以上に生産な場所だった。
壁からせり出た石に胸だったところを貫かれ、首と両腕両足を切り落とされており、腹から胸までを裂かれ臓物を取り出されていた。
そんな状況の死体が4体。大雑把に言えば同じだが、死体によっては腹を切り取られているものもある。
そんな中、まだ生き残っていた一人の男性の状況は他の死体と同じように両手足を落とされ片肺に剣が刺さっていた。その剣の取っ手の方に目を向けてみると、そこには明らかに人じゃない人物がいる。
「何だ、お前らは」
見た目は12歳ぐらいの赤髪の少女がこちらに向かって話しかけてくる。赤髪の少女は背中からコウモリの翼をはやしており、尾てい骨のあたりから黒い悪魔の様な尻尾が生えていた。頭には山羊のような巻角が生えている。体の方に目を向けてみると、黒い甲殻のようなものが胸と腰、脇腹といった要所を覆っているだけだ。
「魔族!!」
「ほう、お前は気づいたか」
「そんなわかりやすい見た目でわからない方がおかしい」
「まぁ、言われてみればそうだな。それでどうする気だ」
悪魔の少女は、自分の姿を見て納得という表情をしてからどうするのかを聞いてきた。それに対しミラは、弓に番え引き絞ることによりその問の答えとした。
「そうか、なら死ぬといい」
「そう簡単にはいかない」
ミラは番えた矢を射ったが、手刀によって叩き落とされた。その後、ミラとの距離を一瞬で詰め貫手でミラの心臓を貫こうとしている。相手の狙いに気づいたミラは、なんとか体を横にづらすことにより胸に直撃することは防げたが肩を穿たれてしまう。
あまりの痛みによりミラは叫び声を上げることなく気絶してしまった。魔族の少女は、手を抜き私としずくに向き直った。そのまましずくと向き合うと、距離を詰め右側から手刀を繰り出す。しずくは、手刀を刀で受けようとしたが、即座に受けから逃げに切り替えて影の中に回避し私の隣に出てくる。
一件躱したように見えたが、しずくの腕から血が出ていたので躱しきることができなかったようだ。
「ほう、闇属性の適正持ちかおもしろ。いいものを見せてやる。生き残れたらだけどな【イービルランス】」
魔族の少女の目の前に、黒い槍が生成され私たちに向け飛んで来た。その槍を捉えることができたしずくは、私の手を引っ張り槍の直線上から移動したことにより槍を回避したと思われた。
だが、槍がその場で急停止し、一度丸い球体になった後に、再度私たちの方に矛先が向き再度飛んでくる。
「追尾なんて聞いてない」
しずくは、文句を言いつつも私をお姫様抱っこしながら槍を躱し続けているが、次第に疲れが見え始めた。なので私は今の残っている魔力を全てを守りに使うことにした。
「ラビィ、壁を願い。【セイントシールド】」
「きゅい、【きゅきゅっ】」
私は、セイントシールドを極限まで魔力を注ぎ発動した。ラビィも私のお願いを聞いてくれたようで、槍と私たちの間に一際分厚い土壁を作ってくれる。
「きゅ~・・・」
「しずく、ごめん・・・」
----------しずく視点-----------
「しずく、ごめん・・・」
その一言とともにくーねぇの体から力が抜けた。ぼくは、慌ててくーねぇの口元に顔を近づけると呼吸がしっかりしていたので気を失っただけのようだ。そうやっていると、槍は壁をブチ抜き、くーねぇが作り出した光の盾を全て破壊したところで相殺され消えたのだった。
「へぇ、そこの娘とうさぎちゃん二人がかりあれを止めたんだ。いい腕だ」
「くーねぇは、ぼくが守るから」
ぼくは、くーねぇを地面に下ろしお腹の上にラビィを乗せ魔族の少女と向き合う。
腰に差した刀を抜き少女に刃を向けた。それを確認した少女はぼくとの距離を詰めてくる。手刀を刀で受けるわけにもいかないのでぼくは、回避に重点を置き時々刀で反撃をすることしかできていない。
「まだまだだな」
そう告げた魔族の少女は懐に潜り込み手刀から掌底に切り替え放ってきた。それにぼくは対応することができず躱すことができなかった。
「こふっ!」
ぼくは口から血を吐き体から力が抜けているのを自覚した。
(このままだと、くーねぇが・・・)
そう思っているが体が一向にいうことを効かず視界が真っ暗になった。




