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最終話:バラの香りの魔法使い

 俺たちはキングゴブリン軍団からリリアナ姫を救出したので、ナロード王国政府から表彰されることになった。

 同時に、指名手配も取り下げ。

 但し、ディックについては裏切り者ということで表彰は無し。


 リリアナ姫は体調不良で入院している。

 頭の怪我はたいしたことないが、ゲニタルの生首を見せられた精神的ショックが大きかったらしい。

 俺がゲニタルを助けようと焦っていたのが原因だけど、リリアナ姫には申し訳ないことをしてしまった。

 リリアナ姫を怪我させたんで、報奨金については取り下げになるかと思ったら、お姫様本人のとりなしで何とか貰えることになった。

 ちなみに、さすがに首を切断されたら神聖魔法でも助けることは出来ないらしい。


 表彰されることになったのは、他にも首都に向けて進撃して来たカクヨーム王国軍別働隊を撃退したり、キングゴブリン軍団を殲滅したりと、ナロード王国のために大活躍したことになっているのが理由らしい。

 もちろん、ナロード王国軍特別追跡部隊まで爆死させたことは秘密にしているが。

 あれは火薬倉庫が失火で爆発した事故になっているみたいだが、どうも俺たちのことを疑っている人もいるらしい。

 まあ、報奨金を受け取ったらナロード王国からトンズラするつもりだ。

 

 俺は表彰式の前に、ゲニタルの墓を建てることにした。

 海の近くの断崖絶壁に墓石を建てる。

 代金は、例のキングゴブリンの息子がはめてた宝石が付いている腕輪を売った金で賄った。

 長方形の墓石に名前を刻んで建ててやった。


「何でこんな断崖絶壁に建てるの」とオティーリエに聞かれた。

「ゲニタル本人が望んでたんだよ。海が見える場所がいいって。海を見たことが無いって言ってたよ」

「あなた、優しいのね。わざわざお墓を建ててやるなんて」

「勲章を貰ったら、ゲニタルの墓に供えてやろうと思ってさ」

「勲章なんてあたしはいらないわ、ところで報奨金は明日もらえるの?」 

「ああ、王国政府の事務室で報奨金を貰う予定だ。お前は来ないのか」

「そんなところ行かないわ。それより、お金を持ち逃げしたら地の果てまで追いかけて、拷問して殺してやるから」とオティーリエが相変わらずの真っ黒なボンデージファッション姿で俺を睨む。

「ちゃんと約束は守るよ。ところで、体調はどうだ」と俺が聞くと、

「もう全然、大丈夫」とオティーリエは微笑んだ。


 王国の事務室で担当者から素っ気なく、勲章と懸賞金をもらう。

 本来の冒険者物語だったら国王やお姫様の祝福を受けながら、万雷の拍手の中、勲章を首にかけてもらうところなんだがなあ。

 王族は入院中のリリアナ姫の方が心配らしいので、そっちへ見舞いに行ってるらしい。

 一億エンは大金なので鞄にいれるとけっこう重い。

 

 ゲニタルの墓がある断崖に金の入った鞄を持って登って行く。

 報奨金を山分けするとオティーリエとは約束してある。

 しかし、俺は不安な気分だ。

 ディックが言っていたことが気になっている。

 オティーリエは俺を殺して一億エンを独り占めにするつもりではないだろうか。

 俺の利き腕である右腕はまだ治っていない。

 体調も悪い。

 しかし、逃げたところで追いかけて来るだろう。


 ん? 何だかバラの香りがしてきたぞ。

 ゲニタルの墓の前に白いドレスの女が立っている。

 ノースリーブ白色の膝丈ワンピースを着て、脚は白い網タイツ、白いピンヒールを履いている。

 頭には白いヘアバンド。

 胸には赤いバラの花。

 スタイル抜群の絶世の美女がいる。

 オティーリエだ。

 顔もバッチリメイクしてる。

「なんだ、今日はボンデージファッションじゃないのか」と声をかけた。

 オティーリエが振り向いて俺の顔を見ると、

「ちゃんと報奨金は貰えたの」とオティーリエが聞く。

「ああ、貰えたよ。お前の分の勲章も貰ったぞ、いるか?」

「そんなものいらないわ、それよりあなたに言いたいことがあるの」

「お金を全部くれとか言うんじゃないだろうな」と俺が警戒していると、

 オティーリエが何か挙動不審な様子だ。

 なかなかしゃべろうとしない。


「何だよ、はっきりしろよ」

「……えーと、あの、その、前からあなたのことが好きだったの」

 好きねえ。

 まあ、俺を油断させる気なんだろうが、もっと他にいい罠を考えつかなかったのかね。

 しらけるし、恥ずかしいぞ。

「ふーん。それにしては、散々、俺の事をドチビとかバカにしてたじゃん」と言いながら俺は左手で後ろのポケットにあるナイフを準備する。

「それは好きだからあなたを虐めたのよ」

「へ~そうだったのか。けど、お前の俺に対する態度は虐めると言うより、単に相手にしてなかっただけの方が多かったような気がしたけどな。ゲニタルの方がよっぽど愛されていたんじゃないのか。散々、鞭で叩かれて虐められてたじゃないか」

「そんな、あなたをナイフで刺し殺して一億エンを奪う気なんてないわよ」とオティーリエが心外といったような表情を見せる。

 演技としか思えないな。


「ほー、自白したようなもんだなあ」

「違うって言ってるでしょ!」とオティーリエが大声を上げる。

「まあ、大人になろう。この報奨金は山分けにしようぜ。一人当たり五千万エンだ」と俺が言うと、

「……ねえ、一億エンにしてよ」とオティーリエが言った。

 やっぱり、この女、一億を独り占めにする気か!

 俺は逃げるふりをして、ゲニタルの墓石に上り、そこから飛び上がって、オティーリエの頭を飛び越して背後に降り立つ。

 オティーリエの白いドレスが、大きく引き裂かれドレスがずり落ちる。

 やはり、左腕じゃだめだ。

 頸動脈を狙ったが全く外れた。

 ナイフはドレスを掠っただけで、オティーリエは全然平気だ。


「何すんのよ! このドレス高いのよ! せっかくおしゃれしてきたのに」 

 あっさりと左手で持っていたナイフを足で蹴り飛ばされ、オティーリエに組みつかれてしまう。

 俺は利き腕が使えないし、体もまだ回復していない。

 この女には勝てないだろう。

 オティーリエは地面に横たわった俺に跨った体位を取っている。

「言いたいことがある」と観念した俺はオティーリエに言った。


「なに、なに、言いたいことって」となぜか嬉しそうなオティーリエ。

「殺すなら楽に殺してくれ」

 目をえぐられたり鞭で散々叩かれたりとか拷問されながら殺されるのは嫌だ。

「はあ? 何で殺さなきゃいけないの」

「そのつもりじゃなかったのか」と俺は戸惑った。

「もし殺す気なら、ファイアーボールでとっくの昔にあなたを焼き殺してたわ」

「……言われてみたらそうだな。じゃあ、どういうことだ」

「だから、さっきから好きだって言ってるじゃないの」

 うーん、どうなんだろう。


「子供の頃、ディックの眼球を果物ナイフでくり抜こうとしたんじゃなかったのか」

「そんな恐ろしいことするわけないじゃない!」

「じゃあ、ディックのあの顔の傷はなんだよ」

「ディックが毎晩あたしをナイフで脅してイタズラしてたの。ディックの変態行為に我慢できなくなって、ナイフを取り上げて反撃したのよ」

 うーむ、ディックはどこまで真実で、どこまで嘘をついていたのか、俺はよくわからなくなってきた。


「そんなディックと何で行動を共にしてたんだよ」

「……ホントはあたし、一人で生きて行くのが出来ないの、怖いの、自信がないの。だから、その、ねえ、一緒にいてよ」とオティーリエは何となく甘えた声を出す。

 確かディックは、オティーリエが自分と離れると殺すとか、兄の俺を利用したいだけだとか言ってたが。

 どっちが本当なんだ?


「平然と人の首を切断したりできる人がいいとか、あと、やる時はやれる男が好きだとか、理想のデートは好きな男と一緒に人を殺しまくりながらするのがいいとお前が言ってたとディックから聞いたんだが」

「人を殺しながらのデートって何のことよー! そんな女いるわけないじゃないの!」とオティーリエが呆れた表情をする。

 そう言われればそうかもしれん。


「何だか怪しげな夜の商売やってなかったか」

「お金が無かったからしょうがないじゃない。もうやらないわよ。人を鞭で叩くなんて嫌だもん」

 ホントかよ。


「そのわりには、やたらゲニタルを嬉しそうに鞭で叩いて追い回していたようだったが」

「凶暴な女を演じてただけ! あと子供の頃、よくディックが裸になって、茨の枝をあたしに渡して、叩くように命令したのよ。叩かなかったら、あたしを殺すって言うから仕方が無く叩いてた。それで、人を叩くのがうまくなったのよ」

 やれやれ、何がなんだかわからなくなってきた。


「ところで、あたしの方から聞いていい」

「ああ、何だ」

「あなたは男が好きなの」

「はあ、そんなわけないだろ」

「よかった! もう、こっちが何度誘ってみても全然反応がないから心配してたのよ! それとなく何度も誘ったのに。てっきり、女に興味ない同性愛者かと思った。あっ! 差別は良くないけどね」


「誘ってたって?」

「裸になっても全然反応しないじゃない」

「殺されるんじゃないかと思ってたよ。何かと言うと、殺戮! 虐殺! 大虐殺! キャッホー! とか叫んでいたじゃないかよ」

「あたしは強がって言ってただけよ。だって、そうしないとディックに何されるかわからないもん」

「ディックがいない場所でも叫んでいたような覚えがあるんだけど」

「何度も叫んでたら、口癖になっちゃったのよ」

「口癖どころか、ゲニタルを散々鞭で叩いていたじゃないか」

「だから、そういう怖い女を演じないとディックに襲われるじゃない。ディックが怖かったのよ」

 うーん、そのディックを散々殴りまくって顔面血まみれにしていたような気がするのだが。


「そうだとしても、ゲニタルを気絶するまで叩きまくるってのはやり過ぎじゃないのか」

「まあ、ゲニタルさんには悪いことしたなあと後悔してるけど」

 本当に後悔なんかしているのか、この女。


「それに、俺の事をドチビってバカにして嫌っていたんじゃないのか」

「背が低い男は嫌いとは一度も言ってないんだけど。それに靴を脱いだら同じくらいじゃない」

「俺のどこがいいんだよ」

「優しいとこ」

 はて、俺、オティーリエに優しくしたっけかな。


「さっき一億ほしいって言ってなかったか」

「……結婚すれば二人合わせて一億エンじゃない!」

「そういう意味だったのか」

「女からプロポーズさせないでよ! で、返事を聞いてないんだけど」

 とりあえず承諾しとかないと殺されるかもしれん。


「えーと、じゃあ、いいよ」

「ちょっと、そのやる気のない返事は何なのよ!」とオティーリエが俺の体の上でバウンドする。

「痛い!」と俺が思わず呻くと、

「あ、ごめんなさい」とオティーリエが言った。

 オティーリエが謝るのを聞いたのは初めてだ。

 だが、かえって気味が悪い。


 とりあえず体を放してもらおうと、

「じゃあ、オティーリエ、頼む、俺とぜひ結婚してくれ! さてと、まあ殺す気が無いなら、重いんでとりあえずのいてくれないか」と俺が言うと、

「ダメ」とニヤリと笑うオティーリエ。

「なんでだよ、やっぱり殺す気かよ」とビビる俺。

「だから殺すわけないじゃん。あたしはやる時はやれる男が好き」とオティーリエがニヤリと笑う。

 殺すときは殺せるって意味じゃなかったようだ。


「せっかくおしゃれして、綺麗なドレスで張り切って来たのに、このドレスを切ったのはあなたじゃない、ドレスが脱げて半裸状態じゃない、あなたがドレスを脱がしたのよ、あなたがやりたいって事でしょ!」

「おい、ゲニタルの墓の前だぞ。ゲニタルの霊が仰天するぞ」

「ゲニタルさんは変態だったから、かえって供養になるんじゃないの」

 不謹慎なことを言う女だと俺が思っていると、

「殺さないとは言ったけど、昇天させないとは言ってないわ」とオティーリエは俺に覆いかぶさってキスをした。


 俺とオティーリエは結婚して、隣のアルーファ王国に引っ越した。

 いつナロード王国軍の部隊を爆死させたのがばれるかわからんし、カクヨーム王国政府からかけられた懸賞金も今だ取り下げられていないようだ。

 オティーリエは夜尿症が治ったみたいだ。

 どうも兄のディックとの確執が精神に影響を与えていたみたい。

 俺たち二人は一億エンで静かに暮らすことにした。


 ある日、思い立って、冒険者時代のことを自費出版した。

 題名は『バラの香りの魔法使い』にした。

 ロマンチックな題名に関わらず、残酷な内容もあって評判は最悪だったが、多少、売れたのも表紙の絵や挿画が綺麗だったからのようだ。


 今のところ、結婚生活はうまくいっている。

 オティーリエは、真っ黒いボンデージファッションを着ることはしなくなった。

 ピンヒールも履かなくなった。

 本人に言わせるとディックに襲われないためにわざとそういう恰好をして、酷い言動をして牽制していたそうだ。

 酷い女をわざと演じていたとオティーリエは言うんだが。

 それにしては、殺戮を楽しんでいた雰囲気もあったんだけどなあ。


 今は清楚な白系のフェミニンな服をよく着ている。

 香水もあまり付けなくなった。

 すっかり言葉遣いも大人しくなり、性格も変わってしまったように見える。

 しおらしい態度に最初はビビったが、すぐに慣れた。

 ディックがオティーリエについて言っていたことは、どこまでが嘘でどこまでが本当なのか今だにわからない。


 意外にもオティーリエは料理が上手だった。

 たまに、後ろから忍び寄って、ニコニコと笑いながら包丁の先を俺の首に近づけるけど。

 え? 怖くないのかって?

 オティーリエは、今は猫をかぶっているだけかもしれないぞって?

 つまらない人生にスリルと興奮を、それは俺が冒険者になるとき求めていたことだって前に言ったはずだ。そういうことさ。

 

(終)

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