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第二話:宿屋にて

 結局、はぐれゴブリンのボスを退治することなく、俺たちは宿屋のある洞窟から東の方向のベスタ村へと帰ることになった。

 ディックとオティーリエ、ゲニタルは先に宿屋へ向かい、俺は村にある冒険者ギルドへ行くことにした。

 俺は、このナロード王国で活動している、低レベルな冒険者パーティに最近入ったメンバーだ。

 俺自身は隣国のカクヨーム王国出身なのだが、冒険者になるためナロード王国にやって来た。

 なぜ、冒険者になったのかと聞かれれば、つまらない人生にスリルと興奮を求めるためと答えよう。

 しかし、今のところしょぼい仕事ばっかりだ。

 はっきり言って、俺も低レベルの冒険者でいまいち実力が無いと思っている。

 ついでに背も低い。


 ベスタ村の中央広場の側にある冒険者ギルドに行って、門番ゴブリン一人を退治した件を報告した。

 報酬は五千エン。

 しょぼい金額だが、門番をしていたゴブリン一人を倒しただけじゃあ、この金額でも致し方無い。

「それで、ボスゴブリンの方はいつまでに退治するんだい?」とカウンターに立っている冒険者ギルドの主人カッツォールに問われた俺は、

「ちょっと待って下さい。もう少し計画を練り直しますから」と何とか誤魔化した。

 

 冒険者ギルドを出て宿屋に着き、俺たちの宿泊する部屋に行くと、オティーリエが騒いでいる。

「何で、あんたらと一緒の部屋で寝なきゃいけないのよ!」

「金が無いからだよ」とディックがなだめるが、

「ベッドが三台しかないじゃないの! 夜中にあたしを襲う気ね!」とますます騒ぐオティーリエ。

 お前を襲う奴はいないよ、半殺しにされたくないからねと俺は思った。

「あんた、廊下で寝なさいよ!」とオティーリエがゲニタルに無茶な命令をする。

「え、廊下ですか?」とゲニタルはオロオロするだけだ。

「わかったよ、衝立を借りてくるから。それでいいだろ」とディックが憂鬱な表情でオティーリエのわがままをうまくあしらう。

「仕方が無いわね」とオティーリエは偉そうな態度を取りやがる。

 何様のつもりだよ、この女は。

 俺とゲニタルが、宿屋の主人に無理を言って衝立を借りてきてやった。

 ベッドが足りない件は、

「僕、部屋の隅の長椅子で寝るよ」とゲニタルが言い出したので、オティーリエはようやく落ち着いた。


 部屋のテーブルで報酬を山分けする。

 一人当たり千二百五十エンだ。

「たった、こんだけ!」とまたオティーリエが騒ぎだした。

「しょうがないだろ、門番ゴブリンを倒しただけで帰ってきたんだから」と俺が言うと、

「ボスゴブリンを倒したってウソをつけばいいじゃない」とまたオティーリエがふざけたことを言う。

「そんなインチキしたら、冒険者ギルドは仕事をまわしてくれなくなっちまうよ」と俺はため息をついた。


 宿屋の一階にある食堂で夕食をとった後、部屋に戻るなり、

「今から着替えるから、覗いたらぶっ殺すよ!」とオティーリエが衝立に囲まれたベッドの上で大声で喚く。

 誰も見る気しないっての。

 確かに凄い美人でスタイル抜群だけど。

 以前、オティーリエが着替えているのを覗いた奴がいたそうだが、この女に半殺しの目に遭わされて、パーティから追放されたらしい。

 そんな目に誰も遭いたくねーよ!


 それにしても、このパーティだめじゃねーか。

 ディックはリーダー格で主人公的存在なのに、全然やる気が無い。

 ゲニタルは気が弱く自主性が無い。おまけにすぐに腹を壊して、用を足すため戦線を離脱する。

 オティーリエは性格が悪すぎるし、やたら暴力をふるいたがる。

 俺はいまいち自分の実力に自信が無い。

 このパーティから抜けたくて仕方が無いが、それはもう少し自分のレベルが上がってからにするつもりだ。オティーリエ以外とはうまくやってるからなと考えながら、俺はベッドに横たわった。


 真夜中、部屋のベッドで寝ているとゲニタルが悲鳴をあげた。

 何事かと起き上がったら、薄暗い部屋の中で黒いネグリジェ姿のオティーリエが、ゲニタルにまたがって上下運動をしている。

 よく見ると、もの凄い勢いでゲニタルの顔をぶん殴っている。

「おい、やめろよ!」と俺は思わずオティーリエの腕を押さえた。

「このデブが臭いオナラをしやがった!」とオティーリエは激怒している。

「それぐらいで、こんなに殴ることないだろ」と俺は呆れた。

 俺はぐっすりと寝ていたのでゲニタルが屁をこいたなんて気がつかなかったぞ。

 オティーリエに顔面をボコボコにされて、長椅子の上でゲニタルは虫の息だ。

「ちょっと、あんたいつまであたしの綺麗な腕掴んでるのよ、セクハラよ」

「お前がゲニタルを殴るのを止めただけだよ、何がセクハラだよ」

「あたしの体は好きな人にしかさわらせないの! あたしも好きな人にしかさわらないのよ! それから、あんたもいびきがうるさい! 今度いびきをかいたら口の中にナイフの柄を奥の奥まで突っ込んでやるから」とオティーリエに冷たい青い目で睨まれる。

 え、次は俺の番かよ。

 薄い生地の黒いネグリジェ姿のオティーリエは、下着が透けて見えてかなり色っぽいが、俺はなるべく目を向けないようにした。

 この自意識過剰女がどう因縁つけて、殴りかかってくるかわからない。

 本来、メンバー間のトラブルを止めるべきリーダーで、オティーリエの兄でもあるディックは寝ているか、もしくは寝たふりをしているようだ。

 だめだ、こりゃ。

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