第十九話:リリアナ姫救出
俺たちは、十階建てのキングゴブリン塔の入口の前に立つ。
ゴブリンたちはさっきの会堂崩壊で全滅したか、または逃げ出したのか、全く居ない。
噂で聞いたように、リリアナ姫は地下室に居てほしいと俺は願った。
もし一番高い階に居たら、一階ごとにモンスターが待ち構えていて、そいつらを倒しながら上っていく冒険小説のような事態になってしまう。
正直言って、もう俺の体はボロボロだ。
地下室に下りると人間が倒れていた。
よく見ると、ディックだ。
「おい、ディック、大丈夫か」と俺がディックの体を揺らして声をかけると、
「……こ、ここはどこだ」とディックはぼんやりとしている。
「さっき、キングゴブリン会堂の窓からゲニタルを放り投げて、その後、飛び降りて奇声を上げながら走っていくのを見たんだが、それからどうしてたんだ」
「うーん、全然覚えてない。ああ、何だか頭が痛い」とディックは頭を振る。
「あの薬のせいかなあ」と俺が言うと、
「何だよ、あの薬は。あんなの飲ませるなよ」とディックが笑った。
一応、元気なようなんで、ほっとした。
「ゲニタル、申し訳ない事をしたな」とディックがゲニタルに頭を下げて謝った。
ディックは、薬で一時的におかしくなってただけなのか。
地下室は回廊上になっていて、いくつか部屋があるようだ。
噂ではリリアナ姫は豪華な扉の部屋に居ると聞いている。
右から俺とオティーリエ、左からはディックとゲニタルに別れて、薄暗いランプが灯った回廊を進む。
壁がでこぼこして、骨で装飾された気味の悪い扉の部屋が続く。
角を左に曲がって、回廊の真ん中まで進むと、それまでとは違って草の蔦のような装飾の扉があった。
多分、この部屋だと思った俺は、
「おい、見つけたぞ」と叫ぶ。
すると、ディックの悲鳴が聞こえた。
「どうした」俺とオティーリエは急いで、もう一度角を曲がって駆けつけるとゲニタルの生首が転がっていた。
胴体は血だまりの中、すぐ近くに倒れている。
ディックは姿がない。
隠れていたゴブリンに殺されたか、それとも新たなモンスターがいたのか。
「ウッ!」と俺の後ろにいたオティーリエがうめき声をあげた。
体を剣が貫いている。
男が引き抜いた。
倒れたオティーリエの体から血が大量に流れている。
後ろにディックが立っていた。
「ディック、お前、また頭がおかしくなったのか!」と俺が驚いていると、
「気は狂ってないし、薬も飲んでない。酒は飲んでたけどな。あの医者はヤブだな。単に憂鬱だっただけなのに、病気にしやがった。けど、おかげで戦闘に参加しなくていいんで楽だったよ」
「どうしてこんなことをするんだよ」
「キングゴブリンは人間と同盟を組んだ自分の息子を殺すことにしたのさ。それも見せしめに人間に殺させると言ってさ。俺は秘密裏に依頼を受けたんだよ」
キングゴブリンがなんとなく嬉しそうな顔をしていたり、火薬を会堂に置きっぱなしにしたりといい加減な葬儀はそのためだったのか。
「キングゴブリンの息子は、偽情報を聞かされて秘密の洞窟でカクヨーム王国の使者を待っていたんだ。お前が気絶させただけって言った時は焦ったけど、そこで死んでいるいかれた女が殺してくれてよかったよ。あの時、すぐに帰ろうと言ったのはそのためだ。もう仕事は完了していたからな」
「な、何で俺たちには教えてくれなかったんだ」
「報酬を独り占めにするため決まってるだろ、ウヒヒ!」とディックは笑う。
「俺は金を持ってさようなら。後は村をゴブリンが襲って、キングゴブリンの息子を殺したお前らごと皆殺しにして終わりのはずだったんだ」とディックは剣を構える。
「じゃあ、何で俺たちに付いてきたんだ」
俺は袖に隠した投げナイフを準備した。
「報酬を貰いに行ったら待ち合わせ場所に来ないんだ。不安に思っていたら、その翌日、リリアナ姫が誘拐されたと冒険者ギルドで聞いて、ピンときた。キングゴブリンは実の息子を人間に殺させた事を絶対知られたくなかったんだろう。だから、わざとお姫様を誘拐して、息子の敵討ちをすると周りに思わせたんだ。俺は騙されていたんだよ。キングゴブリンは俺も殺して口封じする気に違いないと観念して、俺はどうでもよくなっていたんだ」
俺は投げナイフでディックを狙ったが、剣で簡単に弾かれる。
「死ね!」とディックが俺に剣を振るった。
さっとよけて、もう一本のナイフで首を狙うが、ディックが剣の柄で俺の顔面を殴る。
俺は右肩を壁に叩きつけられて、腕に激痛がはしった。
右腕が痺れている。
「ディック、冒険者としてのプライドはないのかよ」
「もう嫌になったのさ。所詮、俺は三流の冒険者だ。まあ、お前もそうだろ」
「……それはどういう意味だ」
なぜ急にそんなことをディックが言いだしたのかと、俺が訝し気に思っていると、
「洞窟で門番ゴブリン、と言うかキングゴブリンの息子を殺した時だが、帰る際に俺がお前にゴブリンから奪った腕輪でも売れよって言ったのを覚えてるか」
あの時、洞窟でそんなことをディックが俺に言ったのか。
「……覚えていない」
「お前を試してみたんだよ。優秀な奴なら、もしかして、俺の企みがバレるといけないからと思ってな。けどお前はそうじゃなかった。一人で先に洞窟の奥に行ったお前が腕輪を盗んだ事を、何で俺が知ってるんだよ。だいたい門番やっている下っ端のゴブリンが高価な宝石のついた腕輪しているのをおかしいとは思わなかったのか」
馬鹿にするような目で言うディックに俺はむかついたが、あの時はボスゴブリンを倒すので頭がいっぱいだった。
とは言え、気づかなかった俺もだらしないな。
「待ち合わせの目印で左腕に宝石の付いた腕輪をしていると聞いてたんだ。キングゴブリンの息子の死体に腕輪が無くなっているので、お前が盗んだんだなと俺は思ったわけさ。で、かまをかけてみたが、お前は全然反応無し。大した奴じゃないなと判断したよ」とディックは俺をせせら笑う。
「何で、俺たちパーティでキングゴブリンを倒すことを考えなかったんだ」と言いながら俺は後ろでナイフを左腕に持ち替える。
「この貧弱なメンバーでそんなこと全く不可能だと思ったからさ。もう終わりだと思ったんだ。それで、酒飲んで憂さをはらしていたんだよ。お前だって、カクヨーム王国に逃げるつもりだったじゃないか。まさかここまでお前らが頑張るとは思っていなかったよ。ありがとさん。あとは、お前らを全員殺してリリアナ姫を救出して一億エンの報奨金は独り占めさ」
「……そうはさせるか」と俺は強がるが、もう体はボロボロだ。
「まあ、俺が居なくても、結局、オティーリエがおまえらを殺して、報奨金は独り占めにしてただろうけどな」
「ディック、あんたがオティーリエについて俺に言ったことは全部ウソなのか」
「お前にオティーリエのことをどう言ったかほとんど忘れちまったよ」
ディックがまた俺に剣を振るった。
左腕でナイフを使って剣を受ける。
「そうそう、思い出した。オティーリエの両親のことだが放火して焼き殺したのは俺だよ。俺の親でもあるけどな。遺産狙いだったが、借金しかなかった。あのクソ親が!」とディックは剣を再び振るう。
ナイフを叩き落とされ、俺は回廊の壁に追い詰められた。
俺は観念した。
「あばよ! あの世で永遠に冒険者をやってろよ!」とディックが剣を振りかぶった。
シュッ!
ディックの首に投げナイフが刺さっている。
「死ね! 変態!」とオティーリエが叫んでいる。
オティーリエが投げたナイフだと気づいた。
ディックは、そのまま何も言わずに回廊の床に崩れ落ちた。
俺はオティーリエに近寄って、
「大丈夫か、しっかりしろ」と励ますが、
「もう、ダメみたい……」と気を失った。
どうしようかと思っていると、そうだ、リリアナ姫は神聖魔法を使えるクレリックだと思い出した。
回廊の角までオティーリエをひきずっていくが、腕が痺れてうまくいかない。
仕方なく、俺は走って、例の草の蔦のような装飾の扉の前に戻り、ちょっと時間がかかったが、扉の鍵を開ける。
扉を開くと、部屋の中も豪華だ。
豪華なテーブルにリリアナ姫らしき女性が座って、何やらお裁縫をやっている。
噂にたがわぬ凄い美人だ。
テーブルにはワインの瓶や果物などが置いてある。
リリアナ姫は丁重に扱われていたらしいな。
お姫様がこちらに気づいた。
「リリアナ姫!」と呼びかける。
「あら、どちら様ですか」とおっとりした感じのリリアナ姫。
本来なら、冒険者物語の王道路線のラストのように、姫に近づき、うやうやしく片膝をついて、
「姫様、ご無事でございましたか」とでもするんだろうが、今は時間が無い。
「治してほしい人がいるんです!」と無理矢理、リリアナ姫を抱きかかえて、オティーリエのとこまで連れていく。
俺の体はもうフラフラで倒れそうだが、何とか走っていく。
「あら、何事でしょうか?」とリリアナ姫が驚いている。
虫の息のオティーリエを見て、
「あらまあ、大変」とリリアナ姫はのんびりとした感じだ。
「早く、お願いします」と急かせる。
リリアナ姫が何やら呪文を唱えて、手をかざすと神聖魔法でオティーリエの傷が治っていく。
神聖魔法とは凄いもんだなあと俺が感心していると、
「一応治癒しましたが体力が回復するまで、しばらく身体を休めることにして下さい」とリリアナ姫がニッコリしておっしゃった。
そうだ、ゲニタルも治してもらおうと、
「もう一人いるんです」とゲニタルの生首をリリアナ姫に見せたら、
「キャア!」と気絶して倒れて頭を床に打ってしまった。
やばい。
これで報奨金の一億エンもパーになるかもしれん。
あと、気絶する前に俺の右腕の怪我も治してもらえばよかった。
2019/01/27 あらすじとまえがきが同じだったので、あらすじを変更。




