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第十八話:キングゴブリンと対決

 首都からは難なく脱出して、キングゴブリン軍団が占拠している北西地方を幌馬車で目指す。

「今夜、キングゴブリンの息子の葬儀だ。ゴブリンたちは葬儀場所に集まるだろう。その隙にリリアナ姫を救出しよう」とオティーリエに計画を話す。

「そのバカ姫がどこにいるかわかってるの」

「バカ姫って呼ぶな。残念だが、場所はわからん。地下にある豪華な部屋って噂は聞いた。多分、キングゴブリン塔の地下室じゃないかと予想しているんだが」

「どっちにしろ、それじゃあ、だめよ」

「何でだよ」

「キングゴブリンを倒さなきゃ、リリアナ姫を救っても、ゴブリンたちは息子の仇のあたしたちを追いかけてくる。まずはゴブリンたちを殲滅してから、ゆっくりと探せばいいじゃない」

「どうやって殲滅するんだよ」

「何とかなるわよ、ヒャッホー!」と幌馬車を暴走させるオティーリエ。

 もうこの女の運を信じてついていくしかないか。

 しかし、俺もディックのように疲れてきた。

 

 キングゴブリンが占領している北西部に幌馬車を走らせる。

 もうすぐ陽が落ちそうな時、遠くに十階建てのバカでかい塔が見えてきた。

 グロテスクな怪物の像の装飾が建物全体を飾っている。

 あれがキングゴブリン塔か。


 少し離れた場所で幌馬車を停めて、俺が偵察に行く事にした。

 近づくと、高い防壁が続いている。

 この壁を登って中の敷地に入るのは難しいと思った俺は、壁伝いにそっと歩いて行く。

 もう陽は隠れて、真っ暗になっている。

 巨大な門が見えてきた。

 松明が焚かれていて、門の横に見張塔が建っている。


 後ろに人の気配を感じて振り向くと、オティーリエがやって来た。

「ついてきちゃった」となんだか悪戯っぽい顔をしている。

 表には警備しているゴブリンがいない。

「どうやら、ほとんどのゴブリンたちは息子の葬儀へ行ったらしいな」と俺はオティーリエに囁く。

 見張塔に一人ゴブリンがいるのが見えた。

「捕まえて、情報を聞き出そう」

 俺は気づかれないように、見張塔をナイフで引っ掛けて上っていく。

 見張塔の上部に入り込んで、ゴブリンの後ろにそっと近づくが気づかれてしまった。

 見張りのゴブリンがこん棒で殴りかかってくる。

 よけて、ゴブリンの背中を蹴ると、見張り役のゴブリンが悲鳴を上げながら塔から転落していった。

「しまった」と俺が下を見ると、転落した音に驚いて、非常門から三人のゴブリンが出てきた。

 壁に隠れていたオティーリエが一人のゴブリンの背後から大型ナイフで首をかき切る。

 驚いて振り向いたもう二人も、あっと言う間に血まみれにして倒してしまった。

 俺は見張塔から素早く降りる。


「オティーリエ、全員殺したら情報が聞きだせないじゃないか」

「そいつはまだ生きてるよ」と転落したゴブリンを大型ナイフで指し示す。

 オティーリエが、瀕死のゴブリンの首元にナイフを突きつける。

「ゴブリンたちはどこにいるの」

「……キングゴブリン会堂……」

「他に何か知ってないの。火薬や火縄銃は」

「……会堂に火薬箱を置いていた……」

 そこまで言って、ゴブリンは死んだ。


 幌馬車に戻る途中に、オティーリエが、

「会堂に置いてある火薬箱をファイアーボールで爆破すれば全滅できるんじゃない?」と言う。

「全滅は無理じゃないか。巨大な会堂だぞ」

「はぐれゴブリンのボスが言ってたじゃない、火薬箱は『でかい会堂があってそこを倉庫にして大量に置いてあるみたいだ』って」

 そう言えばそんな事を言っていたなあ。

 記憶力のいい女だ。

「けど、息子の葬式だぞ。別の場所に移しているんじゃないか。もし、あったとしても俺たちも巻き込まれて死ぬかもしれないぞ」

「とにかく、キングゴブリンを殺せば他のゴブリンなんて逃げ出すでしょ」

 

 戻ると、ディックが奇声を上げて暴れていて、ゲニタルがなんとか押さえている。

 薬の袋が落ちていた。

 中を見ると空っぽだ。

「オティーリエさんが飲ませていたよ」とゲニタルが言った。


「おい、オティーリエ、わざと全部飲ませたな」

「何言ってんのよ。そんな酷い事しないわよ。四粒だけよ」

「飲ませるのは四粒じゃなくて、一粒を四分割したうちの一片だぞ」

「えー! だって、ディックがそう言うんだもん」とオティーリエが口を膨らます。

 ホントかよ。

「あなたがちゃんとメモしないから悪いのよ、あたしは悪くない、あなたの字が汚いのよ、ちゃんと読めない。あなたが飲ませたのも同然よ! そう、あなたがディックに薬をのませたのよ!」とまたオティーリエがヒステリーを起こして、喚き散らす。

 確かに俺の字は汚いけど、読めなくはないぞ。


 もしかしたら、ディック本人が薬の力を借りて自殺を試みたのかもしれない。

 メモが書いてある袋ごと、ディックに渡したのはまずかったかなと後悔した。

 奇声をあげるディックを俺とゲニタルが押さえていると、

「ディックはもうダメでしょ。頭がおかしくなった奴はこの場所に置いていきましょう」とオティーリエは冷たい態度をとる。

「ここに置いていったら、もしかしたらゴブリンたちの餌食になるぞ」

「いいんじゃないの」

 冷たい女だなあ。


 少し待つと、ディックがまた大人しくなった。

「おい、ディック、気分はどうだ」

「うーん、頭がピリピリする」と頭を両手で押さえている。

「キングゴブリンを倒しに行くが、ここで待機するか」と俺が聞くと、

「いや、俺も行くよ」とディックは苦しそうだが、剣を手に取った。

「別にここで留守番して、ついでにモンスターに殺されちゃってもいいんだけど」とディックにあくまでも冷たいオティーリエ。

 兄貴とはホントに仲が悪いんだな。

 

 非常門からすんなりキングゴブリン軍団の敷地に入る。

 何やら、様々なグロテスクな銅像や、けったいなオブジェが飾ってある。

 それらに隠れながら、キングゴブリン会堂を目指す。

 キングゴブリン塔のすぐ側に大きい施設があった。


 これがキングゴブリンの息子の葬式が行われるキングゴブリン会堂か。

 内部はかなり広そうだ。

 入口が一つしかない。

 中に入るのは難しいだろう。

 会堂の横に梯子が付いているのを見つけた。

 ゴブリンたちに見つからないよう、会堂の上部に梯子で登る。

 上部には円周上に出っ張りが出ていて、歩けそうだ。


 いくつか窓がある。

 覗くと、会堂前方に、人間の頭蓋骨がゴテゴテと装飾された巨大な椅子にキングゴブリンが座っている。

 普通の人間の二倍はあるんじゃないかっていう巨体だ。

 腰にデカい剣を差している。

 息子の葬式だってのに、ニヤニヤと笑っていやがる。

 それとも、もともとそういう顔なのか。


 花とかも全く飾っていない。

 ただ安っぽい棺桶があるだけ。

 ゴブリンとはそういう生き物なのだろうか。

 葬儀の装飾も素っ気ない感じだ。

 会堂にはゴブリンたちが一万人くらい集結して、全員、剣や火縄銃を携帯している。

 こいつらがいっせいに襲いかかってきたら、俺たちはひとたまりもないな。


 四人で会堂の上部に登ると、突然、ディックがゲニタルを抱え上げて、会堂の後方の窓をぶち破ってゴブリン軍団の中に放り込んだ。

「あひゃー!」と叫びながら、ゲニタルはゴブリンたちの真っただ中に落っこちる。

 ディックは、奇声を上げながら会堂の外へ飛び降りて、無茶苦茶に走ってどっかへ行ってしまった。

 また、薬のせいで発作を起こして、頭がおかしくなったのか。

 あいつはもうダメか。


 ディックのことが心配だが、この状況じゃあどうにもならないし、もう頭がおかしくなってるから仕方が無い。

 会堂の中では、突然、人間が落ちてきたのでびっくりしたのか、しばし動かないゴブリンたち。

「ひいい!」と逃げ回るゲニタル。

 ゴブリンたちも、ようやく動き出しゲニタルを追い回す。

 葬儀会場は大混乱だ。


「うきゃー!」と悲鳴をあげながら、でかいゲニタルがメチャクチャに斧を振り回しているので、ゴブリンたちは戸惑っている。

 意外にも善戦しているぞ。

「あのデブが暴れているあいだに、キングゴブリンをやっつけましょう」とオティーリエが、前方のキングゴブリンが座っている場所に近い窓の方へと行く。

 

「どこに火薬箱があるんだ」

「知らないわ。あの黒い布で覆われているやつじゃない」とオティーリエが耳栓を付けた。

 キングゴブリン近くの箇所を指し示すが、そういう黒い布に覆われている箱みたいなものが会場のそこら中にある。

 まさかあれ全部火薬箱だろうか。

 やばいじゃないか。


「オティーリエ、爆発させたらゲニタルが巻き添えになるし、俺たちも死ぬかも知れないぞ!」

「耳栓付けたから聞こえないわ、大丈夫でしょ」

 聞こえてんじゃねーか!


 オティーリエは俺の制止を無視して、

「ファイアーボール」と叫んで、火の玉を発射する。

 俺は耳をふさいだ。

 爆発が起きる。

 周りのゴブリンが吹っ飛ぶ。

 他にも誘爆していく。

 どうやら、マジで会場の隅っこ全体に火薬箱を置いていたらしい。

 会堂が崩壊していく。

 

「オティーリエ、飛び降りるしかない」と俺が叫ぶと、

「あたしは高所恐怖症なのよ。無理!」となんだか急に怯えているオティーリエ。

「なんで高所恐怖症が高いところまで登れたんだよ!」

「勢いよ! 勢い! あたしは本当は気が弱いの!」

 ウソツケ! 


 オティーリエを無理矢理抱きかかえて、一緒に飛び降りる。

 足に激痛が走った。

 着地する時、右足をくじいてしまった。

 二人で抱きつきながら地面をゴロゴロと草むらに転がった。

 思いっきりオティーリエのデカい胸に顔を埋めてしまったが、本人はそれどころじゃないようで、何も文句は言わない。


 会堂が全壊してゴブリンたちは瓦礫の下で死んでいるようだ。

 そこかしこで瓦礫が燃えていて、そこら中明るい。

「やったわー! 大殺戮よ!」とオティーリエが飛び跳ねて喜んでいる。

「おい、ゲニタルも死んだだろ!」

「あ、そうか。可哀想ね」と棒読みで言うオティーリエ。

 全く、ゲニタルの事は心配していないようだな。


 突然、瓦礫が動き出した。

 瓦礫の山から、大火傷したキングゴブリンが立ち上がる。

 巨大な体の腰に差している剣を抜いた。

 バカでかい剣を振り回して、俺たちの方に向かって来る。


「火炎魔法攻撃は使えるか」と俺が焦ってオティーリエに聞くが、

「もう魔力は尽きてるわ」

「出し惜しみすんなよ」

「ホントよ!」とオティーリエが珍しく青い顔をしている。


 俺がナイフを投げるが、キングゴブリンは簡単に剣ではじいてしまう。

 キングゴブリンがこっちに襲いかかって来た。

 剣を振って、俺を切ろうとする。

 俺は剣をよけて、キングゴブリンの足にナイフを刺したが、逆に蹴とばされて、瓦礫の山に放り投げられた。

 全身を打って、体が動かない。


 逃げたオティーリエが瓦礫に足を取られて転倒した。

 キングゴブリンがオティーリエを狙って、剣を振りかぶる。

 俺は体が動かない。

 もうだめかと思った。


 その時、銃声がした。

 キングゴブリンの額に穴が開いて、血が噴き出す。

 前のめりに倒れて動かなくなった。

「やった!」と瓦礫の中から声が聞こえてきた。

 ゲニタルだ。

 死んだゴブリンの火縄銃を持っている。

 生きてたのか。


 俺は何とか立ち上がり、瓦礫を取り除いて、ゲニタルを助け出す。

「ゲニタル、お前にこんな才能があったとは知らなかったよ」と俺が驚いていると、

「前に言ったじゃないですか、僕は火縄銃を扱えるんで、皆さんにも火縄銃の使い方を教えてあげましょうかって」 

「それにしても、よく無事だったな」

「オティーリエさんの変態行為のおかげですよ。鞭で叩かれまくって鍛えられたんです。もっと叩いて下さいよ、アハハ!」とゲニタルが笑う。

「変態行為とは何よ! この変態!」とオティーリエがゲニタルを瓦礫の上で鞭で追い回す。

 もう二人の趣味になったのか。

 本当にバカげた光景なので、俺はうんざりしながら止める。


「そう言えば、ディックさんはどうしたんでしょう、会堂が崩れた際に埋まってしまったんでしょうか」とゲニタルが心配そうな顔をする。

「埋まって死んでもいいんじゃない。こんなデカい墓、ディックにはもったいないけど」とオティーリエが冗談なのか本気なのかわからないことを言う。


「いや、ディックはゲニタルを会堂の中に突き飛ばした後、外に飛び降りて奇声を上げてどっかに行っちゃったぞ。多分、会堂の崩壊には巻き込まれていないと思う」

「なんだ、つまんない。死ねばいいのに。で、どこに行ったの」とオティーリエが聞く。

「わからん。けど、ディックは多分無事だと思う。先に、リリアナ姫を救出しよう」


 俺たちはキングゴブリン塔へ向かった。

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