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第十三話:再びゴブリン退治へ

 俺たちは、幌馬車ではぐれゴブリンのアジトへ向かう。

 途中で、追跡者には出くわさなかった。

 オティーリエの推測通り、追手の連中は俺たちがカクヨーム王国に逃げると思って、すでに東の国境に向かったようだ。


 思い出したが、この間、冒険者ギルドの主人カッツォールが、『この辺りで、ゴブリンたちが大勢、東に移動しているのを目撃されている。それを追って、冒険者も東側に行っている』とか言ってたなあ。あの時は、ゴブリンたちがカクヨーム王国軍と秘密に手を結んでいて、戦争中のナロード王国軍を挟撃するつもりじゃないかという話だったが、ひょっとすると俺たちが標的だったのだろうか。

 うーん、よくわからん。


 幌馬車をどんどん暴走させるオティーリエ。

「オラ! もっと速く走れ!」と鞭を馬にビシビシ振るってご機嫌な様子だ。

 幌馬車が揺れて、オティーリエのデカい胸が俺の腕に当たるが、本人は鞭を振るって興奮しているのか、何も文句は言ってこない。


 途中の古い木橋で、果物を満載した籠を持ってヨタヨタと歩く農民のお婆さんとすれ違う。

 オティーリエが幌馬車を暴走させてたんで、危うくひき殺すとこだった。

 後ろを見ると、お婆さんは橋の上で転んで倒れている。

 オティーリエがいきなり幌馬車を止める。

 幌馬車から降りて、お婆さんに駆け寄った。

 謝りに行ったのかと思って見ていたら、オティーリエは立ち上がろうとしたお婆さんの顔面にいきなり飛び蹴りをくわえた。

「おい、やめろ」と俺は慌てて、幌馬車を降りて止めに走る。

「何考えてんだ! なんでこんな酷い事をするんだよ!」と怒鳴ると、婆さんはもの凄い速さで走って逃げて行った。

 よく見ると若い男だ。

 果物泥棒だろうか。

「外見だけで判断しないでよ。外見は善人でも、中身は極悪人かもしれないじゃない」とオティーリエに文句を言われる。

「お前も外見はもの凄く綺麗だが、中身はどうかわからないな」と俺が皮肉ると、

「あら、あたしの事、綺麗って言ってくれたの、嬉しい!」となぜか急に機嫌がよくなるオティーリエ。

「まあ、とにかく籠の中の果物を手に入れたじゃない。棚からぼたもちね、良かったわ。ウフフ!」とお婆さんを装っていた泥棒が持っていた籠を奪って、幌馬車に戻る。


 途中で、森の中の小道に入って、幌馬車を停めてしばし休憩する事にした。

 奪った果物を美味しそうに食べるオティーリエ。

 ディックはぐったりしている。

「おい、大丈夫かよ、ディック」と声をかけると、

「さっき、何であのチンピラが俺の首にナイフを突きつけた時、そのままにしてくれなかったんだ。うまく死ねるとこだったのに」とディックが憂鬱そうな表情で答える。

 せっかく、助けてやったのにと俺は少し腹が立ったが、ディックは病気なんで仕方が無い。

 例の薬を飲ませてやろうかと思ったが、確か夜寝る前とか薬屋の店員さんが言ってたし、それにディックはまだ酒が残っているようだ。

 ゲニタルは気絶したまんま。

 さて、どうするか。


 指についた果物の汁を口で吸っているオティーリエに俺は声をかけた。

「おい、オティーリエ、お願いがあるんだが」

「何よ」と口から抜いた指についた唾液がオティーリエの下唇との間に糸をひいている。

「汚いなあ、口を拭けよ」と俺は言った。

「ギャーギャーうるさいわね!」

 お前の方がうるさいよ!


「その真っ黒なボンデージファッションは目立ちすぎる。普通の服に着替えろ。この前の狼退治の時の服装みたいな恰好にしろ」と俺がオティーリエに命令すると、

「これはあたしの勝負服よ、この格好で殺しまくるのが快感なのよ、殺害よ、虐殺よ、大虐殺すんの!」とオティーリエが喚く。

 何言ってんだ、この狂った女は。

「見つかっちまうよ、さっきのチンピラが手配書通りの恰好って言ってただろ。多分、エマがお前のことを喋ったんだ、真っ黒い恰好をした女って」

「ちっ! うるさいなあ」とぶつくさ言いながら、オティーリエは大木の陰で着替えながら、

「覗いたらぶっ殺すよ!」とまた怒鳴る。

 うるせーよ、さっさと着替えろよ、自意識過剰女!


 オティーリエは、上は狼退治の時の恰好でグレーのジャケットに白いシャツ姿だが、下は白いぴっちりしたショートパンツに着替えた。

 相変わらずヒールの高い黒いロングブーツを履いている。

「何じっくりあたしの体を見てんのよ、ショートパンツに浮き出た下着の線を見たいのね、いやらしい!」と相変わらずオティーリエは妙な言いがかりをつける。

「そんなことじゃねーよ! 何だよ、そのヒールの高いブーツは。普通の靴を履けよ!」と俺が注意すると、

「ぺしゃんこの靴じゃ気分がでないのよ」とオティーリエは答えた。

 気分が出ないとは、殺戮の気分かね?

 まあ、もういいや。

 全身真っ黒の姿よりはマシになったし。


 俺たちは、はぐれゴブリンのアジトがあるプルサ山の中腹まで幌馬車を走らせ、ゴブリンに見つからないように遠回りして、アジトが見える高台に幌馬車を停めた。

 ゴブリンのアジトは山の中腹をくり抜いた場所にある。

 アジトは太い木の柵で囲まれており、入口は上部に吊り下げられた垂直の扉で守られている。

 前に偵察に来た時、このアジトの正面入口には大勢のゴブリンたちが完全武装で守っていたが、今はちらほらといるだけだ。

 オティーリエの言っていた通り、ゴブリンの数は少なそうだ。

 ただ、以前と違って、ゴブリンたちは剣の他に変な筒のような物を持っている。


「あれがアジトの正門だ。さて、どうするつもりだ。もう、今日はだいぶ陽が下がってきた。明日にするか」と聞くと、

「じゃあ、行ってくるわ」と幌馬車から飛び降りるオティーリエ。

「おい、正面からいきなり乱入するのかよ」

「そうよ、殺戮、虐殺、大虐殺よ!」と浮かれたように走っていくオティーリエ。

 焦った俺は、

「お前の妹がゴブリンのアジトに特攻するぞ!」とディックに叫んだが、

「どうでもいいよ、オティーリエなんか。さっさと特攻して死んでくれ。そして、あの世に逝けばいい、エターナル!」とディックはふざけた口調でヘラヘラと笑っている。

 ディックの奴、まだ酔ってんのか?

「ふざけてんのかよ!」と俺が怒鳴ると、

「ふざけてるよ~」と笑うディックの目が死んでいる。

 もうダメか、こいつは。

 ゲニタルの方はまだ気絶しているのか、寝ているのかわからん。

 俺は仕方が無く、二人を幌馬車に置いてオティーリエの後を追った。

 ディックとゲニタルはもう使い物にならないかもと俺は思った。

 

 嬉しそうに走っていたオティーリエが、ゴブリンのアジトの正門前近くで立ち止まった。

 夕陽を背にして、いきなりアジトの正門前に人間の女が一人で現れたんで、ゴブリンたちは戸惑っているようだ。

「いくよー! 大虐殺祭り!」とオティーリエが飛び跳ねてはしゃいでるのを、ゴブリンたちは唖然とした感じで見ている。

 オティーリエが指を交差させ、呪文を唱える。

 空中に炎が現れ、でかい球に膨れ上がる。

「メガファイアー!」とオティーリエが叫ぶと、でかい火の玉がアジトの入口目がけて飛んでいった。

 大爆発が起きた。

 ゴブリンのアジトの入口周りの木の柵は全部破壊され、扉も吹っ飛んで瓦礫の山になった。

 ゴブリンたちは相当被害を受けてるはずだ。

 爆風でオティーリエ本人もよろけて倒れる。

「痛い」と耳を押さえている。

 大変な破壊力だ。

「おい、オティーリエ、凄いじゃないか。秘密の必殺魔法を持っていたのか」と俺が駆け寄ると、

「いや、違う。何か変だわ。メガファイアーではこんな爆発は起こらない」とオティーリエ本人も驚いてる。


 アジトの入口付近で、爆死したゴブリンが大勢倒れていた。

 さっき遠くから見た時、ゴブリンたちが持っていた筒を取り上げてみると、

「こいつらゴブリンのくせに、火縄銃を持っているぞ」と俺は驚いた。

「なによ、火縄銃って」

「火縄につけた火で導火線に点火し、弾丸を発射するんだよ」と俺が説明すると、

「魔法無しで、火の玉をぶつけるようなもん?」とオティーリエが聞く。

「まあ、似たようなもんだが、ゴブリンが持っているとはなあ。ナロード王国の首都に武器倉庫があったから、そこから盗んできたのかな」


 俺は文字が書いてある木片が落ちているのを見つけた。

 よく見るとカクヨーム王国の言葉で「火薬」と書いてある。

「オティーリエ、もしかしたら、さっきの大爆発は火縄銃に使う火薬に引火したものかもしれないぞ。カクヨーム王国製だ」

「何で、カクヨーム王国の火薬がここにあるの」

「わからん」と答えながら、俺は何かしらの陰謀を感じた。


 火薬の匂いが立ち込めるゴブリンのアジトの中に入ると、二十人くらいのゴブリンが焼け死んでいる。

「全滅したのかな」

「あっさりと死んだわね。ナイフで惨殺して血まみれにしたかったのに」とオティーリエがつまらなさそうな顔をしている。

 この女は血まみれにならないと気が済まないのか、と考えていると、一人のゴブリンが立ち上がり、いきなりオティーリエに背後から剣で切りかかってきた。

 俺はさっとナイフを投げる。

 首に命中して、ゴブリンは喉を押さえながら倒れた。

 どうやら、死んだふりをしていたらしい。

「あら、あんた、ホントにナイフ投げで殺すのうまいのね」とオティーリエがちょっとびっくりしている。

「油断すんなよ」と嫌味を言うと、

「あんたに見せ場を作ってやったのよ、ありがたく思ってよ」とオティーリエが笑った。

 殺されるところだったのに、少しは感謝してほしいもんだなと俺は思った。


 奥の方で、呻き声が聞こえた。

 そっちの方を見ると、黒い眼帯をはめたゴブリンが倒れている。

 俺たちの姿を見ると、瀕死の状態のようにも見えるが、立ち上がってヨロヨロと逃げ出した。

「あの黒い眼帯をはめた奴、多分ボスゴブリンだ、捕まえよう」と俺が言うと、

「捕まえて、拷問すんのね」と嬉しそうなオティーリエ。

 拷問するとは言ってないんだけど。


 奥にある部屋へと逃げるボスゴブリン。

 入って扉を閉めるが、オティーリエがブーツで蹴り破る。

 部屋の隅に逃げようとして、ボスゴブリンが転んだところを、俺とオティーリエで捕まえた。

 大怪我して弱っているのだろうか、観念して床に横たわっているボスゴブリンを、オティーリエはいきなり鞭で叩きまくる。

「オラ、オラ、オラア! 死ねえ!」

「ヒイイ!」と悲鳴をあげるボスゴブリン。

「おい、殺す気かよ」とオティーリエを止める。

「つい、勢いでやっちゃった、アハハ!」とオティーリエは本当に楽しそうだ。


 ボスゴブリンが逃げようとした部屋の隅をよく見ると、例の緊急脱出用の出口があった。

 覗いてみると、下へ降りる急勾配の階段が見える。

「キングゴブリンの事を教えてくれたら、命は助けてやるわ」と怯えているボスゴブリンにオティーリエが言った。

「……本当だろうな」とボスゴブリンは疑わしい目でオティーリエを見た。

「本当よ、あたしはウソはつかないわ」とオティーリエはニヤニヤしている。

 本当かねと俺は思いつつ、

「あの火縄銃はどこから手に入れたんだ」と俺はボスゴブリンに聞いた。

「キングゴブリンの息子から貰ったんだ。奴は隣のカクヨーム王国と手を組んで、ナロード王国を滅ぼそうと企んでいたんだ。親父のキングゴブリンは人間と手を組むのは反対だったらしいが、息子が押し切ったらしい」

「カクヨーム王国はモンスター狩りを政府が率先して行っていたはずだ。その国がゴブリンと同盟を組むってのも変な話じゃないか」と俺がボスゴブリンに疑問をぶつけると、

「同盟の条件は、紛争の原因となっている領土をカクヨーム王国に割譲することだったみたいだ。その代わりに武器の援助を受けて、息子が中心となって各地の俺たちみたいなはぐれゴブリンも糾合して、ナロード王国軍を挟み撃ちにして滅ぼし、残りのナロード王国の地域を支配するつもりだったらしい」

 ゴブリンたちがカクヨーム王国軍と秘密に手を結んでいるという噂は、本当だったんだなと俺は思った。

「しかし、肝心のキングゴブリンの息子が何者かに殺されたんで、今は混乱状態だ。キングゴブリンと元からその手下だった連中は手を引くと言ってるらしい」とボスゴブリンは答えた。

「へーそうなんだ! ちなみにキングゴブリンのバカ息子を殺したのはあたしよ。あたしが歴史を動かしたのね、キャッホー!」と自慢げにオティーリエがはしゃいでいる。

 何、はしゃいでんだよ!


 それを聞いたボスゴブリンが、

「何だと、おかげで俺たちはキングゴブリンの手下に危うく殺されそうになったんだぞ」と目を向いて怒ると、

「あっそう、じゃあ、今、あたしが殺してやるわ」とまたオティーリエは鞭を振るう。

 ビシ! ビシ! と音を立ててボスゴブリンを叩きまくる。

「死ね! 死ね!」とさらに興奮しているオティーリエ。

「ヒイイ! 助けてえ!」と情けない声を出して、ボスゴブリンは俺に助けをもとめる。

「やめろよ、オティーリエ」と俺は少しうんざりして、鞭を振るって興奮しているオティーリエを止めた。

「いい運動になったわ」とオティーリエが笑う。

 いい加減にしろよ、このサディスト女。


「……お前らわかってるのか、カクヨーム王国軍に狙われる事になったんだぞ」とボスゴブリンが虫の息で言った。

「何でよ」とオティーリエが不審げな顔をする。

「お前らがカクヨーム王国とキングゴブリン軍団との同盟を成立させたキングゴブリンの息子を殺したおかげで、同盟が解消になったんだ。怒ったカクヨーム王国政府が息子を殺した奴らに懸賞金をかけたらしい」

 ボスゴブリンの話を聞いて、これでカクヨーム王国には逃げられなくなったなと俺は落胆した。


「さっきの大爆発は火薬に引火したものか」と俺が聞くと、

「そうだ。キングゴブリン軍団は大量に火縄銃や火薬箱を持っている。息子がカクヨーム王国から莫大な援助をしてもらったらしい。でかい会堂があってそこを倉庫にして大量に置いてあるみたいだ」

「キングゴブリンってのはどんな奴なんだ」

「お前ら普通の人間の倍はあるんじゃないかってくらいデカい奴だ。けど、もうだいぶ年らしい。かつての面影は無いようだ」

「キングゴブリン軍団は北方に住み着いているが、キングゴブリン本人はどの辺りにいるんだ」

「首都メスト市から北西の方向に行くと、キングゴブリン塔ってのがあって、そこに引きこもってるらしい」

「キングゴブリン塔ってそのまんまの名前ね。センスないわね」とオティーリエがどうでもいいことを言う。

「キングゴブリンの息子の葬式が行われると聞いたんだが」

「ああ、明日の夜に行われるようだ」

 息子の葬式が行われている隙に、リリアナ姫を救出できるかもしれないなと俺は思った。


「お前らはもう火薬は持ってないのか」

「今の大爆発でみんな吹っ飛んだよ」

「なんで、火薬について聞くの」とオティーリエが俺に尋ねた。

「追手を火薬で撃退できるんじゃないかと思ったからさ」

「ふーん、そうなの。さて、だいたい情報は得たし、お前には死んでもらうわね」とボスゴブリンを見ながらオティーリエはニヤついている。

「おい、命は助けると言ったじゃないか」とボスゴブリンは怯えている。

「命は助けると言ったけど、殺さないとは言ってないわ」とオティーリエはまた嬉しそうにブーツでキングゴブリンの顔面を踏んづける。

「おい、こいつを何とかしてくれー!」と泣きそうなボスゴブリン。

「おい、オティーリエ、すこしは慈悲ってもんは無いのかよ」

「あるわよ。じゃあ、もっと重要な情報を教えてくれたら殺さないわ」


 ボスゴブリンは黙っている。

「オラ、オラ!」とまた鞭で叩きまくるオティーリエ。

「ヒイイ! わかった、言うよ、ナロード王国軍を紛争地域に引き付けている間に、カクヨーム王国の別働隊がはぐれゴブリン軍団も加えてナロード王国の首都へ進撃するって聞いたぞ」

 前に冒険者ギルドで聞いた、国境へ向かっているゴブリンとは俺たちを追っているのと同時に、別働隊と合流するつもりだったのかも知れないと俺は思った。


 そう考えていると、ボスゴブリンがさっと緊急脱出用の階段へ逃げだした。

「待ちな!」とオティーリエが追いかけるが、ボスゴブリンは階段でつまずいて、悲鳴を上げながら五百段くらいある急な階段を転げ落ちて行った。

 よく見えないが、動く気配が無いところ、ありゃ死んだな。

「いろいろと教えてくれたから、珍しく助けてやろうと思ったのに。自分でけつまずいて死ぬなんて間抜けな奴ね」とオティーリエが笑った。

 本当に助けるつもりだったのかね?

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