第十二話:冒険者の襲撃
俺たちがギャーギャーと言い合っていると、廃屋の壊れた窓から、五人組の男たちが近づいて来るのが見えた。
服装から見ると冒険者らしい。
早速、俺たち賞金首目当てにやってきた連中か。
この廃屋に気づいたのは、俺が街道のそばに馬をつなげていたからかもしれん。
迂闊だった。
廃屋の外から、
「おい! 出てこい! お前らがキングゴブリンの息子を殺したんだろ!」と大柄で顔に傷がある男が大声で呼びかけてきた。
壊れた窓から貧相な顔をした男が覗き込む。
「ウヒヒ、手配書通りの恰好をしている女がいるじゃねーか。この女は役人に突き出す前に、ゆっくりと楽しませてもらおうぜ、ボス!」と例の真っ黒いボンデージファッションを着ているオティーリエにいやらしい視線を向ける男。
「おいネーチャン、エロい恰好してるじゃねーか」と男は窓枠から顔を突き出す。
オティーリエは素早く動いて、窓から顔を突き出した男の首を大型ナイフを振って、あっと言う間に切り落とす。
男の頭部は、にやけた顔をしたままゴロリと廃屋の床に落ちた。
切断された部分から大量の血が噴出し、ゲニタルの顔面に直撃する。
「ひえ!」と慌てるゲニタル。
「やりやがったな! このクソ女! ぶっ殺してやる!」とボスらしき大柄な男ともう一人のデブが廃屋の扉から中に飛び込んで来るが、扉の横に隠れていた俺はナイフでボスの首の頸動脈を切り裂く。
「グエ!」男は首から血を噴き出しながら床に倒れ、絶命した。
その男の血がオティーリエの顔にぶっかかった。
デブの方はボスが殺されて焦ったのか、部屋の隅でぐったりして座り込んでいるディックの背後に周り、首にナイフを突きつけて、
「こいつを殺されたくなかったら、武器を捨てろ!」と叫んだ。
それと同時に俺は速攻でデブに目がけて、ナイフを投げる。
ナイフはデブの喉に刺さった。
デブは自分のナイフからは手を放して、両手で喉元を押さえて倒れ込む。
俺はデブに近づいて、喉を切り裂いてやった。
噴き出す血が廃屋の床をびしょびしょに濡らす。
ディックは無事だが、反応が無い。
世の中のこと全てに興味を失ったような感じのディックに、俺は心配になった。
「おい、しっかりしろよ」とディックに声をかけていると、オティーリエが近づいてきた。
オティーリエの顔は、俺が殺したボスの血がかかって真っ赤に濡れている。
また因縁をつけて、怒りだすかと思いきや、
「やるじゃん」と顔の表面を流れ落ちる血を舌で舐めとり、俺を見てニヤリと笑う。
顔面についた血を舐めるオティーリエに対して、美人なだけに、なおさら薄気味悪さを俺は感じた。
気がつくと、形勢不利と見たのか残りのチンピラ二人が逃げ出した。
「ファイアーボール!」とオティーリエが叫んで、火の玉をぶつけてチンピラ冒険者一人を火だるまにする。
絶叫をあげて、のたうち回ったあげく、黒焦げになってチンピラ冒険者は絶命したようだ。
すると、ゲニタルが騒ぎ出した。
「火が点いたあ!」と叫んで、悲鳴を上げながら廃屋から飛び出て、森の中を走り回り、大木にぶつかって、地面にうずくまった。
背中には火の粉が付いただけだ。
火は点いてない。
こいつは何で冒険者になったのだろう。
その騒ぎで、もう一人のチンピラを逃がしてしまった。
「このデブ、お前のせいで一人逃げられたじゃないの」とオティーリエがゲニタルに鞭を振るう。
「ふぎゃあ!」と叫んでゲニタルが起き上がった。
「この役立たずのデブ!」とオティーリエがゲニタルの頭をブーツで思いっきり蹴り飛ばす。
ゲニタルは吹っ飛んで、くるくると回転しながら大木にぶち当たって、仰向けに倒れてまた気絶した。
「おい、やめろよ」と俺はオティーリエを押さえる。
「他の追手が来るかもしれないから、早くこの森から出よう」
「大丈夫よ、今もあっさりと冒険者の連中を撃退したじゃないの」とオティーリエが俺に向かって笑う。
「今のはただのチンピラだろ。ナロード王国軍やキングゴブリン軍団とたった四人で戦えるのかよ」
「あたし一人で十分よ」とオティーリエは自信満々だ。
大した自信だな、この女。
自意識過剰だけでなく自信過剰でもあるな。
とにかく、冒険者の連中が襲って来たのだから、この森からは逃げる必要がある。
街道付近に幌馬車がつないであるのを見つけた。
ご丁寧に鍵で木につないである。
俺は簡単にその鍵を開けた。
シーフの俺にとっては朝飯前だ。
襲ってきた冒険者はこの幌馬車に乗ってきたらしい。
俺たちはそれを奪って逃走することにした。
俺が乗ってきた馬がいないところ、さっき逃げたチンピラが奪ったらしい。
「おい、起きろよ」と俺はディックを何とか起こし、幌馬車まで肩を支えて連れて行く。
水筒の水を使って、血で真っ赤になった顔を洗っているオティーリエに、
「おい、ゲニタルを運んでくれ」と頼むと、
「役立たずは置いていきなさいよ」とオティーリエは冷たい態度を取る。
「今は少しでも仲間が必要な時だろ」と俺が言うと、
「仕方が無いわね」とオティーリエは大木の前で仰向けになって気絶しているゲニタルに近づいて、股間をいきなり鞭で叩く。
「あひい!」とゲニタルは悲鳴を上げて、起き上がった。
「このデブ、何さぼってんだよ!」とオティーリエは何度も鞭をゲニタルに振るう。
「助けてえ!」と悲鳴をあげながら、ゲニタルは森の中を逃げ回った。
「逃げるな! この役立たずのデブ!」と叫びながらオティーリエは執拗にゲニタルの全身に鞭を振るいながら追い立てる。
「やめてー!」と叫びながら鞭打たれるゲニタル。
ついには、森の中ですっ転んで、
「お許し下さい、オティーリエ様」と地べたに土下座している。
そんなゲニタルを散々に、鞭で叩きまくるオティーリエ。
「オラ、オラ、オラ!」とビシビシ鞭を振るう。
「ヒイ!」と体中を鞭で叩かれるゲニタル。
「このデブ、叩かれると気持ちいいんだろ」とオティーリエはヘラヘラ笑いながら、ロングブーツでゲニタルの頭を踏みつけて嬉しそうだ。
「はい、気持ちいいです。オティーリエ様」とゲニタルは叩かれたままじっとしている。
俺は呆れて、
「何遊んでんだよ、そんな事をしてる暇ないだろ!」と止めに入った。
結局、オティーリエにボロボロにされたゲニタルは幌馬車まで何とか歩いた後、また気絶した。
こいつは気絶してばっかりだな。
ゲニタルを後ろの荷台に座っているディックの隣に寝かせ、俺たちの荷物を放り込み、オティーリエが幌馬車の手綱をとる。
俺は御者台に上って、オティーリエの隣に座った。
街道をカノン峡谷を過ぎた後は、追手に捕まらないよう、あまり使われてない道を使って幌馬車を走らせる。
早く、東のカクヨーム王国に逃げなければいけない。
あまり使われていない道なので、でこぼこしていて、幌馬車がやたら揺れる。
「揺れてるときに、わざとらしくあたしの形の良い胸を触るとかしないでよね」とオティーリエが俺を睨む。
いちいち、うるせー女だな。
今は、そんな余裕ねーよ。
砂煙を上げて、幌馬車が走る。
周りの風景を見て、俺は幌馬車が違う方向に進んでいることに気づいた。
「オティーリエ、どっちへ行くんだよ。西に向かってるぞ」
「あんたは国外脱出する気だったんでしょ。東のカクヨーム王国に」
「その通りだ。それが最善の策だと思ったんだが」
「だったら、追跡している連中も同じように考えるのが普通じゃない。もう東の国境に先回りしているかもしれないわ」
言われてみればそうかもしれん。
「しかし、西に向かってどうするんだ」
「この間行った、はぐれゴブリンのアジトに行くのよ」
「そんなとこへ行ってどうすんだよ」
「頭が悪いわね。あのはぐれゴブリンたちはキングゴブリンの傘下に入ったんでしょ。忠誠を誓ったその矢先、キングゴブリンの息子が自分たちのアジトで人間に殺されたのよ。あたしらの事だけどさ、ウヒヒ。連中はキングゴブリンに制裁を受けると怯えているはず。今、血眼になって、あたしらを探しているはずよ」
「そんな場所に行ったら、俺たちは飛んで火にいる夏の虫じゃないか」
「本当にバカね。だからアジトに大勢いるはずのゴブリンたちはあたしらを捜索のために出払っているってことじゃない。ベスタ村を襲ったのもそいつらじゃないの。その後、多分、東に向かっているわ」
うーん、性格は悪いが頭は良いかもしれんな、この女。
「ボスゴブリンを捕まえて、キングゴブリンの情報を聞きだすのよ。その後、あたしらはキングゴブリンのとこへ行って、リリアナ姫とかいうバカ女を助け出して、報奨金の一億エンをいただくってわけ」
「けど、はぐれゴブリンのアジトの秘密の出口はもうバレているはずだぞ」
「だから正面突破よ、人数は少ないだろうし、ゴブリンたちを殺して殺して殺しまくるのよ! ヒャッホー!」と幌馬車をますます暴走させるオティーリエ。
やっぱり狂ってるな、この女。




