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第十一話:森の中の廃屋

 とにかくベスタ村に一度戻って、仲間に知らせなくてはいけない。

 薬屋で時間を取られてしまったので、もう情報が回っているかもしれないが。


 ヤキモキしながら馬を急がせて走らせていると、カノン峡谷を過ぎた森の中の街道で、冒険者ギルドの主人カッツォールが全身血だらけで馬に乗って、前方から走ってくるのに出くわした。

「どうしたんですか!」と俺はびっくりして、馬をとめて声をかけた。

「村が突然、ゴブリンの大集団に襲われたんだ! 村人はほとんど皆殺しにされたぞ!」とカッツォールは息もたえだえな様子で青い顔をしている。

「俺の仲間はどうなりましたか」

「わからん、姿は見ていない」

「ゴブリンたちはどんな様子でしたか」

「キングゴブリンの息子を殺した犯人を突き出せとか捕まえるとか騒いでたぞ」

 それは俺たちです! とは言えなかった。

「キングゴブリンの息子の葬式に間に合わせるとか何とか喚いているのも聞いたな。悪いけど、俺は首都の冒険者ギルド本部に報告しなきゃいけないから、失礼するぞ、じゃあな!」とカッツォールは、馬を飛ばしてさっさと行ってしまった。

 もしかして、俺のパーティは、すでに全員ゴブリンに殺されてしまったのかもしれん。

 やばいな。

 俺もカッツォールと同じく逃げようかと一瞬思ったが、一応仲間のことも心配だしな。

 しかたねーや!


 また、ベスタ村方面へ、いろいろと考えながら馬を走らせていると、森の中でゲニタルがしゃがんでいるのを見つけた。

「おい、ゲニタル、大丈夫か!」と声をかけると、ゲニタルの奴、のんびりと手を振ってやがる。

 無事だったのかと俺は胸をなで下ろした。

 ゲニタルもどうやら体の調子は良くなったようだ。

 今は用でも足しているのか。

「何で、こんな森の中にいるんだよ」と俺が聞くと、

「宿屋の主人がオティーリエに、男を部屋に引き入れる仕事はやめてくれと文句を言ったんです。そしたらオティーリエが激怒して、主人を半殺しにしちゃって、それで、他の職員に宿屋を追い出されたんですよ。仕方が無く、村を出てこの森の中で小屋を見つけたんです」と言いながら、ゲニタルは立ち上がった。

 宿屋を追い出されて村を出た後に、ゴブリンたちが襲ってきたのだろうか。

「オティーリエの奴、酷いんですよ。荷物は全部僕に持たせて、落とすとあんたを殺すって脅すんです」とゲニタルがぼやいている。


 馬を街道近くの木につないで、ゲニタルに案内されると廃屋があった。

 中に入ると、俺たちの荷物が乱雑に置いてあり、オティーリエは古ぼけた椅子に座って、手鏡で自分の顔を見てうっとりとしていた。

 ナルシストな女だな。

 股を広げて右脚を長く伸ばして床に、左脚を抱え込むように椅子に座っている。

 スカートがめくり上がって、黒い下着が丸見えなんだけど。

 また見せつけてんのか、この女は。


 俺の顔を見て、

「早く新しい宿屋を用意してよ。何なら一緒の部屋でもいいよ」とオティーリエは言った。

「ディックはどこだ」と荒れた部屋の中を俺が見回していると、

「知らないわ、あんたと一緒に医者のとこへ行ってから見てない」とオティーリエが興味なさそうに答えやがる。

 病気の兄のことなんて、全然心配していないようだ。

 まさか村をゴブリンたちが襲撃した時に、ディックも殺されたのかと俺が不安になっていると、森の中をフラフラと歩いている男が見えた。

 俺たちのパーティのリーダー、ディックだ。

 無事だったかとほっとする。

 しかし、様子がおかしい。


 ディックのとこへ走っていくと、俺を見るなり、

「おお、心の友よ!」とわけのわからないことを口走りながら、ディックはヘラヘラと笑っている。

 手に酒瓶を持ってやがる。

「何だよ、ディック、心配したじゃないか。って、また酒飲んでるのかよ!」

「ああ、何もかも嫌になってな。よくわからん病気だが、一生治らないんだろ。やけ酒だよ」

 俺と医者の会話を聞いてたのだろうか。

「しっかりしろよ、リーダーだろ。あんたのために首都で薬も買ってきたし」

「どうでもいい、薬なんて。もう疲れたよ。俺は所詮、三流の冒険者だ。お前らにも悪いことしたな」

「おい、元気出してくれよ、ディック」と励ますが、

「お前も俺みたいになりたくなかったら、オティーリエから逃げた方がいいぞ」とディックが空の酒瓶を地面に叩きつけて粉々に割った。

 こりゃ、だいぶ酒を飲んでるな。

「酒なんか飲んでる場合じゃないぞ、大変なことになった」と俺はディックを廃屋へ連れて行った。


 全員揃ったところで、俺はパーティの皆に、この前殺した門番ゴブリンが実はキングゴブリンの息子だったこと、エマが密告したこと、そして俺たちはおそらく指名手配になったこと、すでにキングゴブリンの手下と思われるゴブリンの集団がベスタ村を襲撃したことを報告した。

「なんであたしが指名手配になるのよ!」と例によって、オティーリエが喚き散らす。

「殺したのはお前じゃないか!」と俺が文句を言うと、

「あの時、あんたがちゃんと気絶させないからいけないのよ! あんたが殺したのも同然よ! そうよ、キングゴブリンのバカ息子はあんたが殺したのよ! あんただけが指名手配になればいいのよ!」とギャーギャうるさくて仕方が無い。

 もう、オティーリエのヒステリーは無視して、

「戻ってくる際に、いろいろと考えたんだ」と皆に俺の計画案を披露した。

 計画一、キングゴブリンを倒し、リリアナ姫を救出する。言わば冒険者としての王道路線。俺たちの指名手配も取り下げになるだろう。

 計画二、国外に逃げる。西のアルーファ王国は遠すぎるので、東のカクヨーム王国に国外逃亡する。ナロード王国と戦争中で、とりあえずナロード王国軍の追跡部隊は追って来ないし、モンスターを積極的に退治している国なんでキングゴブリン軍団も入りづらい。懸賞金目当ての冒険者の連中は国境を越えて追ってくるだろうが、俺自身がカクヨーム王国出身なので、いろんな人脈があり逃げるのに都合がいい。

 計画三、モンスターにやられて、俺たちは全員死んだことにして地下に潜伏する。知り合いにそういう事を頼める奴を知っている。

「ただ、計画一の場合、俺たちにキングゴブリンを倒せるわけないし、計画三の死んだことにしたら、冒険者ギルドから抹消され、冒険者稼業は終わりだな。それにタイミングよく死んだのを信じない奴らもいるだろう。一番、現実的なのは計画二の国外逃亡だと思う」と俺が説明したところ、部屋の隅っこに暗い顔で座っていたディックが手を挙げた。

「計画四を思いついた」

「おっ、何か他にいいアイデアがあるのか」と俺が期待すると、

「計画四! 死んだふりじゃなくて、もう本当にみんなで死のうぜ! 人生もういいことなんて無いしさあ~、俺はもう疲れたよ。この四人でナロード王国軍でもキングゴブリン軍団でも冒険者軍団でもどれでもいいから、特攻だ! 乱入だ! 自爆だ! ウヒャヒャ! それが面倒なら、練炭ってのを使うと楽に死ねるらしいぞ、アハハ!」とディックがヘラヘラ笑いながら言った。

「おい、ふざけてんのか!」と俺は怒ったが、ディックの奴、まだ酒が抜けていないのだろうか。

 どうやら酔っぱらったままのようだ。


「現世は苦しいことばかり~あの世で永遠に気楽に暮らそう~エターナル!」とディックがわけのわからない歌を歌う。

 ディックの体たらくに、リーダーのくせにどうしようもない奴だと俺は頭が痛くなってきた。

 首都メスト市の薬屋で買った薬をディックに飲ませてあげたいが、酒飲んでるから今はだめだなと俺が困っていると、

「まだ死にたくないよ」とゲニタルが怯えた表情を見せる。

「何言ってんのよ、あんたが一人で死ね」とオティーリエがディックにギャーギャー喚く。

 うるさい女だなあ。

「じゃあ、計画五! リーダーの俺の首を差し出せばいい。それでキングゴブリンに許してもらえ。さあ、キングゴブリンのところへ皆で行こうぜ!」とディックはヤケクソ気味で大声で怒鳴る。

「それがいい、それがいいわ! 万事解決!」とオティーリエがはしゃいでいる。

 おい、お前の兄貴だろ! と怒鳴りつけたくなったが、そんなことでオティーリエにますますヒステリーを起こさせるのも面倒なんで、ここは冷静にいくことにする。

「残念だが、四人全員の首を持って来いとキングゴブリンは要求しているはずだよ」と俺が言うと、

「何だよ、チキショー! この役立たずが」とオティーリエがディックに襲いかかって、顔面を殴りまくる。

 ディックは全然抵抗しない。

 俺が止める前に、ディックは顔面血まみれになった。

「お前、いい加減にしろよ!」とオティーリエを押さえて怒鳴ると、

「あんたが止めるのが遅いのが悪いのよ! ディックが血まみれになったのは全部あんたが悪い! あたしは悪くない! あんたがディックを殴って血まみれにしたのも同然よ!」とまたわけのわからないことを喚き散らすオティーリエ。

 この女は絶対にあやまらない。

 ディックは血まみれの顔で、また部屋の隅に座り込んだ。

 顔の血を拭く気も無いらしい。

 大丈夫かよ。


 自分が、顔面を殴って血まみれにしたあげく部屋の隅にぼーっと座り込んでいる兄には全然気にも留めずに、オティーリエがあたしに名案があると言いだした。

「最終計画! ダークファンタジーの王道路線よ! 殺戮よ! 虐殺よ! 大虐殺よ! 襲ってくる奴らは片っ端から皆殺し! ついでにリリアナ姫も殺しちゃえ!」とオティーリエはなぜかはしゃぐ。

「おい、何でお姫様まで殺すんだよ!」と俺がツッコミを入れると、

「ああ、つい勢いで言っちゃった」とオティーリエがゲラゲラと笑う。

 こいつ本当に勢いでお姫様まで殺しかねん。

「それにしても、大した自信だな。何かいい策略があるのかよ。ひょっとして凄い威力がある秘密の攻撃魔法を使えるとか」と俺が聞くと、

「あたしが使える魔法は、ファイアーボールとメガファイアーだけって前に言ったでしょ! あんた記憶力無いの! このドチビ! それに魔法は一日、三回から五回ぐらいしか使えないわよ!」とオティーリエがこの期に及んで、俺をバカにする。

「じゃあ、どーすんだよ! このたった四人のしょぼくれたパーティで戦わなきゃいけないのは、ナロード王国軍とキングゴブリン軍団、それに懸賞金目当ての冒険者の連中までいるんだぞ! 全部倒せるのかよ!」

「倒せるわよ、それにスリル満点で面白いじゃない。興奮してきたわ。背中がゾクゾクしてきた、気持ちいい! 体が熱くなってきたわ、ウフフ!」と笑うオティーリエ。


 この女はマジで頭がおかしい。

 もう、絶望的だ。

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