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第十話:指名手配

 俺はマッサージ屋から飛び出て、すぐにベスタ村に戻ろうとしたが、ディックの病気の薬を買うことを思い出し薬屋に走った。

 薬屋の扉を開けて、

「急いで、このウツナオールって薬を下さい」と店員さんに処方箋を差し出した。


 待っている間、キングゴブリンの息子を洞窟で殺した時のことを思い出す。

 俺は気絶させただけなのに、あのバカ女が殺したんだ。

 オティーリエだけ当局に突き出せばいい。

 全責任はオティーリエにある。

 何て虫のいい話はキングゴブリンには通用しないだろう。

 俺たち四人は全員共犯だ。

 どうすればいいか。

 ディックは病気、ゲニタルはオティーリエにボコられて寝たきりの役立たず、一番頼りになるのがあのいかれた女とは、何とも情けない状況だ。

 しかし、あの女の火炎魔法攻撃は確かに使える。


 それにしても、随分時間がかかってるな。

「まだですか~」と声をかけると、

「お待たせしました」と店員さんがやっと薬を用意してくれた。

「注意事項がありますが、よろしいですか」

 早く村に戻りたいので焦っているが、ディックのためだ。

 仕方が無いので店員さんの説明を聞くことにする。


「この薬ですが、約一月分で八粒あります。一粒をナイフなどで四等分して、通常は夜寝る前に一片をコップ一杯の水に溶かして、患者に飲ませて下さい」

「いちいち一粒を分けなきゃいけないんですか、最初から分けてくれればいいのに」

「少しづつ患者さんの体に慣れさせる必要があります。この薬は一度に大量に飲むと危険です。一か月は様子を見て下さい。薬が慣れてくれば、一日一粒飲むことが出来るようになります」

「大量に飲むと危険なのはショック死するとかですか」

「いえ、副作用で大暴れして周りに危害を加えるとか、逆に自殺を企てる人がいます。あと、お酒とは絶対一緒に飲ませないで下さい」

 思っていたより危険な薬だなと俺は思った。

「ペンを貸してくれませんか」と店員さんに頼んだ。

 忘れないよう俺は薬が入った袋に、店員さんが説明してくれたことを詳細にメモした。


 薬屋を出て、馬の水飲み場まで走っていくと、路上にエマが王国の衛士らしい人物たちと一緒にいるのが見えた。

「あいつよ!」と俺を指さしてエマが叫んだ。

 衛士たちが俺の方へ向かって走ってくる。

 エマの奴、当局に通報しやがった。

「おい、エマ! たれ込むなんてひどいじゃないか!」と俺は馬に乗りながら叫ぶ。

「うるせーよ! さんざんあたしを虐めやがってー! あんたら全員死ね!」とエマが怒鳴っている。

「お前を虐めてたのはオティーリエだけじゃないか!」

「あたしがあのいかれた女に三時間も頭をピンヒールで踏みつけられていたのに、見て見ぬふりしてたじゃない! 他にもいっぱいあるわ! あんたらも同罪よ!」

 まあ、エマがそう言うのも仕方が無いか。

 オティーリエが虐めに飽きたのを見計らって、いつも仲裁に入っていたからな。


「おい! お前、待て!」と衛士が叫んだ。

 そいつの足を狙って俺はナイフを投げる。

 うまく足に刺さって衛士は転倒した。

 その隙に馬を走らせて、

「バカヤロー!」とエマに罵倒を浴びせられながら俺は首都から脱出した。


 馬を焦って走らせながら、今の状況を考える。

 エマは俺たちのパーティ全員の素性を全部当局にぶちまけるだろう。

 王国政府から指名手配になるのは確実だ。

 俺たち四人は、ナロード王国軍からも、キングゴブリン軍団からも、賞金目当ての冒険者たちからも逃げなきゃいけない羽目になった。

 どうすりゃいいんだ?

 こんなしょぼい冒険者パーティで。

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