トレイラージ神殿
魔物を倒しながら地図どおりに進むと、長くて白い四本の柱が崩れて、地面にバラバラになっているのを見つけます。その奥に黒ずんではいるものの、立派な建物がありました。おそらくこれがトレイラージ神殿と呼ばれるものでしょう。入り口には赤い膜があって、その中央になにやら文字が書かれています。
魔物と人間の違いとはなにか
バーンたちは思いました。これはきっと魔女ベルーザが侵入者を阻むために作った結界なのだろうと。彼らはしばらくの間考えます。答えはいろいろありそうでした。心があるかどうか。姿かたちの差異……バーンたちが真剣に考えているところ、ガストンが突然フィーネの腕の中で駄々をこね始めました。
「どうしたの、ガストン、みんなで考えるのが嫌なの?」
フィーネの言葉を聞いたアズトールは、思いついたように語りだします。
「人間は弱い生き物。だからこそ生き抜くために考えて生きる。考えるものこそが人間で、本能に生きるのが魔物ではないでしょうか」
――ほう、それがお前の答えか。ならば精々考えるがよい
どこかからか、若い女性の声がしました。それと同時に結界がパリンと割れて、神殿の中に入れるようになります。どうやら、アズトールの答えは正しかったようでした。バーンたちが神殿内に入ります。黒ずんだ外壁からは想像できないほど、綺麗な大理石で出来た床と、鏡のような光沢を放つ壁や天井が彼らの目に映ります。
「魔女のいる雰囲気がしないねぇ。もっと奥にいるのかな?」
レティが絨毯に乗りながら、珍しく興味津々な様子でキラキラ輝く神殿の壁を撫で回します。彼はしばらくの間、あちらこちらを飛び回り、あるものを手に握ってバーンたちのもとへと戻ってきました。
「ねぇ、このバングル良いと思わないかい?」
それは、黄金のメッキが施された小麦肌のレティに似合いそうなアイテムです。しかし、アズトールは警戒したようにその装備をやめさせました。バーンも何かがおかしいと勘付いています。この中のどこかに魔女ベルーザがいるのでしょう。もしかしたらなにかの罠かもしれません。彼らはバングルを詳しく調べてみることにします。すると、バングルの内側に文字が書かれていました。
欲深きは人間の性
それを見てフィーネが二択を出します。
「ガストンにそれを壊させるか、拾ったレティが試しに装備してみるか、どうする?」
「ひゃー、フィーネ君ってば相変わらずの性格してるねぇ」
バーンは言葉の意味を考えます。欲深いということは人間の本質だ、ということと捉えるなら、正解は「装備する」なのでしょう。しかし、それを皮肉った言い回しなのなら、何が起こるのかわかりません。アズトールも一緒に考えていました。
「私は、人間は欲深いものだと思っています。しかし、欲は己だけに向けられるのではないのだとも思います。バーンさん、あなたはどう思いますか?」
バーンは、困り果てて周囲を見回しました。すると、神殿の中央に女神の銅像があるのを見つけます。それは右腕だけ上に向かって曲げられており、ちょうどバングルが通るほどの細さだったのでした。バーンは思いました。彼女にバングルを装備させるのではないかと。
試しにバーンはバングルを銅像の右腕に装備させてみました。すると、ゴーっと銅像のずれる音が神殿の中に響いたかと思うと、地下へと繋がる階段が現われます。
――さぁ、人間たちよ。無事に私のところまでたどり着けるかな
また女性の声が聴こえます。とにかくバーンたちは先に進むことにしました。