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勇者創世記  作者: 白夜いくと
第五章
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ラストバトル

 バーンたちが魔王ノワールに近づこうとしたそのとき、暗黒の霧があっという間に彼らの周囲を覆います。バーンたちはお互いの姿が見えなくなってしまいました。それどころか、魔王ノワールがどこにいるのかもわかりません。バーンはみんなの名前を呼びます。しかし、答える気配がありませんでした。彼は不安になります。このままでは負けてしまうのではないか。そう思ったとき、女神の大剣がエメラルドグリーンに淡く輝いているのに気づきました。まだ、女神の加護は消えていない。そう思ったバーンはみんなのことを強く頭に思い浮かべます。すると、彼の心の中にみんなの声が響いてきました。その瞬間、女神の大剣はエメラルドグリーンに強く輝き、魔王ノワールの暗黒の霧を押しのけるかのように消し去ります。


「ほう……少しはやるようだな。だが、これはどうだ」


 魔王ノワールは、バーンに向けて漆黒の槍を無数に降らせる、「ダークスピア」を放ってきました。それを防いだのがアシュリーの、「プロテクト」の派生魔法、「バリアー」です。その魔法はバーンたち全員を物理攻撃や魔法から守ってくれるというものでした。


「――ガストンに命じる。魔王のもとへ無数の岩の塊を放て――」


 フィーネがそう言うと、ガストンは彼女の腕の中からとびおりて、魔王ノワールのもとへと近づき、巨大化します。そして、地面を深くえぐるように、ダンっと両腕を振り下ろし、大きな岩の塊を作ると、それを魔王ノワールのところへと向かって勢いよく放ちました。しかし、それらは魔王ノワールの手前ではらはらと砕け散ってしまいます。どうやら見えないバリアーがあるようでした。


「……出でよ、ユシェルク!」


「これはどうかな、マジシャン・ウィップ」


 『アニマハール』のなかから派手に登場したユシェルクは、魔王ノワールの周囲を、鋭いカギ爪をギラリとさせて素早く飛び回ります。しかし、ユシェルクのカギ爪や突風を彼は、余裕の顔でかわします。そんな彼の足元に、クモの巣のような糸がびっしりと張りめぐらされました。それは、魔王ノワールの足に絡みつくと、彼の身体をまゆのようにグルグルと包み込みます。


「やった! とらえたわ。バーン、止めを!」


 フィーネがバーンに言いました。それを聞いて、バーンはまゆを女神の大剣で切り裂きます。しかし……


「どこを狙っている……」


 いつの間にか、バーンの後ろに魔王ノワールが回りこんでいました。そして、彼のコルクスクリューのような双角そうかくから、黒いオーラをまとった電磁波のようなものがバーンに放たれます。バーンは大きくふきとばされて、床に倒れこみました。アシュリーの「バリアー」でも、至近距離の攻撃は防げない様子。


「バーンさん!」


 アシュリーが、バーンに近づき彼に止めをさそうとしている魔王ノワールに向かって、敵一体を地面から突き出た槍で串刺しにする、「グレイブ」の派生魔法、「デーモンズペイン」を放ちます。大きな鎌を持った鬼神きしんが具象化され、魔王ノワールのもとへとスーッと魂を抜くように近寄っていきました。鬼神の鎌を片手で受け止めると、魔王ノワールは人差し指を鬼神に向けて、黒い弾を撃ちこみます。鬼神はうなり声を上げて溶けるように消えてしまいました。


「……異世界アドューラの者か。目障りだ。まずはお前から消し去ってやろう」


 アシュリーのもとへと向かって歩こうとする魔王ノワールの足首を、はいつくばって掴むバーン。それを軽く払いのける魔王ノワール。そこに立ちふさがったのがゲルティアスです。


「バーン! そして選ばれしものたちよ! きずなの力だ。()()の力を使うのだ!」


「ただこいつたちが倒れていくのを見ることしか出来なかったライオン風情がよく言ったものだ。今度は私を足止めする気か?」


 ゲルティアスは、牙をむき出しにして水晶のたてがみを揺らしました。そして、魔王ノワールに向かって飛びかかっていきます。彼らが戦っている間に、バーンは痛む身体を必死に押さえて起き上がり、みんなの心に語りかけました。


 (          )


 バーンの発したそれは、言葉にするにはあまりにも難しくて、感じるにはとても簡単な気持ちです。みんなの気持ちが一つになったとき、バーンの女神の大剣は、聖書『イミタシア』の空間を割いたような輝きを放ちました。そしてみんなの女神の装備品もエメラルドグリーンにきらめき、その輝きは全てバーンの女神の大剣のもとへと向かっていきます。彼は、底知れない力がみなぎってくるのがわかりました。


「貴様ら……一体なにをした!」


 魔王ノワールがゲルティアスをふきとばして、まばゆい輝きに眼をくらましながら言います。傷だらけのゲルティアスが、「そうか、それがバーン。お前の()()の心か……」と呟くと、床にドサリと倒れこみました。その顔はどこか満足そうです。


創造主イストワールが本当に望んでいたのは、自分の存在を認めてくれる仲間よ。アンタはそれが叶わなかった創造主イストワールのわがままから創られた偽者イミタシオンなのよ!」


「……黙れ! 死に損ないめ!!」


 魔王ノワールはフィーネに向かって大きな黒い弾を発しました。それを女神の大剣の輝きが打ち消します。それを見て退く魔王ノワール。バーンは一瞬の隙を見て、今まで習得してきた技の全てを彼にぶつけました。それらは、魔王ノワールに大きなダメージを与えます。それに追い討ちをかけるかのように、みんなも魔王ノワールに攻撃を仕掛けました。アズトールはゲルティアスの治療をするために、アカシェームを呼び出しています。魔王ノワールは、倒れこむように床に膝をつきました。


「……これが()()の力か。最後に教えて欲しい。お前たちの言うきずなの力の源は何だ……」


 バーンは、今までの旅のことを思い出します。それは、言葉にするには難しく、感じるにはあまりにも簡単なもの。バーンはそのように答えました。魔王ノワールは透明になっていく自身の手のひらを見ながら、


「そうか……偽者イミタシオン同士、仲良くできるとよかったな……」


 そう本音のようなものをこぼしました。彼が消えていくのと同時に、床に落ちていた『イミタシア』がアメジストの輝きを放ちます。魔王ノワールは、『イミタシア』のなかへと吸い込まれるように消滅しました。みんながバーンのもとへと走り寄ってきます。見事、バーンたちはまことの魔王を倒し、ファイドラントに平和をもたらしたのでした。

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