最後の役目
「作者とは、イストワールのことだ」
ゲルティアスの言葉を聞いて、みんなが驚きます。ゲルティアスが言うに、イストワール=作者は、この世界を創造した張本人なのでした。それは全て、ラストゲートで瀕死状態であったバーンたちを助けるべくとった彼女の意志なのです。そして、いつか自身の創造の世界の中でバーンたちと戦うことを夢見ていたようでした。バーンたちが旅をするなかで自分になくなってしまった心が強くなっていく姿を見る事が彼女の苦痛であり、また、希望でもあったとも言います。そして、アドューラでバーンたちが『アニマハール』を守れなくて、一度イストワールに「削除」されたことも明かしました。そのときの空間が、彼らが生まれた最初の暗闇だったのです。そして今度こそバーンたちが無事に旅を成功させられるために、イストワールが『イミタシア』を用いて彼らを導いていたということでした。
「じゃあ、私たちをこの世界につれてきたのはアンタって事? 真の魔王とアンタにはなんか関係でもあるの」
フィーネが混乱したように言います。バーンも全く状況が理解できません。すると、イストワールはゆっくりと、残った右手で『イミタシア』をバーンに渡しました。そして、こう言います。
「私の最後の役目は、あなたたちに倒されること。私は私の創造の世界で、永遠の眠りにつきたかった。でも、それをするためには私を倒してくれる勇者が必要だったのです。さぁ、その『イミタシア』を消滅させて、ラストゲートへと向かってください。私はこの世界の作者にして、真の魔王の手下として多くの者を削除してきました。しかし途中で過ちに気づき、あなたたちと接触するようになりました。ラストゲートで瀕死状態だったあなたたちを救うには、これしか方法がなかったのです。ごめんなさい……」
そう言うと、イストワールは黒い砂塵となって、風に吹かれて消えてしまいました。残ったのは、『イミタシア』と長いベージュのローブだけです。辺りを見回してみると、暗闇が迫っているのがわかりました。アドューラの縮小化が始まったのです。時間が無い。バーンたちはそう思いました。
「バーンよ。『イミタシア』を消滅させて、真の勇者として目覚めよ!」
ゲルティアスが口を大きく開けて言います。バーンは考えました。『イミタシア』は、イストワールが自身の創造の世界から見つけ出した聖書であること。この世界を創造した彼女もまた、この世界の住人であったのではないか、ということをみんなに言います。
「で、どうするの。バーン君」
バーンの答えは決まっていました。
「……! バーン、その本を読んではならない!」
ゲルティアスは声高に叫ぶように忠告します。しかし、バーンは『イミタシア』の表紙を開いてしまいました。どうしても、イストワールの「心の闇」を取り除いて、『イミタシア』を普通の本にしてあげたかったのです。次の瞬間、バーンたちは『イミタシア』の中に吸い込まれてしまいました。ゲルティアスも巻き込まれるように『イミタシア』の中へと入っていきます。アドューラは、しばらくしてなにもない暗闇に包まれました。




