女神のバングル
「ふふふ……素敵でしょ。イストワールにこの体をもらったの。これでもう寂しくないわ。大丈夫、あなたたちが死んだら、わたしたちの体に吸収してあげるから……」
ルルーネが言います。バーンは思いました。この状況は非常にまずいと。まずアルベール帝王が口から出している、薄められたマナルギーの息が、アシュリーの「プロテクト」の魔法の効果を弱めています。もし、「プロテクト」の魔法が切れてしまったら、全員がルルーネの毒霧にかかってしまう状態。それに、『アニマハール』も穢れてしまう。それに加えて、敵味方の区別ができなくなる、ベルーザの魔法……勝つ見込みは皆無でした。
「みなさん、いったん退きましょう!」
アシュリーが3回目の魔法、「メモリーワープ」を使おうとしましたが、トレイラージ神殿の入り口にベルーザの結界が張られ、逃げられません。どうやら戦うしかなさそうです。バーンは思い出しました。アルベール帝王のマナルギーを、女神の大剣が防いだことを。彼は、全員の先頭に立ちます。すると、女神の大剣はエメラルドグリーンに輝き、薄められたマナルギーが無効化されました。
「やはり役に立たんな人間は。では、殺し合いをしてもらおうか」
ベルーザが仕掛けてきます。しかし、バーンたちに見えたのは、四人と一匹の「仲間」でした。
「なぜだ、なぜ効かない……!」
バーンは気づきます。この大剣は自分の最終武器であると同時に、仲間たちの「心」を守る大剣であると。大剣は、彼らの「心」の強さと比例して、よりいっそう強く輝きました。東の孤島でバーンたちは約束したのです。お互い支えあうと。仲間たちがバーンの後ろで、合体したベルーザたちと戦っています。エメラルドグリーンに強く輝く大剣を見て、彼はある技を思いつきました。それは、あらゆる攻撃を相手にそのまま返す、その名も……
「問答剣!」
バーンの攻撃を受けたベルーザたちは、ルルーネの毒霧を浴びながら、ベルーザの魔法にかかって互いに攻撃しあいます。体力がなくなったのか、彼らはアルベール帝王の口から出ていたマナルギーとともに消滅してしまいました。ベルーザたちがいなくなったトレイラージ神殿は、大理石でできた床や、鏡のような光沢を放つ壁や天井が、キラキラと輝いています。神殿の中央には女神の銅像がありました。バーンたちは、銅像に近寄ってバングルを外そうとしますが、どうしても外れません。よく見てみると、銅像の右腕にも文字が書かれています。
魔物は人間の○○○を脅かす
人間は魔物の○○○を脅かす
よって、その差はないに等しい
それぞれの○に30以内の数字を刻め
「だいたいの答えはわかってるだけに、歯がゆいね」
バーンも、○○○に入る言葉は、「いのち」だと気づいていました。しかし、数字で答えなさいという難問に彼は頭を抱えます。ひらがなを数字化できる方法は、なにかないかといろいろ思索してみました。しかしなかなかいい案が浮かびません。バーンが女神の銅像の周りをぐるぐる回って考えていると、銅像の背中に小さく、
a→z
と書かれているのを発見します。そのことをみんなに報告すると、フィーネが、「そっか!」とガストンを抱き上げて、なにやら計算を始めました。彼女が言うには、「いのち」を、「i no chi」と置き換えて数字化するというものです。a~zは、24文字までありますから、その順番どおりに数字を当てはめていくという考え方でした。
い「i」=9
の「no」=14+15=29
ち「chi」=3+8+9=20
計算が終わり、フィーネは女神の銅像の右腕の○に、それぞれの数字をガストンの爪を使って刻みます。すると、黄金のバングルに、女神の模様が浮き出てきました。そして、それは女神の銅像の右腕から抜け出し、レティのほうへと向かっていきます。それを装備するレティ。特に変わった様子はないようでした。
「……アズトールさん。回復をお願いしてもいいですか」
アシュリーが疲れた声で言います。合体したベルーザたちとの戦いで一番体力を消費していたのは彼女でした。アズトールはアカシェームを呼び出し、アシュリーを回復させます。
「これはワイからのおまけやでぇ~♪」
気分がよかったのか、アカシェームは全員の体力を回復していきました。レティは、「うへぇ~生臭い」とほっぺたをさすります。
「女神の装備品もそろったことですし、ゲルティアスの言葉の通り、東の孤島に向かいましょう」
アズトールの言葉に、バーンたちはうなずきました。アシュリーが、「メモリーワープ」の魔法を使います。東の孤島はもう夜。空には満天の星空と消えかかりそうな月がありました。