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勇者創世記  作者: 白夜いくと
第四章
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お別れ

「おお、リリィ。無事だったか」


 オーブ鉱山の一番奥に行くと、おじいさんドワーフたちがバーンたちを迎え入れます。しかし、お互いにその表情は浮かない様子。それもそのはず。オントロンが死んでしまったのですから。バーンは、とりあえずエルフの村長に話した内容と同じ事を伝えました。


「よくわかった。だが、なぜアルベールを生かしておいた。生きていればまた悪巧みをするに違いない。アイツは欲望の固まりだ。自分が欲しいものはなんでも自分のものにしようとする。ルナ鉱石の次に、それを消化できるドワーフにへと研究の目が向けられたら、私たちにも危険が及ぶこともわかってほしいのだ……私たちはエルフと違って魔法を使えない。身を守るすべを知らない者にとって、アルベールという男はあまりにも危険すぎる」


 おじいさんドワーフの言葉を聞いて、バーンは困ってしまいます。今までの「魔物」は、人に危害をくわえるという理由で、止めを刺してきました。しかし、「人間」のアルベール帝王になると、どこか「情」のようなものがわいてくるのです。彼はただ研究熱心で、こどものようにそれを極めようとして、度を越えすぎて取り返しのつかない過ちを犯してしまった。口にはしませんが、そうバーンは思っていたのです。もしかしたら、おなじ「人間」だったから殺せなかったのかもしれない、そうとも思うようになりました。


「大丈夫よ。研究施設ユグドラシルごと破壊したから。バーンも難しい顔しないの!」


 フィーネが場を和ませるように言います。すると、リリィがレティの絨毯からぴょんっと降りて、おじいさんドワーフたちのところへと走っていきました。そろそろお別れの時間のようです。


「オーブ鉱山はワタシたちドワーフがずっとずっと守り続けていくんだ! それに、オントロンは心の中にいるぞ……みんな、これから一緒にいられなくても、心の中にワタシはいるか?」


 寂しげなリリィの問いかけに、バーンたちは軽く微笑んで頷きました。彼女の頭上には、大量の小さなルナ鉱石が星々のように煌々と輝いています。それは、東の孤島で見た星空の夜のような綺麗さでした。まるでオントロンが見守ってくれているような優しい光です。


「星は掴めそうかい?」


 レティが静かにそう問いかけると、リリィは大粒の涙を流しながら、


「……掴めるわけないだろ。バカなのか」


 と、おじいさんドワーフにしがみついて泣きじゃくりだしてしまいました。それを見て、バーンたちはそっとオーブ鉱山をあとにします。そして、リリィとの思いでについてひとしきり話したあと、バーンたちは次の目的地をどうするか考えることにしました。


「あとはレティさんの女神の装備品だけですね。イストワールは夢の中で、もうすでにレティさんは女神とは会っているというようなことを言っていましたが、あれはどういう意味でしょう?」


「また夢の話ですか。私は見ていないのでわかりませんが、一度足を運んだところへいけ、という意味ではないでしょうか」


 アズトールとアシュリーが会話をしているとき、バーンは考えていたのです。なぜ「魔物」を倒したときには、人や街を救ったというような「正義感」が芽生え、「人間」の夢を破壊したときには、多少の罪悪感……「情」が移るのでしょうか。「魔物」と「人間」の差とは何なのでしょう。その考えがよぎったとき、バーンは、トレイラージ神殿の魔女、ベルーザが残した言葉が気になりました。そして、レティが最初に発見した、女神の銅像の腕に付けっぱなしのバングルのことを思い出します。彼はみんなにそのことを言いました。


「それが正解ならいい装備品が手に入るよ。みんなだけキラキラした装備品身につけてるのはずるいからね。とにかくいってみようか、どうするバーン君?」


 みんながバーンの方を向いています。レティの質問に彼は頷きました。これで次の行き先が決まります。アズトールが、ヒューネイドを呼び出しました。その背中に乗る五人と一匹。一人減ってしまいましたが、リリィはいつでもみんなの「心」の中にいるのです。少しの寂しさと、残る思いでは胸の片隅にしまっておいて、バーンたちはトレイラージ神殿へと向かうのでした。

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