流れ星に願いを
バーンが地面に投げ捨てた大剣の柄を拾い上げます。これは、暗闇から仲間たちと光を生み出した、大事な始まりの大剣。刀身のほとんどが砕けてなくなっていても、あらためて彼はその重さを感じました。そして、大事な仲間たちを守れる力が欲しい。そう願うようになります。すると、バーンの頭の中に、黒いライオンのシルエットが浮かんできました。彼はそのことをみんなに言います。
「実はさっき私もちらっと見えたのよ。どんな顔かとかはわからなかったけどね」
フィーネがガストンを両腕に抱えながら、応えました。それは、アズトール、レティ、アシュリーにも見えたらしく、共通していたのはエメラルドグリーンに光る宝石のような瞳で彼らのほうを見ていたということです。イストワールは、ゲルティアスはバーンの心だけを見ているのではないと言っていました。もしかすれば、バーンとみんながなにか大切なことにに気づくにつれて、そのイメージが確かなものになっていくのではないかと彼らは思います。ゲルティアスは心の象徴。みんなの想いが具現化されたものなのかもしれません。つまり、今までの聖なる動物のように、姿がハッキリしているのではなくて、決まった姿が無いのではないか、そうバーンたちは考えました。
「でもなんだか、あと少しでゲルティアスに出会えるような予感がします」
「果たしてアズトール君のいい予感はあたるのか」
レティのおちゃらけた言葉を聞いて、不機嫌そうな顔をするアズトール。紅葉に隠れていた妖精たちがバーンのもとへと寄ってきて、泉の主であったルフォーレがいなくなることが寂しいと訴えかけてきます。アズトールは空白だった『アニマハール』のページを開いてみました。すると、ルフォーレの効果や性格が記されているページを見つけます。
「ルフォーレの効果は、味方全員の状態異常の回復。性格は温和なようで頑固。一度決めたら意見を変えないといった性格のようです。ルフォーレは私たちを見定めて、自分の意思で私たちの旅に付き合ってくれると約束してくれました。おそらく意見を変えることは無いでしょう。寂しい気持ちはよくわかります。ですが、どうかわかってください」
妖精たちはバーンたちを泉に連れてきたことを後悔するかのように、落ち込みました。そして、彼らを森の外に追いやると、妖精たちは「もう二度と踊ってあげない!」とあっかんべーをして、紅葉の葉を揺らしながら森の奥のほうへと飛んでいってしまいました。どうやら嫌われてしまった様子。もうこの森へは出入りできません。バーンたちは沢山丘のあった孤島の中央付近まで戻ります。しかしやはり、ゲルティアスらしきライオンの姿は見当たりません。そうしている間に夜になってしまいました。空は暗くても、孤島はオレンジ色に輝いています。そして魔物も一切出ません。バーンたちは比較的高い丘の上で、一緒に眠ることにしました。リリィは夜空に輝く無数の星を眺めては彼らを起こしにきます。それほどこの孤島の星は綺麗なのでした。そして、藍色の空に浮かぶ鼈甲飴のような三日月がバーンたちを見守るように輝きを放っています。
「雅だねぇ。思わず眠気がふきとんでしまうよ……ね。リリィ君」
レティは起こしに来たリリィを捕まえると、手のひらに彼女を乗せて、絨毯を限界まであげると、「星は掴めそうかい?」と聞きました。てっきりまたお手玉にされると思っていたリリィは、きょとんとした顔でレティを見ます。
「掴めるわけないだろ、バカなのか」
リリィの言葉に起きていた全員が笑いました。バーンは星を見上げながら、大切な仲間を守りたいと、よりいっそう強く願うようになりました。そして、自分を支えてくれる仲間への信頼の気持ち。これらを大切にしたいと思うようになります。バーンは偶然一筋の流れ星を見ました。彼は願います。仲間の無事と、仲間たちからの信頼が途絶えることのないようにと。
「リリィさん。そろそろ寝ましょう。明日にひびきます」
アシュリーが言うと、つまらなさそうにレティの手のひらから降りて、彼の絨毯の上で横になるリリィ。レティは「夜更かしも悪くないんだけどねぇ」と言いながら、彼も浮かぶ絨毯の上で横になりました。バーンたちは互いに背中を寄せ合って眠ります。彼らが完全に眠りに入ったころ、イストワールが暗闇から現われてバーンたちの姿を見ていました。
「……今度こそ、間違えてはならないぞ。バーンたちよ……」
小さな声でそう言うとイストワールは、再び暗闇の中へと消えていきます。その日の夜、バーンたちは彼の夢を見ませんでした。三日月がうっすらと消えていき、太陽が昇りはじめ朝がくる。バーンたちは陽光を浴びながら、ゲルティアスの手がかりを探し始めるのでした。




