小さな孤島
東に行くにつれて魔物の数が少なくなっていきます。ヒューネイドが、大陸を越えて広い海の上を長い時間かけて渡ると、やがて細長い小さな孤島が見えてきました。不思議な事に、その孤島は夕方でもないのに宝石のようにオレンジ色に輝いています。バーンたちは一目見て何かがありそうな予感がしました。
「どうする、降りる?」
フィーネが尋ねてきます。バーンはしばらく考えてこくりと頷きました。このままヒューネイドに乗って空をがむしゃらに動き回るよりはいいと思ったからです。それにまわりは広大な海に囲われていて、他にバーンたちが降りる場所がないというのもありました。とにかく彼らはヒューネイドから降ります。どうやら孤島のど真ん中に着地した様子。『アニマハール』へと戻って虹を空に残すヒューネイド。そして代わりに、アズトールは導きの牛、ホールスを呼び出しました。それは、彼らの進路が正しいものか確認するためです。
「大丈夫、間違いありません。この孤島の輝きは、ゲルティアスのものです。そして、浮遊のできなくなった貴方。その問題も、ここで解決するでしょう」
ホールスは、レティにここから南へ行くように言いました。ざっと見ると丘が多い孤島。フィーネがゲルティアスの居場所を尋ねます。
「ゲルティアスは心の象徴の動物。貴方たち全員が心のそこから求めれば、自然と現われます。この様子だと、イストワールに穢れさせられていないようです。想像してごらんなさい、聖なるライオンの姿を。イストワールでも見つけられないゲルティアスの姿を」
バーンたちは、心の中でゲルティアスの姿をイメージします。それは、彼らの性格と似通ったものになりました。バーンは勇敢なライオン。アズトールは優しい心を持ったライオン。レティはぐうたら居眠りしているライオン。フィーネは機転がきくライオン。アシュリーは意志の強いライオン。リリィはわがままで口の悪いライオン……みんなそれぞれイメージがバラバラです。ゲルティアスの姿を見たことがないので当然のことなのですが、いっこうに現われる様子がありません。
「……今は無理のようですね。ゲルティアスを探す前に、ここから南へと導きましょう。幸運の予感がします」
「へぇ。ホールスってアズトール君と正反対だね。これは期待していいって事かな?」
アズトールはレティに、「悪かったですね。悪い予感しか感知できなくて」と嫌味を言いました。そのやり取りを見ていたバーンは仲間割れが起こるのではないかと、ひやひやしていましたが、レティのほうは悪気があったわけではないらしく、「ごめんごめん」と謝って、その場が落ち着きます。そうこうしているうちに、ホールスはのそりのそりと南に向かって動き出しました。バーンは壊れた大剣の柄を強く握り締めて、早くゲルティアスに大剣を直してもらい、勇者として、誰よりも強くしてもらおう。そう思い続けて歩き出します。しかしその心こそがゲルティアスの存在を遠のけていたことを彼は知りもしませんでした。