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勇者創世記  作者: 白夜いくと
第三章
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長老との会話

 エルフの長老は、アズトールの持っている『アニマハール』へと入っていった、ユシェルクについて詳しく話して欲しいと言います。いきなり里のシンボルがしゃべったり、本の中に入ったりなど、そういった現象が不思議でたまらないようでした。リリィは机のふちで暇をもてあますかのように足をぶらぶらさせています。アズトールは、『アニマハール』を開いて、その効果と性格について語りだしました。


「ユシェルクは、風を切って敵を錯乱させ、鋭いカギ爪で敵の武器、主に剣などを壊すという効果があります。性格は陽気で強気。あなたたちが大切に育てていたユーシェイルクは、何年生きていますか? よっぽどその名前が気に入っているらしく、本来のハーバドスという名前を変えてまで、その面影を残したかったのでしょうね」


 それを聞いて、バーンは自分の大剣を確かめます。微かですが、毛細血管のように広がるヒビが入っていました。あのとき、ユシェルクの突風で吹き飛ばされていなかったら大事な大剣が壊れていたかもしれません。


「何年……そういった具体的な記録はないが、私がこどもの頃から同じ姿で、そのときにはもう里のシンボルとして大事に育てられていた。アズトールとやら、もう一度ユーシェイルク……ユシェルクを見ることはできないのか」


 長老が言いました。アズトールはそれに応えるように机の上に『アニマハール』を置いて、詠唱を始めました。


「それは、風の覇者はしゃ。それは、大いなる翼を持つ使者……出でよ、ユシェルク!」


 詠唱が終わると同時に、『アニマハール』の開かれたページから勢いよく上空へ飛翔しながら派手に登場するユシェルク。その姿に長老は「おおっ」と感嘆の声を漏らします。そして、席からたって長テーブルに荒々しく着地したユシェルクの頭をいとおしそうに撫でました。風圧でとばされ、落ちそうになったリリィをレティが摘み上げて長テーブルの上に戻します。


「よう、じいさん。オレを撫でてくれるのは嬉しいが、オレはそんなんで満足する猫みたいな安いヤツじゃないんだぜ?」


「フゥーー!」


 ユシェルクの言葉に反応したのか、ガストンがフィーネの両腕の中で低く唸りました。それを優しく撫でて癒すフィーネ。レティは話そっちのけで、リリィをお手玉のように両手でぐるぐる回して遊んでいます。バーンはそれらを見て全然話が進まないと苦笑いしました。


「あ、そうそう。暴走する前、もつべき勇者たちに女神の祝福を。イストワールは確かそんなことをオレに言ったなぁ」


 思い出したようにユシェルクは言います。長老とアシュリーは、同時に「一体イストワールとは何者だ」というような質問をしてきました。一緒に旅をしてきたアシュリーは、一度もイストワールの夢を見たことがありません。また、この世界アドューラがバーンたちにとって異世界であることをどう説明すればいいのかわからなかったのです。なにせ、まことの魔王がどのような姿をしていて、ラストゲートがどのような場所かもわかりません。イストワールは、バーンを勇者として目覚めさせるために作者まおうによって生み出された存在……と言っても、彼らには理解ができないようでした。


「ヒューネイドと会話をしていたときに、バーンさんは過去に作者まおうに削除された、とも言われていましたが、削除されるとはどういうことですか? そもそも作者まおうと、まことの魔王とはどう違うのですか。もつべきものに女神の祝福を、とありますが、女神の懐中時計を持っている私は、あなたたちの話によると、異世界の住人です。私は誰かにこの懐中時計を渡した方がいいのでしょうか」


「わからないのはわかるけど、質問は一つに纏めてよ」


 バーンはアシュリーの質問に何一つ答えられません。長老は歯がゆそうに話を聞いています。アズトールがユシェルクに尋ねてみると、「しらね。イストワールの野郎をぶっとばして白状させろ」とだけ言って、『アニマハール』の中へと戻っていきました。


「もつべきものに……か。お前たちに二つ頼みごとがある。聞いてくれるか」


 長老の言葉に頷くバーン。


「アルベールの侵略行為の阻止と、奴らがつくりだしたマナルギーなるものがどういうものか調べてくれ。もしこの二つを叶えてくれたら、女神の指輪をお前たちに渡そう」


「それは、あの大砲を壊して、アルベールからマナルギーについて聞き出せってこと?」


 フィーネがガストンのあごを指でこちょこちょと撫でながら長老に確認します。気持ちよさそうにガストンが「にゃー」と鳴きました。レティにお手玉にされていたリリィは、「そう言ってるだろ~コノヤロー」と目を回しながら言います。


「それでは、再びヒューネイドであの大砲のところまで行きましょう」


 アズトールが言いました。バーンは傷ついた大剣が気がかりでしたが、それを誰にも打ち明けずに大砲を壊しに行くことを決めます。それが仇となることは、今の彼にはわかりませんでした。

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