空を翔けろ!
バーンたちは何事もなくオーブ鉱山から出られます。そして、どのようにエルフの里へ行こうか考えていました。リリィが言うには、魔術師たちが来るまではオーブ鉱山にエルフたちが訪れて、ドワーフたちをエルフの里へと連れて行ってくれていたらしいのです。その際に教えてもらったのが、遥か彼方の北西に彼らの住む里があるということでした。しかしこれだけの情報では、到底エルフの里にたどり着くのは無理です。女神の指輪が絡んでいるとなると、帝都ジャミールに戻ってアルベール帝王から場所を聞くことはできません。
「ねぇ、ヒューネイドに乗って移動することはできないの? 大陸を俯瞰してみたら、意外と簡単に見つかるかもしれないわよ」
フィーネが言いました。ここは広い大陸。ヒューネイドを呼び出しても何の支障もありません。アズトールは試しに詠唱を始めます。
「それは、空を翔ける海の主。それは、虹色の祝福……出でよ、ヒューネイド!」
アズトールが唱えると、『アニマハール』から巨大な宙を浮かぶシロナガスクジラが現われました。バーンたちがヒューネイドに、背中に乗せてもらえないか頼みます。ヒューネイドは快くそれを受け入れてくれました。優しい虹色の光がバーンたちに降り注ぎます。そして彼らはその光の力によって、大きなヒューネイドの背中に乗ることができました。不思議な事に、まるで磁石のようにヒューネイドの背中にくっついて離れません。転落の危険性はないということです。
「我を使ってどこへ行きたい?」
「ここから遥か北西にある、エルフの里まで運んでください。案内役はこのリリィというドワーフの女の子です」
「オマエ、こんな凄いことできるのか。クジラが本の中から出てきた! イストワールみたいだ」
初めての経験に、リリィがレティの絨毯の上ではしゃいでいました。バーンたちはイストワールと聞いて、夢の中の出来事を思い出します。彼は、『アニマハール』を消滅させようと思えば、いつでもできると言っていました。ならどうしてそれをしないのでしょうか。それに、レティは既に出逢うべき女神に出逢っているという言葉も気になります。しかし、今はエルフの里を探すことを優先しようとバーンたちは考えを切り替えました。
「レティ。いまのところアンタが一番役に立ってないんだから、今度はちゃんとやる気出してよね」
フィーネが苦言を呈します。
「大丈夫。こう見えて隠れて特訓してるんだよ。そう言う君こそ一辺倒な戦い方ばかりで、ガストンを使いこなせていないんじゃないのかい?」
それを聞いて、フィーネは拗ねたように口を尖らせました。レティは口笛を吹いてリリィのほっぺたを軽くつつきます。彼女は馬鹿にされたように感じたのか、レティの服を引っ張りながら様々な暴言を吐きました。このままでは埒があきません。バーンはヒューネイドに、北西へ向かうように頼みます。すると、ヒューネイドは高く浮かび、潮風のような心地よい風とともに、広大な大陸の空を翔けるのでした。
「ひゃー、気持ちいいねぇ」
レティがリリィに向かって話しかけます。しかし彼女は、ムスッとした表情で、レティを小さな足で蹴っていました。痛くも痒くもないといった彼の表情に、リリィはさらに怒りに満ちていきます。アズトールはそんな彼らをなだめるように説法をしましたが、レティは聞く耳持たず。リリィは、「うるさーい!」とさらに機嫌が悪くなってしまいました。さて、エルフの里は一体どこにあるのでしょう。ヒューネイドは大陸に大きな影を作りながら、北西へと向かっています。その途中で、大きな大砲らしきものを発見したバーンたち。あれは一体何なのでしょうか。ちょうどバーンたちが進む方向に向いています。彼らはどことなく悪い予感がしましたが、このままエルフの里を探すことにしました。