神秘の森にて
バーンは辺りを見渡します。それはもう様々な木々や草花が生い茂っていました。鳥はさえずり、近くの小川は程よくせせらぎを聴かせてくれます。その心地よさに彼は酔いしれるかのような感覚になりました。それを遮ったのは、アズトールの、「あの……」という小さな声でした。
「このままでは魔王のいるところにたどり着けません。きっと魔王は私たちにこのような幻を見せて、足止めをしているのではないでしょうか。私たちはここから出る方法を考えなくてはいけないと思います」
バーンは魔王が何者なのか尋ねます――
気がつけば、バーンはアズトールに先ほどと同じ言葉をかけられていました。眠っていたのでしょうか。今度は質問を変えます。一体どうすればいいんだ、と。すると、地べたに寝そべっていたレティが絨毯とともにゆっくりと浮き上がり、胡坐をかいて話しだしました。
「こんな神秘的な森には神聖な動物の主がいそうだねぇ……捕まえておくかい、アズトール君」
「仲間にする、と言ってください。でもこの本には欠けたページが沢山あります。魔王に抜き取られたのかもしれませんね。もしこの森に主がいたとして、私たちの言葉に耳を傾けてくれるなら、魔王のもとにたどり着く何らかの導きをしてくれるかもしれません」
フィーネは興味なさそうにガストンを両手に抱えながら二人の会話を聞いています。バーンはいまいち状況が飲み込めていないようでした。
「要は、この森の主を探してここから出る方法を聞きだすって事よ。それぐらいわかってよね。ね、ガストン」
ガストンの頭の毛をツンと立たせながら、フィーネはバーンに向かって言います。ちょっと小馬鹿にした言い方だったので、彼は彼女のことが少しだけ嫌いになりました。睨みを利かせると……
「フゥーーッ!」
と、ガストンが威嚇してきたので、バーンは慌てて目線を逸らしました。その反応にフィーネは「あははは、バーンってば面白いー!」とガストンの頭を撫でながらケタケタ笑います。その様子を見ていたアズトールとレティは、「やれやれ」と方や呆れたように、方や楽しそうに呟きます。
「いいですか、バーンさん、フィーネさん。これは、魔王を倒すための旅なのですよ。いわば試練です。これを乗り越えなければ、私たちに自由は訪れないのです。真剣に考えてください」
「おやまぁ、アズトール君。君はいつも真面目だねぇ。でもそういう人間に限って早く死んでしまうんだよ。魔王の力によってね」
再びバーンは魔王についてみんなに問いかけました――
やはり気がつくと、レティがアズトールに忠告している場面に戻っています。どうやら今は、この森の中を探索してみるしかない、とバーンは思いました。胸につかえたモヤモヤを抱えつつ、彼らはこの神秘の森に住んでいるであろう聖なる動物の主を探すために、動き始めました。