どっちが被害者?
ドワーフたちが言うには、オーブ鉱山はもともとドワーフたちの住処だったそうです。彼らはルナ鉱石を食料とし、また魔術師の杖の装飾品に加工して帝都ジャミールとの対等な交流もしていました。しかし、日に日に魔術師たちの要求が傲慢なものになっていき、それに抗議をしたところ彼らは無抵抗なドワーフたちに魔法を放ってきたといいます。困ってしまった彼らの前に突如現れたのがオントロンでした。それは、魔術師たちを追っ払ってくれたのだそうです。
「オントロンはただ食料を探してただけかもね。もしかして君たちとかさ」
レティが冗談めいて言いました。
「オントロンはそこらへんの石を食う。それに、人間や私たちドワーフにも危害も加えない。ただくしゃみが大きくて困る。そうだ、確かオントロンが来た日に一緒に居たじいさんが、ここに勇者が来るとか言っていたな。分厚い本を持っていたのを覚えている。名前は確か……イストワールだったか」
ドワーフのこどもたちにまぎれて、一回りだけ大きいちょびひげを生やしたおじいさんドワーフが応えます。イストワールという言葉を聞いて、バーンたちは驚きました。その後彼がどこへ向かったか尋ねると、「幽霊のようにどこかへと消えてしまった」とおじいさんドワーフが答えます。バーンは思い出しました。イストワールは、このアドゥーラを自由自在に行き来できるのだと。もしかすればこれも、バーンが勇者に近づくために仕掛けられたものではないかと彼は思います。しかしなぜ、オントロンをオーブ鉱山まで連れてきたのか。バーンにはそれがわかりませんでした。
「そもそもアルベール帝王は、大量のルナ鉱石を採掘して何の研究をしようとしているのでしょう。地下迷宮の出口にあった地下の研究室の輝きもルナ鉱石のものに似ていました……何か悪い予感がします」
「アズトール君の悪い予感は当たるからねぇ……」
レティが浮かぶ絨毯の上で胡坐をかき、両腕を頭の後ろにやります。
「アイツらは魔法でこの大陸を支配しようとしてるんだ!」
さっきのハスキーな声の女の子のドワーフが言いました。話を聞いてみると、加工されたルナ鉱石を杖に装飾した分だけ、使える魔法が大幅に増えるようです。その間も、オントロンは静かにバーンたちとドワーフたちの会話を見守っていました。もし仮に、ドワーフたちの話が本当ならば、魔術師たちはこの大陸のどこを支配したいのでしょう。
「きっとエルフの里にある、女神の指輪を奪い取るつもりなんだよ。あれ、ものすごい力を秘めたオーパーツだってエルフのおじちゃんがいってたもん!」
一人のドワーフのこどもが興奮気味に話します。彼が言うには、エルフの里には強力なバリアーがはってあって一級魔術師やアルベール帝王でも侵入することができないようにされているのでした。それはエルフが人間を嫌っていたからです。唯一交流のあったドワーフたちだけがエルフたちの宝具である、女神の指輪の存在を知っていましたが、魔術師たちに脅されてついそのことを吐いてしまったのでした。
「女神の指輪……気になりますね。もしかしたら、私たちをエルフの里へ導くために、イストワールはオントロンをオーブ鉱山へ連れてきたのでしょうか」
「そこにも穢れた動物がいたりして」
フィーネが若干疲れたように言います。
「そこの小さな魔術師。この者らとエルフたちの大事な女神の指輪を守ってくれると約束するなら、魔術石を杖に施してやっても構わんぞ。少々時間はかかるがな」
魔術石とは、杖に装飾する加工されたルナ鉱石のことでした。アシュリーは少し迷いましたが、杖をおじいさんドワーフに渡します。加工には一晩かかるようで、バーンたちはオーブ鉱山の中で一夜を過ごすことにしました。オントロンの厳つい視線を感じながら。




