寝れない野宿
バーンとアズトール、レティの三人は、背中を貸し合って眠っているフィーネとアシュリーを見ています。ガストンは、光を放つホールスの横で身体を丸めてすやすやと眠っていました。幸いここにいる魔物はそれほど強くもなく、数も少ないため、必殺技を使う必要はなさそうです。余裕が出てくると、無駄話がしたくなるもの。レティは地下迷宮での、バーンとフィーネのやり取りを話してはニヤニヤしていました。
「まるで恋人みたいだったねぇ。ありがと、だってさ」
バーンは大剣の手入れをしながら赤面になります。アズトールはクスクス笑って、「意外と紳士なのですね。バーンさん」と言いながら、ホールスの頭を撫でていました。気持ちよさそうに目を閉じるホールス。そして、話題は四人と一匹が同時に見たイストワールの夢の話へ。
「同じ夢を私たちだけが見るというのも不思議な話です。もしあれが本当なら、私たちは『イミタシア』と『アニマハール』どちらかの消滅をかけて、イストワールと戦うことになるかもしれません。でなければ、真の魔王がいるラストゲートへと行くことができないのですから」
「月が目を閉じ……っていう言葉も気になるねぇ。それに、フィーネ君が装備しているネックレスや、アシュリー君がローブのポケットにしまっている懐中時計。あれ、同じ顔した女神の模様だけど、なにか深い意味がありそうだねぇ」
「でもアシュリーさんは、アドゥーラの住人ですよね。私たちの旅に巻き込んでいいのでしょうか」
二人の会話を聞きながら、バーンはフィーネとアシュリーのほうを見ます。すーすーという静かな寝息が聴こえました。ふと月を見上げます。空には少しだけ欠けた丸い月が浮いていました。そこに一筋の流れ星が。バーンはとっさに思います。このままみんなとともに旅を続けられたらいいのにと。確かに旅には危険が沢山ありました。しかし彼は、そのたびに強くなる自分というものを実感して、心地よささえ感じているのです。
「バーンさん? 目の前に魔物がいますけど……」
アズトールに言われて、慌てて大剣を振りかざすバーン。そうこうしているうちに、交代の時間がやってきました。バーンが声をかけると、フィーネはガストンを起こしに、アシュリーは杖を握って、「サンライト」の魔法を使います。
「おかげさまでよく眠れました。次の交代までまかせてください」
「寝てる間、ガンガンいうかもしれないけど、ちゃんと眠っててよね」
フィーネの言葉に、レティは「問題ないケロー」と、陽気に応えました。しかしいざバーンたちが寝始めると、ガストンの攻撃音や砂埃でろくに寝れたものじゃありません。騒音に気をとられている間に交代時間が来て、そのたびに同じような会話を繰り返すようになり、三人は徹夜を覚悟します。
「なにが、問題ないケロー、ですか。目の下のくま。すごいですよ」
「アズトール君、そう言う君も人のこといえないよ」
二人が同時にあくびをしました。月が磨り減っていき、オレンジ色の朝日が射し込むころ、三人は寝不足でふらふらです。そんな彼らを見てフィーネは、「じゃあ、オーブ鉱山へゴー!」と言いました。へとへとになっている三人は、そんな彼女を見て恨めしそうに心の中で鬼のようだと思いました。