暗闇の世界、アドューラ
あなたこと、バーンには暗闇が広がっています。それは生まれる前の胎児の世界そのもの。唯一あるのは、両手に握り締めた大剣のみ。作者は語りかけます。
「私のところへ来たかったら、この暗闇を断ち切りなさい。この空間は私の心そのもの、名付けるならばアドューラ。さぁ、その大剣で私の創造の世界をこじ開けておくれ」
バーンは思いっきり大剣を振り下ろしました。すると、暗闇の中に一冊の分厚い書物が現われ、輝きながらゆっくり彼の方へと向かっていきます。そこに記されていたのは、幾何学的な魔方陣と神々しく描かれた動物の絵でした。バーンがその本を手に取ろうとすると、
「それは私の本です」
と、弱々しい少年の声が聴こえてきます。蝋燭の火のようにぼうっと目の前に浮かんできたのは、真っ白な修道服を着たどこか女々しい男の子でした。バーンは彼が何者か尋ねます。
「私の名前はアズトール。この聖なる書物とともに産まれた者です。そして、バーンさん。思い出してください。あなたは私たちとともに、魔王を倒しに行く使命を持った仲間です。さぁ、この暗闇の世界から抜け出すために、その大剣をもう一度振るってください」
意味は分からなかったバーンですが、どうやら大剣を振るえば何かが生まれると知った彼はもう一振りします。次に現われたのは赤い絨毯に寝そべっている上半身裸の小麦肌の男でした。長い黒髪が一匹のへびのようにうねっているのが印象的です。男は二人に気さくに声をかけてきます。
「やぁ、バーン君にアズトール君。レティだよ。覚えているかい? ありゃ、フィーネ君とガストンがまだみたいだねぇ。もうわかっているよね。バーン君……」
うなずいて、大剣を暗闇に叩きつけるように振るうバーン。すると、バーンの足元になにやら温かな感触がありました。そこにはギラリと金色に光る二つのビー玉のような小さな目があります。
「私たちが最後なんておかしいわよね。ね、ガストン」
ツインテールの少女がバーンの後ろに現われ、彼は驚きます。その姿を見て「っふふ」と笑みを漏らしながら、少女はバーンの足元の物体を両手で大事そうに持ち上げます。
「にゃー」
正体は黒猫のようでした。
「これで全員揃ったわね。私はフィーネ。この猫はガストン。バーンが覚えてなくても、私たちはアンタのことを覚えてるから。さぁさぁ、早くその剣で魔王の創った封印をといてよ」
バーンはわけもわからず、大剣を振るいました。すると……
暗闇は大剣に吸収されるように渦を巻いて消え去り、バーンたちは緑豊かな森に立っていました。木漏れ日を眩しく感じたバーンたちは目を手で覆います。
それは、彼らが久しぶりに見た光。
そして、彼らがこの世界に来た本当の理由を捜し求める冒険が始まった瞬間でもありました。