灯台での会話
「デビドは逝ったか」
フィウスはバーンたちに一言そう言うと、今度はアシュリーに向かって、「ようチビ。俺に復讐でもしに来たか」と尋ねます。フィウスもアシュリーの存在を知っているようでした。呼びかけられた彼女は、ローブのポケットから女神の懐中時計を取り出して、彼に見せます。
「……親友であるデビドの言うことを無視し、そのうえ、私を荒れ狂うティマス海に投げ入れ、あの状況の中でこれを奪いとった理由は何ですか。まさか帝都ジャミールに入るため、とは言いませんよね。海賊風情が」
フィウスはアシュリーに近寄って、ローブのフードをめくりました。彼女の白い肌に、左目の痣がはっきりと浮かんでいます。アシュリーはフィウスを怒りに満ちた形相で睨んでいました。フィウスもアシュリーの動向を注視している様子。見かねたフィーネが、彼らを止めに入ります。そして、フィウスにティマス海へ出港してもらうように言いました。
「おう、手続きはできてるぞ。なんなら今すぐ出港してやる」
「今度はこの人たちを犠牲にするつもりですか! そんなの許しません」
アシュリーがフードを被りなおして、フィウスに詰め寄ります。すると彼は、彼女から女神の懐中時計をサッと奪い取って、「ならチビ。お前がこいつらを守ってみろ」と鼻で笑いました。大きな身長差で、奪い返すことができなかったアシュリーは、声を荒らげて、「返して!」と、高く上げられたフィウスの腕を杖でトントン叩いています。しかし、フィウスは痛くも痒くもない様子で、「がははは!」と大きな口をあけて笑っていました。
「フィウスさん。悪ふざけはよして返してあげてください。それに、アシュリーさん。ティマス海をフィウスさんと渡ったことがあるのですね。どうして言ってくれなかったのですか。いろいろと因縁があるとは思いますが、ここはおさえてください。私たちは魔王退治のために急いでいます。そのためには力も足も必要です。アシュリーさん、どうか一緒にティマス海へと同行してくださいませんか」
「なにかあったらアシュリー君の魔法でここに移動すればいいんじゃないかい。ね、海賊のリーダーさん。意地悪する君は対象外かもしれないけどさ」
アズトールとレティの言葉を聞いて、フィウスはばつが悪そうに女神の懐中時計をアシュリーに返します。一方彼女の方は、「一つ条件があります」とバーンたちに言いました。それは、彼女をティマス海を越えた先の大陸にある、帝都ジャミールへと送り届けることです。彼らはその条件を聞き入れました。
「じゃあ、お前たちは船の居住区に行っててくれ……今度こそ本当に最後の晩餐になるかも知れんぞ」
フィウスは眼帯を直しながら、灯台から船着場へと向かいます。バーンたちもそのあとを追いました。その間も、「見えざる目」はどこかで彼らを見ています。いずれバーンたちはその存在を知ることになるでしょう。