汚染された街
街は閑散としていて、人っ子一人いませんでした。しかし一方で、野良猫や野良犬は多く見られ、それらは地面の黒い水たまりを舐めています。そんな光景を眺めながら、バーンたちは重要なことに気づきました。デビドという者の居場所がわからないということです。
「それならガストンにまかせて。ガストンは猫となら会話できるから」
フィーネは野良猫から情報を得ようと、もともとは真っ白なはずの墨色の太った野良猫のもとにガストンを向かわせます。なにを話しているのかはわかりませんが、しばらく、「にゃーにゃー」と互いの鳴き声が続くと、ある場所へと墨色の猫はのそりのそり歩き出しました。バーンたちもついていきます。着いた先は、街の病院でした。
「にゃー」
墨色の猫はそう鳴くと、バーンたちから離れていきます。屋根があったので一度グリューンを、『アニマハール』へと戻し、彼らは中に入ることにしました。そこは地獄絵図のようです。満室の病院に響き渡る人々のうめき声。そして、白目が黒く変色した人や、黒い血を吐く人。看病している医師たちも病気にかかっている状態でした。
「……あなた方は?」
声をかけられ振り向くと、術士とみられる女性が立っています。彼女は病気にはかかっていないようでした。話を聞いてみると、彼女がこの街に来たのは二日前で、「アシュリー」という女の子を捜しているのだそう。
「わたしの名前はルルーネです。どうか一緒にアシュリーを捜してくれませんか?」
「その前に、ここにデビドって人はいないかい?」
「いますけれど、だいぶ病状がよくないみたいで」
バーンたちはルルーネに案内された部屋に行きます。そこには沢山の病人が所狭しと床に伏せ、中には息絶えている人もいました。バーンはデビドの名前を呼びます。すると、
「誰だ……畜生、俺を地獄にでも、落としに来たか……」
バーンはアズトールにアカシェームを呼び出すように言いました。機嫌がよかったのか、アカシェームは無事に現れ、デビドの頬にぶちゅっとキスをすると、『アニマハール』の中へと戻っていきます。どうやら体力は回復した様子。しかし、病気は治っていないようでした。
「畜生、目覚めが悪い! お前たちはなんなんだ。フィウスの回し者か?」
「落ち着いてください。あなたはまだ病気です。そんなに動いたら……」
ルルーネがデビドの腕にそっと触れます。すると、元気になったはずのデビドの病状が急変しました。そして、数秒後に息を引き取ります。何かがおかしい、バーンたちはそう思い、ルルーネに問いただしました。
「ふふふ、わたしは黒霧のルルーネ。そう、あなたたちの思っている通り魔物よ。でもこんなところで戦ったらどうなるかしら? わたしはいいのよ? 人が死に逝く様をじっくり見るのが楽しいのだから。でも、一人だけわたしの邪魔をする女の子がいてね……アシュリー。その子が使う魔術はわたしの黒霧の効果を無効化させちゃうの。だから見つけ次第殺さなきゃね。ふふふ。もしわたしのおうちに興味があったら、ここから南の峠に来てちょうだい。あなたたちも醜く汚くじっくり殺してあ・げ・る」
そう言い残して、ルルーネは病院から出て行きます。フィウスとの約束を果たせなかったバーンたちは、敵を討つために、ルルーネを退治することに決めました。