ドジな乗組員
室内では、乗組員たちがガヤガヤと騒ぎながら祝杯をあげていました。バーンたちの姿を見つけた彼らは、バーンたちを招き、化け物退治のときの話を事細かに聞いてきます。
「……お荷物たちが一番盛り上がっててどうすんのよ」
フィーネは呆れた様子でポテトチップスを口に含みました。ガストンが「にゃー」とねだるように甘えた声を出すので、彼女は銀の皿にミルクを注いで、ガストンに与えます。バーンは化け物退治の時の様子を思い出しました。フィウスのあの戦闘能力……只者でないのが一瞬でわかります。そのことを乗組員たちに言うと自慢げに、
「さすが、我らがリーダー! 万歳ー!」
と、酒を浴びるように飲みだしました。かなり酔っているようです。そして、「なにか芸をしろ」とバーンたちへ無茶振りをしてきました。困ってしまったバーンは、アズトールにあのよくしゃべるタコ、アカシェームを呼び出すように言います。理由はなんとなく面白そうな動物だったからでした。
「私の聖なる動物をおもちゃにしないでください」
アズトールは『アニマハール』を背中に隠して、アカシェームの性質について語りだします。それは、味方一人の体力を全回復するといったものでした。しかし、アカシェームは気分屋で、疲れているときや機嫌が悪いとき、落ち込んでいるときには召喚できないようです。
「……ちょいとその本を見せてもらおう」
フィウスが『アニマハール』に手を伸ばします。その気配は全くありませんでした。いつ室内に入ってきたのでしょう。いち早く気づいたレティが彼の手を、くもの糸のようなもので拘束します。しかし、その腕力は凄まじく、もう片方の手で引きちぎられてしまいます。
「あちゃー、結構本気で縛ったんだけどねぇ」
レティが頭に手をやり、フィウスに向かって
「そろそろ獲物が欲しくなったのかい? 海賊のリーダーさん」
と言いました。「海賊」と聞いた乗組員たちは急に表情を変えて、武器を手に取り、バーンたちを取り囲みます。フィウスを含めて20人ほどいました。しかし、その半数ほどは酔っ払っていて、地鶏足で向かってきます。なかには、バナナの皮を踏んで転んだ者もいました。
「こんなので私たちを倒せるとでも思ってるの、怪力おじさん」
フィーネがガストンを両腕に抱いて、バカにするように言い捨てます。すると、フィウスは「誤解だ」と呟いて、バーンたちのほうへと近寄ってきます。そして、
「その本の中に載っている動物の力を借りたい。ルーヴィア港のすぐ側にテニートという街がある。そこに知り合いのデビドという病人がいてな。やつの病を治して欲しい。その間に、ティマス海へ出港する準備をしておく……それを伝えたかった」
「そうだったのですか……お気の毒に」
「海賊というのは否定しないんだね。本当は欲しいんじゃないの、『アニマハール』が」
レティは乗組員たちとフィウスの顔をまじまじと眺めながら、バーンにどうするかを尋ねました。嘘かもしれない情報。しかし、彼らが嘘をついて何の得になるのでしょう。ここはフィウスの言葉を信じて、ルーヴィア港に着きしだい、テニートという街へと向かうことにしました。