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君だけと過ごす夏休み  作者: なそら
4/4

3日目

 夢を見た。


 昨日の出来事のようなのに、はるか昔のように感じられる、そんな夢。


 夢の中で僕は、どこか知らない街にいた。

 周りには僕と同じぐらいの年齢の男子達。

 そして何故か、僕は涙を流していた。


 そこからいきなり景色が飛び、神社の鳥居の前に立ち尽くす僕の姿が見えた。

 夢の中での視点が、立ち尽くす僕のものへと移る。


 そして僕は見た。


 僕の目の前に立つ、あの少女の姿を。

 僕がその姿を認識すると同時に、少女は口を開いた。


 なんと言ったかは聞き取れなかったが、口の動きだけは見て取れた。





「いらっしゃい」






 そんなことを言っているように見えた。


 そこで僕は目が覚めた。

 頭が割れるように痛い。変な夢を見てしまったからだろうか?


 まぁ、いいや。


 頭が痛いなんて些細なことだ。そんなことより、今の僕にとっては少女と会うことの方が大切だ。それを考えたら痛みなんてどっかにいってしまう。


 着替えて靴を履き、家を出る。


 神社までの道は、三日目ということもあって特になにも感じなかった。

 まだ9時過ぎだったから人もあまりいなかったし。


 神社に着くとやはり彼女はいた。


「あら、奇遇ね。私も今ついたところよ」


 ほら、やっぱりね。約束なんてしなくても僕達は同じ時間に集まれる。


「あぁ、そうなんだ!じゃあ、あの穴の所に行こっか」


「そうね、そうしましょう」


 秘密基地の元となる場所の姿は、最後に見た時と何も変わっていなかった。まぁ当たり前か。


「まずはこれを付けてちょうだい」


 彼女に昨日と同様、小型の懐中電灯を渡される。


 体に何かをつけるのはあまり好きではないのだが、彼女から渡されるものならなんでも付けられる気がする。


「次はこれを持ってちょうだい。私はランタンを持って入るわ」


 次に渡されたのはハンマーと小さなフック。どうやらフックをハンマーで穴の天井に打ち付け、そこにランタンをつけるつもりらしい。


 思っていたよりも本格的で少し驚いた。


 しかし本当に僕を驚かせたのは、穴に入ろうとした時に聞こえた、彼女の呟きだった。


「とりあえず今日はランタンを設置して……完成までにはあと4日ぐらいかかるわね……」


 ……秘密基地作りに、4日。まぁ、3時までしか遊べないしそれぐらいが妥当なのかな…。

 あと4日、頑張ろう!


 ちなみにだけど、時計を見ると時刻は11時30分だった。つまり今日の作業時間は3時間と30分だけ。


 3時間半と言うとすごく短く感じる。でも、3時間半ぶっ通しで作業をすると考えるととても長く感じる。


 考え方によって感じるの長さが変わるなんて、時間って不思議だなぁ…などと考えながら穴に入ると、ひんやりとした空気が足元を流れてきた。


 前を見ると、なんだか少し自慢げに見える彼女の顔。

 彼女の足元を見ると、いくつかのドライアイスが綺麗に並べられていた。なるほど、彼女はほんとに用意周到だなぁ…


「うふふ、いいでしょ、このドライアイス。これできっと作業効率も上がるわ」


「うん、そうだね!ありがと!でも、アオイちゃんはいつこんなもの用意したの?」


 率直な疑問を口にする。


「そんなの簡単な話よ、朝たくさんアイスクリームを買ってきたの。そうしたらたくさんドライアイスが貰えるでしょう?え?アイスはどうしたかって?食べたわけないじゃない、ちゃんと家に置いてからここへ来たわ」


「なるほど、わざわざありがとね!でも、いつドライアイスを並べたの?さっきまでなかったような気がするんだけど…」


「見ていなかっただけじゃない?現に私はさっきドライアイスを並べたわけだし。秘密基地作りを提案したのは私なわけだし、これくらいするのは当然よ。さぁ、作業に取り掛かりましょう」


 そっこ、さっき並べてたのか…。

 だとしたら僕は観察力が無さすぎるな、今度から気をつけないと。


「では、とりあえずフックを天井に取り付けて貰えるかしら?」


「おっけー、任せてよ」


 左手に持ったフックを右手に持ったハンマーで天井に叩きつけようとしたその時、まるで作業開始の合図のように12時の鐘がなった。




 カン、カン、カン、カン。


 静かな穴の中、金属の触れ合う音だけが響く。


 ドライアイスが並べられているとはいえ、やはり穴の中は作業をしていると少し暑く感じる。


 汗が流れ始めてきたため服で顔をふこうと思ったのだが、僕に向かって突き出されているタオルの存在に気づく。


「これ、使っていいの?」


 念の為確認する。

 だって、もしこれが僕のためのタオルじゃなかったらこれは彼女用のものってことだろう?女の子のタオルを勝手に使う、しかも汗を拭くために。そんなことしたら変態認定確実じゃないか!


「もちろんじゃない。これはアオイ君の為に持ってきたタオルよ」


「ほんと?ありがとう!明日洗って返すね!」


 良かった、これは僕のためのタオルだった。

 女の子にタオルを用意して貰えるなんて幸せだなぁ…。

 いっそ、これを返す時に新品のものと取り替えて、このタオルを永久保存してやろうかと思ったが、バレたら怖いのでやめることにした。

 なんとしても嫌われることだけは避けたい。


 そんなこんなで作業は進んでいき、全てのランタンを設置した頃、時刻は2時半をまわっていた。


「3時よりまだ少し早いけど、今日はもうこの辺にしておきましょう。ランタンも全てつけ終わったから今日の目標は達成したことだし」


「そうだね、じゃあ帰ろっか」


 本当は帰らずにまだ彼女と一緒にいたかったが、彼女が帰ろうと言うのだから仕方ない。

 なに、夏休みはまだまだ長い。今無理に一緒にいようとする必要は無いさ。


 彼女にハンマーを手渡し、彼女がそれをリュックにしまい終えた時、背後から声をかけられた。


「君、ここで何をしているんだ!」


 振り向くとそこには、神主の姿をしている大人の男の人がいた。


 あれ、変だな…。僕が知っている神主さんはもっとお年寄りなんだけど…。


 僕の顔を見て何かに気づいたのか、その人は一瞬顔を歪めた。


「あっ…君か……」


 彼はそのまま言葉を続けようとしていたが、何かを思い出したかのように口を閉じた。


 そして、いかにも業務的な口調で告げた。


「ここは遊び場ではないんだ。ほら、早くそこのリュックを持って家に帰りなさい。二度とここで遊んではいけないよ」


 はい。と答え、大人しくリュックを背負い、その場をあとにした。


 あぁ、あそこが使えないなんて…。いったい明日から彼女と何をして遊んだらいいんだ…。そんなことを考えながら家に帰っている時、ある重要なことを思い出した。






 あれ、彼女はあの時どこにいたんだ…?

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