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君だけと過ごす夏休み  作者: なそら
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1日目

 ある夏の日のことだった。


 それは夏休み初日で、太陽が朝から夜まで、ずっと照り続けている、まさに夏、って感じの、そんな日。


 僕は近所と呼べるほど近くはない、ほんとに少しだけ離れている神社へ向かった。起きてすぐ。半分寝ぼけた状態で。


 行くことは夏休み前から決めていた。

 正確には、去年の夏休み最終日からずっと、行こうと思っていた。


 そして僕は、神社に着いた。

 もちろん、途中で異世界に飛ばされたり……なんてことは無い。願いもしない。

 確かに昔は願っていた、いつか異次元に飛ばされてラノベ主人公みたいになりたいな、なんて。でも、僕はもう現実を知っている。

 いや、現実はずっと知っていた。ただ、それを事実として認めたのが最近、ってだけ。


 ここの神社のことを知ったのは、去年の夏休み最終日。

 だけど、その日の記憶はあまりない。

 ただ、気づいたら神社の鐘の下で座って本を読んでいたこと。家に帰る途中に見た、その日の夕焼けはとても綺麗だったこと。それだけは覚えている。




 神社に着いてすぐ、僕は賽銭箱にお金を入れ、目を瞑って礼拝をした。なにかお願いしたり、なんてしない。特に願い事なんてないから。それに、神に頼るということは、自分ではそれをすることが出来ないと認めることだから。


 礼拝を終え、僕は本殿に足を踏み入れた。

 僕はここの構造がとても好きだ。ここの大黒柱には、とても立派な杉が使われている。その太さと言ったら、大人の男の人2人が両手を繋げても囲めないぐらい。この杉は、元々この神社の神木だったらしい。大きくなりすぎたから伐採され、木材になったそうだ。

 そして変わったことに、この杉にはまだ枝が残されている。その枝も立派すぎて、切るのが勿体なかったから残してあるらしい。


 1度この枝の上に座ったことがあった。

 その時は、この神社にはめったにいない神主さんに見つかり、降りろと怒られてしまった。

 怒られなければ僕はきっと、あと2.3時間は座ったままぼーっとしていられただろう。

 それぐらい、安定感と安心感のある枝だった。


 本殿の中を一通り見回した後、今度は神社の周りを回ることにした。ここの神社は山の奥に建てられており、周りを見るだけでも少し、異世界にいるかのような感覚を味わえる。

 雑草が茂っているわけでもないのに、足元まで緑が絶えない。

 周りを見渡すと、一面に広がる竹やぶ。

 そして、四隅にそびえ立っている杉の木。

 ほんと、なんでドラマの撮影に使われたり、アニメの聖地になったりしないのか不思議なぐらい美しいところだ。


 一通り周りを見回った後、もう一度本殿に入ろうと靴を脱ごうとしたその瞬間、彼女は僕の前に現れた。それが僕の本当の夏休みが始まった瞬間だった。



 彼女はまるで、妖精のようだった。

 透き通っているかのように白いロングヘア。

 すべてを見透かしているかのような淡い緑色の目。

 それでいて常に微笑んでいるように見える口元。

 そして何よりも印象的なのは、身にまとっている白いワンピース。

 それがより彼女の不思議さ、もとい妖精らしさを際立たせていた。


 そんな彼女の姿に、僕は見とれてしまっていた。だって、彼女の姿は僕の理想の女性像そのものだったから。


「貴方、名前はなんて言うの?」


 彼女の声で、ふと我に返る。


 そして、数秒後、その声が自分に向けられたものであること、しかも自分への質問であることに気づいた。


「僕の名前…君こそ、名前は?君はなんて言うの?」


 なぜだか、自分から名乗る気にはならなかった。

 僕のことを知られるより先に、彼女のことを知りたかった


「名前…アオイ、私の名前は、アオイよ。」


「アオ……イ…?」


 僕は告げられたその名前に驚き、聞き返してしまった。


「えぇ、そうよ。私の名前はアオイ。」


 なぜなら……


「奇遇だね、、僕の名前もアオイなんだ。」


 ……僕と同じ名前だったから。


「あら、貴方もアオイなのね。同じ名前同士、なんだか親近感が湧くわ。良ければもう少し、あなたの事を教えてもらえないかしら?」


 次に発された彼女の言葉、頼みに対して、僕にはもちろん、断るという選択肢はなかった。


「もちろん!何でも聞いてよ!」


 僕の返答に対し、彼女は微笑んでくれた。それだけで僕は、どんな質問にも応えようと思えた。


「あら、ありがとう。そうね……なんでここにいるのか、なんて野暮な質問はしないわ。ただ、夏休みの間。今日を入れて、これから30日間、暇かどうか教えてもらえるかしら?私、親の都合で今年の夏休みはここで過ごすことになったの。遊ぶ相手もいないし…。そこで、貴方に私の遊び相手になって欲しいのよ。」


 最高かよ……

 思わず小声で呟いてしまった。

 だって…だって!

 理想の女性と1ヶ月ぐらい遊べるんだよ!しかも毎日!最高じゃないか!


「もちろん!暇だよ!毎日遊ぼうよ!」


 少し食いついすぎたかな……

 もしかしたら引かれたのではないかと、彼女の顔を伺う。


 予想に反し、彼女はむしろ嬉しそうだった。


 良かった…と、心の中で胸をなでおろす。


「では、今日が私たちの夏休みの1日目、ということよね?」


「そうだね、これから30日間、とても楽しみだよ!」


「では、まずはその手に持っているものを捨ててこちらに座っていただける?」


 僕の返事に満足したのか、彼女は僕に自分の横に座るよう促した。


「ありがとう!」


 言いながら彼女の横に座った。

 鼻腔をつく、彼女から香る匂いを嗅ぐと、日向ぼっこをしているかのような気分になった。


「そうね、まずは……」


 prrrrrrrprrrrrrrprrrrrrr………


 何か言いかけた彼女の声を、僕と彼女の携帯の着信音が同時に遮った。


 自分の携帯を開き、電話をかけてきた相手を確認する。

 母だ。

 無言で着信を切った。


 彼女の方を確認する。


「ごめんなさい、アオイ君…親から、家に帰ってこい、と……帰らなければならないわ。ほんとに、ごめんなさい……」


 彼女は心底申し訳なさそうな顔をして、僕に謝った。


「いいんだよいいんだよ、親からならしょうがないよ!さ、心配をかけないように早く帰ってあげて!」


 本当のところは、彼女には帰って欲しくなかった。でも、彼女には彼女の都合があるししょうがない。

 それに今は何より、「アオイ君」と呼んでもらえたことが嬉しすぎて、どんなことでも許せる気がした。


「本当にごめんなさい…明日もまた、来てもらえるかしら?」


「当たり前じゃないか!もちろん行くよ!」


 そんな会話を交わした後、彼女は帰っていった。

 もちろん僕も。


 さぁ、家に帰ったらすぐ、明日彼女とすることを考えないと!

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